第六十五話 ホームルーム
「…蛇腹、お前どうして朝からそんなにボロボロなんだぢょ」
「ねぇねぇ赤髪の君!今日こそ…うわ、大丈夫?」
「むぅむぅ」
「ひでぶ」「シャー?」『ふはは、ひどい顔だ』
朝っぱらから理不尽なまでにズタボロにされた俺に、優しいクラスメイトたちが心配の声をかけてくれる。俺の目の前の席の不機嫌クレイジーサイコレズを除いて。
「ふんっ!」
なんとか誤解は解けたものの、今日も今日とてファフナちゃんが泊まりに来ると知ったらヴロちゃんさんも着いて来そうな勢いだ。
そうなったらハッピーセットで落ち葉ちゃんも付いてくる可能性がある。
更には、奇跡的に昨日出会わなかったアネキが参戦したとなれば最早収拾のつかない事態になること間違いない。どうにかならないものか。というか俺の絶縁宣言はどうなったのだ。
気を取り直して席の近い男子ズと喋くりしていると、チャイムがキンコン鳴り響いた。いつの間にやら時計の針は8時半を示している。時間が経つのは早いものだ。
みんながのそのそと自席に戻る。そういや今日はバズを見てないな。寝坊かな?瞳告くんは席にいたけれど、1人でつまらなそうに読書をしていた。後で雄鶏の件を相談させてもらおう。
彼の様子が少し気になったが、間も無く我らが担任であるオヒゲ先生が今日も今日とて立派なお髭をみょいんみょいんと揺らしながらやって来た。
「さァ、迎えた時刻は8時半。ホームルームを始めるネェ。まずはどうも、おはよう。良い朝だネェ」
「「「おはようございまーす」」」
「うム。良い返事だ。元気が1番だよ。…おや、爆世くんがいないネェ。遅刻かなぁ?
おぉ、蛇腹くん。昨日は早退と聞いて驚いたネェ!今日は元気…そう…か、ネェ?」
オヒゲ先生がボコスカにされた俺を見て、首を傾げた。気にしないでくださいとジェスチャーをすると、チラチラとこちらを気にしながら朝のホームルームを開始した。
「さ、出席を取ろうかネェ。元気よく返事を頼むよ」
ホームルームはサクサク進む。出席確認に連絡事項、今朝校長像の前で長時間寝そべっていた者がいた、昨日屋上にて戦闘の跡が見受けられた、などなど心当たりしか無い連絡に目を泳がせていた。そう言えば屋上バッコバコにしてたわ…。後で謝りに行こう。というかオヒゲ先生、屋上の話の時に俺のことめちゃめちゃチラ見してたな。これもしかしなくてもバレてるな?
「心当たりのある者は後ほど、職員室に来るようにネェ。心の準備が出来てからで構わないよ。それでは今日もご安全に」
オヒゲ先生がにこやかに笑ってホームルームを終えた。怒られるのかなぁ。まぁ、普通に考えたら怒られるんだろうなぁ。
とほほ、と頭を抱えているとオヒゲ先生と入れ替わりで壮年の男性が教室へとやって来た。
ワームヴェルトのエンブレムが入ったローブを羽織った白髪頭の男性教諭だ。右目から左の頬まで斜め一文字に走る刀傷を付けた彼が1時間目、スキル学の担当教諭である那由多万先生なのだろう。
彼が入ってくると同時に入り口近くのファフナちゃんの背筋が伸びた。よっぽど楽しみにしていた授業らしい。
教壇に立った先生は何も言わずに、懐から取り出した懐中時計をただただ睨み付けるばかりだ。もうじき1時間目開始の鐘が鳴る。掛け時計を見てそう思ったのも束の間、那由多万先生の口が開かれた。
「…3秒、2秒、1秒」
懐中時計の蓋を閉じる。瞬間、
キーンコーンカーンコーン
チャイムの音が鳴り響く。すると先生はパチンと蓋を閉じた懐中時計を懐に仕舞い、代わりに取り出したのはステンレス製のホルダーに取り付けられた長い長い白チョークだ。
テキパキとした動きで目の前の黒板を軽く叩き、凪の様に澄んだ瞳で俺たちをザッと見回した。
「さぁ時は零を擦り切れた。起立したまえ親愛なる凡百共。お前たちが愛してやまないスキルについての授業を始めよう」
「礼」
学園生活3日目。これまた濃いキャラの先生の元、今日の授業が幕を開けた。




