第七十一話 帰路
ガタンゴトン…ガタンゴトン…
電車に揺られて向かうは我が家。世界が赤く染まりゆく。ふぅ、今日は特にトラブルの無い1日となった。なんだか久しぶりの気分である。
いや、これが本来当たり前であるべきなんだけどさ。
昼休憩を終えてからは早かった。
明日全て終わる、瞳告くんの言葉を胸に逸る気持ちを抑えながら残る授業を迎える事となった。
5時間目の授業、精霊言語ではクラスメイトのほとんどがその呪文じみた言語と食後の血糖値上昇に敗北し無事熟睡。
6時間目の体育では担当の怠先生が自習という名のドッジボール大会を始め、ファフナちゃんが主人公無双。クラス内の親睦を深める実に良い機会となった。
やっぱり高校というのはこうあるべきだよなぁ。みんなで協力したり馬鹿したり、うんうん唸りながら勉強したり、友情育んで時には一緒に遊びに行ったり、そして時には恋愛したり…等と流れ行く外の景色を眺めつつ、理想の学園生活に想いを馳せていると不意に右方向からぬっと幼馴染の顔が現れた。
「どうかしたどっくん?」
「ううん。来週からもっと学校が楽しくなるかなーって」
「来週?来週って何かあったっけ」
天井見上げて頭を悩ませる落ち葉ちゃんの姿には癒されるものがある。
彼女は俺の身に起きている事は何も知らないし、何も知らせてはいない。当然だ。雄鶏なんて危ない相手の事を教えてどうするというのだ。俺が危険な目に合っているだなんて知った日には、彼女も手伝うと言い出しかねない。それだけは絶対に避けたい。
「なにを難しい顔してるのよジャミラ」
眉を顰めていると俺の左隣から透き通る様な声が飛んできた。当然、ファフナちゃんだ。今日も今日とて乗客の視線を独り占めしながら、その不躾な視線にまるで気がついていない鈍感な彼女は毛先を指で弄んだり爪先を眺めたりと暇そうにしている。
「やっぱり今日も泊まる気なの?」
「当たり前でしょ。苦渋ヶ島くんから連絡も来る訳だしさ。それにまだまだ油断できないでしょ」
「そっかぁ。そうだね」
最早、彼女のお泊まりは甘んじて受け入れる他無い。強引な彼女を止める術は無いし、実際に心の安寧的にはかなり助かっているのは確かな事なのだ。
問題は彼女が女の子である事のみ。しかし、これも明日までの辛抱だ。
というかこれ落ち葉ちゃんも今日また俺の家に泊まる気なんだろうか。
落ち葉ちゃんの方に目を向けると彼女は小首を傾げながら小さく微笑んだ。礼儀としてこちらも微笑み返す。うん、間違いない。今日も来る気だわコレは。
「………で?それはそれとして何シレッといるのヴロちゃんさんは」
「黙れ」
「はい…」
やっぱりハッピーセットが付いてきた。ファフナちゃんのすぐ背後にピタリと無言で張り付く空色の髪の男装少女、ヴロちゃんさんが当たり前みたいな顔でついて来ている。
「ファフナちゃん…」
「ヴロトレキを振りきれなかった私の落ち度よ。悪いけど今日は諦めて」
「ヴロちゃんさん諦めて」
「黙れ」
「はい…」
今日も我が家は賑やかになりそうだ…。
揺れる揺れる電車に揺られて、俺の心も揺れる揺れる。優しさも厚かましさも悉くが突き刺さる。素直になれれば、どれ程楽になれるんだろう。




