英雄とその妻と双子 3
初めての王城、しかも父親が一緒。
双子は馬車の中ではしゃぎ通しだった。
このまま興奮して会場で走り回ったらどうしよう……。
そんな心配までした。
――しかし、それは杞憂だったようだ。
馬車を降りた途端、二人は四歳児とは思えない大人びた表情を浮かべた。
旦那様も柔和な笑みを消して、よそゆきの表情を浮かべる。
困ったことに普段と切り替えられていないのは、私だけらしい。
引き攣った微笑を必死に浮かべていると、両方の手が繋がれる。
「お母さま、大丈夫私に任せておいて」
「お母さまのことは、僕が守る」
なんて可愛くて健気なのだろう……だがしかし、それでは自分があまりにも情けない。
覚悟を決めて前を向くと、旦那様が柔らかい笑みを浮かべた。
「俺にも守らせてくれ」
「旦那様……」
手の甲に口付けが落とされる。
美貌の騎士団長の演劇の一幕のような姿に、参加者たちの視線が集まる。
「……ここは周囲の目が気になるな。先に行くとしよう」
旦那様の美貌と可愛らしすぎる双子の姿、それだけでも注目されるのだ。
どこに行ってもそれは変わらない気がする。
「君は美しすぎる」
「注目されているの、旦那様ですよ」
「……君には迷惑をかけるな」
向けられているのは蔑みではなく羨望の眼差しがほとんどなのだが、旦那様の自己肯定感は低い。
手を軽く引かれ歩き出す。
子どもたちも私を守るように歩き出した。
何を怯えていたのだろう。
私には心強い家族がいるというのに。
社交界は妻たちの戦場なのだ……と聞いたことがある。
私は参加したことはないけれど、家庭教師たちもそう言っていた。
淡い水色のドレスが歩くたびにふわりと揺れる。
デコルテを彩るのは銀色がかったパールのネックレス。
決意を込めて旦那様を見つめると、彼もじっと見つめ返してきた。
恥ずかしさにうつむくと魔剣が目に入る。
「……王城に入るのに剣を持ったままで良いのですか?」
「騎士団長と近衛騎士は、城内での帯剣を許されている。そもそもこいつが、楽しい宴に参加できないなんて納得するはずがない」
そう言えば、魔剣の宝石が先程からチカチカと輝いている。
――ルンルンッという鼻歌が聞こえてきそうだ。
魔剣はご機嫌だ。人が多いところが好きなのだろうか……。
思えば五年も戦場にいたのだ。
戦場よりは宴のほうが良いに決まっている。
魔剣のことが気になってしまっているうちに、いつの間にか王城のメインホールの前についていた。
「わあ……明かりが宝石でできてる!」
「すごい、金色の飾りがいっぱいある!」
ハルトとルティアは、ほかでは見ることができない煌びやかなシャンデリアや彫像に目を輝かせた。
シャンデリアには本物のクリスタルが使われているのだろう。光を受けるたびに、七色に輝いている。
騎士と女性の金色の彫像は、何かの物語の一幕か。
会場中の視線が私たちに集まる。
今までの人生で一番注目されている。
「……」
「大丈夫だ。背を伸ばせ」
「ええ」
旦那様に軽く引き寄せられ、私は会場へ足を踏み入れるのだった。