表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/58

五年越しの家族団らん 2


 紅茶と焼き菓子のよい香りが漂っているのに、沈黙がちょっと気まずい。


「……」

「ほら、ハルト。お父さまに謝りなさい」

「……う、うん」


 ハルトは先ほどから私の後ろに隠れて、旦那様をじっと見ている。

 謝らなくてはいけないとわかっていてモジモジしているが、勇気が出ないようだ。


「ハルもこっちに来たら良いのに〜」


 一方、ルティアは状況を理解するとすぐに謝り、今は旦那様の隣でちゃっかりと焼き菓子を食べている。


 誰とでもすぐに打ち解け、甘え上手のルティア。

 穏やかだけれど、人見知りをするハルト。


 男女という違いはあるが、色合いといい顔といいそっくりな二人。

 けれど性格はかなり違うのだ。


 旦那様が立ち上がった。

 こちらに近づいてくることに怯えたのか、ハルトがビクリと震える。


 安心させるためだろう。旦那様は私たちの近くに来ると、ゆっくりとした動作で膝をついた。


「はじめまして、ハルト」

「……」

「お母さまをよく守っていたと報告を受けている。偉かったな」

「……っ!」


 私の背に隠れていたハルトに視線を送ると、頬が上気している。

 私の服を掴む小さな手の力が強まった。


 五年前は、無表情でそんなふうに思えなかったけれど、旦那様は子どもの心を掴むのが上手いようだ。

 家族からの愛を知らなかった私の試行錯誤に比べ、対応がとてもスマートだ。


 密かに感心していると、旦那様は困ったように笑った。


「ルティアの性格は君に似ているが、ハルトは俺似なのかもしれないな」


 その声は、どこかうれしそうでもある。

 しかし、私はちょっと思ってしまった。


 旦那様は私のことをそこまで知らないはず。私は自信がなくて人見知りで、どちらかといえばハルトに似ている。


 我ながら可愛くないな……と反省していると、ハルトが怖ず怖ずと前に出た。


「――ごめんなさい。痛かった?」

「大丈夫だ」


 これで、子どもたちと父親の距離は近くなるのだろう。


 そう思ったが……ハルトは謝ると再び私の後ろに隠れてしまった。

 ルティアまで、いつの間にか席から立って私にピタリと張りついた。


「やっぱりお母さまの隣がいい〜」


 まだ、父子が打ち解けるには、時間がかかりそうだ。

 旦那様が、おもむろに立ち上がる。


「……思ったより長居してしまったな。陛下からのお言葉を賜ってこなくては」

「……えっ、陛下をお待たせしているのですか?」

「君と結婚して子どもまで産まれたのに五年も帰ってこられなかったんだ。これぐらいは……」

「は、早く準備を!」


 この国において、陛下のお言葉は絶対だ。だから、旦那様は平凡な私と結婚したのではないか。

 すでに戻ってきてから三時間以上経過している。雲の上のお方を待たせるなんて……。


「軍服のままで問題ない。行ってくる」


 旦那様はニコリと微笑むと、颯爽と去って行った。


 私は気を取り直し、子どもたちにおやつの続きを食べさせるのだった。


 後日、陛下の気まぐれに私まで巻き込まれるとも知らずに……。


ご覧いただきありがとうございます。

☆からの評価やブクマをいただけると執筆の励みになります。

応援よろしくお願いします(*´▽`*)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ