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第九話 龍紋 ファフナ

「よし!これで多少はマシになったわ!」


 両の鼻腔にトイレットペーパーを詰めた美少女が俺の前で腕組みをしている。もちろんファフナちゃんだ。


 龍紋 ファフナ。


 紛う事なき『じゃむうま』の主人公だ。原作に入学式前に訓練所に来る描写など無かったと思う。本編では描かれてなかっただけなのか…?

俺は改めて彼女の姿を上から下まで熟視する。うん。やはりファフナちゃんで間違いない。

 身長は俺より少し低い165cm。同年代の女子にすれば高い方だろうか。

 短パンから覗く足は色白でスラリと長い。体つきはスリムだが華奢すぎず、程よく筋肉の付いたいわゆるモデル体型。

 黒に時折金が混じる特徴的な髪は直毛で、普段なら腰まで伸ばしているが、今は運動用にか頭の上で纏めてポニーテールにしていた。

 服装は革鎧。だが、俺と違って自分用なのだろう。革はへたってないし細かな装飾がなされていた高級感漂う逸品だ。

 そして、そして何より顔がイイ…!目が覚めるような、命令されたらなんでも言う事を聞いてしまいたいそうな超美少女だ!

 顔ちっちゃ!超小顔!まつ毛長っ!マッチ棒何本くらい乗るんだろ!瞳も髪と同じく黒と金の入り混じった色をしており、不可思議で吸い込まれてしまいそうな魅力があった。


「…ゾワゾワくるからあんま見んな。

 オ、私そういう視線苦手なんだよ」

「ご、ごめん」


 本気で嫌そうな顔をされて、慌てて顔を背けた。

 彼女、見た目は完全に美少女なのだが、こう見えて中身は30代おじさんだ。

 人前では頑張って女性らしく振る舞ってはいるものの、ふとした時にうっかり男口調に戻ってしまうらしい。

『じゃむうま』本編世界では、誰も見ていない自室にて下着にシャツのみの姿であぐら描きながらスルメを齧ってた。それくらいには中身おっさんだ。

 

「こほん。

で?キミはどうして私のことを知っているのかしら?」


 再び猫を被る、もとい女の子口調で俺に質問を投げかけてきたファフナちゃん。

 俺は必死に考えた言い訳を口にする。


「えっとー…実は俺、貴方のファンでしてぇ」

「ファン?」

「そ、そうそう!実はさっき君が戦うとこ見ててさ!すごい子がいると思って、つい名前を盗み聞いちゃったんだ!いやー、ごめんごめん!」


 どうだ…!

 理由は知らないが、彼女は今訓練所に来ている。それに身に付けた革鎧。

 彼女もまた訓練を受けに来ているのだろう。

龍と英雄の血を引く彼女は人並外れた力を持っている。

 それに本編開始前は両親と山奥で生活を送っていた。そのため本編では世間知らずなところや力の加減を誤るシーンも多々あったと記憶している。

 そんな彼女が人目を引く戦闘を行なっていてもおかしくないと考えたわけだ。


「ふーん、そう。

 私、訓練はまだコレからなんですけど」

「…と言うのは冗談でぇー!!

 実はその前!えっと、入学試験で見かけてさー!」

「ふぅん。つまり前々から知ってたってこと?」

「そ、そうそう!入学試験でたまたま見かけて!ほんとたまたま!」

「入学試験…。そう。君、ワームヴェルトの生徒か。なるほどね」

「な、納得してくれましたかね?」

「でも、私の入学試験は一般とは別の日、別の場所で行われたんだけど。立ち会った人もごくごく限られた1部だけ。

 これはどう説明する気?私は君のこと、まるで見覚えないのだけど」


 そうなの!?そんな話、原作であった!?

 俺の知らない話やめてくれませんかねぇ!!

 冷たい汗が背中を流れる。

 ジト目で俺を睨みつけてくるファフナちゃんが実に恐ろしい。俺、こっから友人ルート入れるか…?

 も、もう素直に転生者と言ってしまうか…?

 でも、それは最終手段すぎないか!?


「まさかウソついてる?」

「い、いやいやいや!まさかそんなこと!

 え…っとお、」


 どうするどうするどうするどうする!

 思い出せ原作を!どうにか誤魔化せる方法はないか!

 …実はキミのご両親に頼まれて見守ってたんだ。

 却下!そんなの連絡されたらすぐバレるし、彼女には既に1人お守り役がいる!そいつファフナちゃんの厄介ファンだから絶対メンドくさい!

 …実は政府関係者で。

 却下!確かに邪龍と英雄の子であるファフナちゃんは、重要人物として多くの人間から注目されている。でも、そんなこと言ったら警戒されまくる!友人ルートどころかクラスでハブられるかもしんないでしょ!

 …実はキミを狙う悪い人で。

 却下!1番却下!確かにこの世界に悪役はいるけど!既に暗躍しててもおかしくないと思うけど!友人ルートから1番遠いだろコレ!

 原作蛇腹と遜色ない末路迎えちゃうってこんなの!


「早く白状しちゃいな?

どうせ碌なのじゃないんだろうけど」


 そう言った彼女の目は冷ややかで、どこか寂しさが覗いている。見ているこっちが悲痛な気持ちになってしまう程に。

やっぱり、本当のことを言ってしまうのがいいのか。しかし、信じてもらえるか…?


「シャー?」


首元から現れたヘビくんが心配そうに小さく鳴いた。大丈夫だよ…大丈、夫。

 ……あっ!ある…!1つある!1つだけ…誤魔化せるルート!!

 でも、大丈夫かコレ…!?

 かなり、いや尋常じゃないレベルの綱渡りが。綱どころじゃなく激細のワイヤーの上を目隠しで渡るレベルの細い道が。


「さっきまでのは全部嘘だ。

じ、実は俺…御三家の人間なんだ、よ」

「…御三家の?」


 結果としてだが、ファフナちゃんの警戒心が更に強まった。


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