五年越しの家族団らん 2
紅茶と焼き菓子のよい香りが漂っているのに、沈黙がちょっと気まずい。
「……」
「ほら、ハルト。お父さまに謝りなさい」
「……う、うん」
ハルトは先ほどから私の後ろに隠れて、旦那様をじっと見ている。
謝らなくてはいけないとわかっていてモジモジしているが、勇気が出ないようだ。
「ハルもこっちに来たら良いのに〜」
一方、ルティアは状況を理解するとすぐに謝り、今は旦那様の隣でちゃっかりと焼き菓子を食べている。
誰とでもすぐに打ち解け、甘え上手のルティア。
穏やかだけれど、人見知りをするハルト。
男女という違いはあるが、色合いといい顔といいそっくりな二人。
けれど性格はかなり違うのだ。
旦那様が立ち上がった。
こちらに近づいてくることに怯えたのか、ハルトがビクリと震える。
安心させるためだろう。旦那様は私たちの近くに来ると、ゆっくりとした動作で膝をついた。
「はじめまして、ハルト」
「……」
「お母さまをよく守っていたと報告を受けている。偉かったな」
「……っ!」
私の背に隠れていたハルトに視線を送ると、頬が上気している。
私の服を掴む小さな手の力が強まった。
五年前は、無表情でそんなふうに思えなかったけれど、旦那様は子どもの心を掴むのが上手いようだ。
家族からの愛を知らなかった私の試行錯誤に比べ、対応がとてもスマートだ。
密かに感心していると、旦那様は困ったように笑った。
「ルティアの性格は君に似ているが、ハルトは俺似なのかもしれないな」
その声は、どこかうれしそうでもある。
しかし、私はちょっと思ってしまった。
旦那様は私のことをそこまで知らないはず。私は自信がなくて人見知りで、どちらかといえばハルトに似ている。
我ながら可愛くないな……と反省していると、ハルトが怖ず怖ずと前に出た。
「――ごめんなさい。痛かった?」
「大丈夫だ」
これで、子どもたちと父親の距離は近くなるのだろう。
そう思ったが……ハルトは謝ると再び私の後ろに隠れてしまった。
ルティアまで、いつの間にか席から立って私にピタリと張りついた。
「やっぱりお母さまの隣がいい〜」
まだ、父子が打ち解けるには、時間がかかりそうだ。
旦那様が、おもむろに立ち上がる。
「……思ったより長居してしまったな。陛下からのお言葉を賜ってこなくては」
「……えっ、陛下をお待たせしているのですか?」
「君と結婚して子どもまで産まれたのに五年も帰ってこられなかったんだ。これぐらいは……」
「は、早く準備を!」
この国において、陛下のお言葉は絶対だ。だから、旦那様は平凡な私と結婚したのではないか。
すでに戻ってきてから三時間以上経過している。雲の上のお方を待たせるなんて……。
「軍服のままで問題ない。行ってくる」
旦那様はニコリと微笑むと、颯爽と去って行った。
私は気を取り直し、子どもたちにおやつの続きを食べさせるのだった。
後日、陛下の気まぐれに私まで巻き込まれるとも知らずに……。
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