第六十三話 3人での朝
チュンチュン!
ピヨピヨ!
チチチ…
朝だ!あ〜さ〜だ〜よ〜!
小鳥さんたちの囀りを耳にしながら爽やかな朝を迎える。随分と体が軽い。1日でかなり体力を回復出来たみたいだ。
スッキリした気分でベッドから体を起こそうと、…やけに柔らかいな。今日の敷布団はやけに柔らかいぞ。この手にピッタリフィットなこれはなんだ?その感触はふにっとしていて、実に低反発。
「ん?」
「すぅ…すぅ…」
わぁ。デッカい人型抱き枕。綺麗な金と黒の鮮やかなグラデーションが、俺の簡素な敷布団に彩りを与えてくれて実に良い。それにもっちりふんわりな手触りが素晴らしいね!ツチノコぬいの倍くらい柔らかいや!それに、この衣服の下から直接伝わる人肌の暖かさと言ったら、…おや?一部分だけ感触が違うぞ?突起があるというかなんというか…あ、これブラ付けて無いわ。あはは。
「死にまーす」
「ふあぁ…もう朝かぁ。ってアレ?なんでオレ、ジャミラの部屋に。っておい!何で起き抜けに窓から飛び降りようとしてるんだお前!?」
「殺してくれ!俺は俺が許せない!こんなトンチキ野郎は世のため人のために地面と激しいキスでもした方がいいんだよ!」
「ワッケ分かんねぇコイツ!おい起きろシマシマ!お前もこのアホ止めろ!」
『ぐぇ。ふぁ…朝っぱらから不快な気分だ。最悪の目覚めだぞ』
ファフナちゃんに叩き起こされたシマヘビくんが、ぶぅぶぅ文句を言いつつ俺の体とベッドに巻き付いた。ファフナちゃんとシマヘビくんの相乗効果で最早身動き一つ取れないと来た。
しかし、死んでも死に切れない。どうして昨日からこんな事ばっかなんだ。
「というかなんでブラ付けて寝てないんだよ!形が崩れるらしいぞ!もっと自分を大事にしろ!」
「あぁ!?自分を大切にするのはお前だろ!こっちはなぁブラ付けて寝たら息苦しいんだよ!…ってなんで寝る時、ブラ付けて無いの知ってんだ!」
『不快極まりないぞ』
朝7時とは思えない喧騒に包まれ、爽やかさなど欠片も無い実に賑やかな起床となった。
チュンチュンw
ピヨピヨw
チチチw
心なしか愉快な空のお友だちも煽ってきている気がしなくもない。ぎゃいぎゃい口喧嘩して遅刻するのもよろしくないので、2人して言い合いを続けながらもベッドから降りる。
「いや、そもそもなんで俺のベッドで寝てんの!?それがまず分からないんだけど!」
「話逸らすな!お前、オレの胸触ったのか!?それとも見たのか!?…マジに記憶消すしか無いよな!もうこれは!」
ぐに、ぐにょ
「ぐえ」
「ぐに?」
「ぐにょ?」
ぐに?ぐにょ?ぐえ?
不可思議な感触が足裏に伝わってきた。なんとなしに右を向けばファフナちゃんと目が合った。続いて2人して下を向けば、足元に転がるのは見慣れた彼女。幼馴染の落ち葉ちゃんがカーペットの上に無惨に転がっていた。彼女はまるで轢かれたカエルの様な無惨なポーズのまま、なおも快眠中であった。
落ち葉ちゃんは一度苦しそうに眉を顰めると、むにゃむにゃ言いながら丸出しのお腹を掻いて寝言を一言。
「うぅ〜…お腹が重たい…。もう食べられないよう〜…ぐぅ…」
間の抜けた格好でぐぅぐぅ眠る彼女。呑気で羨ましい限りだ。てか、なんで落ち葉ちゃんも俺の部屋にいるんだよ。
…
……
………
「いや〜、寝惚けてどっくんの部屋に行っちゃったみたいだねぇ」
「ほんとぉ?」
「…」
『ぐぅぐぅ』
酷い寝癖を付けた落ち葉ちゃんが大きなアクビをしながら後ろをついてくる。ファフナちゃんはというと先程から目が座っていて非常に恐ろしい。3人揃って階段を降りている訳だが、最後列の彼女の視線がザクザクと突き刺さってくる。
ちなみにシマヘビくんはというと俺の首に巻きついて、二度寝の真っ最中だ。リビングの扉を開けると香ばしい油の焼けた匂いがふわりと漂って来た。すると後ろから「ぐぅ」と大きな音が一つ。
ぐぅ〜
「わ、腹ぺこあおむしだ」
「落ち葉ちゃん昨日あんなに食べたのにねぇ」
「え?今のわたしじゃないよ?」
「え?…じゃあ」
最後尾を振り向くと、眉間に皺を寄せお腹を抑えたファフナちゃんが俺を睨みつけていた。そして耳を赤くしながら小さな声で、
「…私よ」
………。落ち葉ちゃんと顔を見合わせた。どちらからともなくニヤリと笑みを浮かべて、ファフナちゃんを指差した。
「う〜わ、腹ぺこドラゴンだ!」
「ひゃあ!貪食どらごん!」
「うるさいうるさい!」
『実に煩い』
三者三様に騒ぎ立てながらリビングに入ると、母さんは食卓に朝食を並べている最中で、父さんは洗い物をしているところだった。
「おはようですねー。ご飯の用意は出来てますよー」
「おはようさん。朝から賑やかやなぁ。若いってええわぁ」
「おはよ。姉さんは?」
「昨日、夜遅ぉに帰って来たわ。昼頃まで寝とるんちゃうかな」
「なんと彼女さん連れですー」
「Oh…」
「おはよ〜。わ、ベーコンエッグだぁ!わたしベーコンエッグ大好き!」
「おはよーございます!すいません!何も手伝わなくって!ホントありがとうございます!」
「いいんですよー。美味しく食べて貰えたら十分十分ー。お父さんトースト焼けましたよー。独くんはサラダとオカズだけですねー。落ち葉ちゃんはベーコンエッグ丼にしちゃいますかー」
「うん!ありがとう巳白さん!」
「ファフナさんはパン派ですか、それともご飯派ー?」
「あ、ご飯でお願いします!」
「はいはいー。どうぞおどりゃドカ盛りー」
「おぉ、これまたスゴい量…。い、いただきます…」
「いただきまーす。父さん醤油」
「父さんは醤油ちゃうで」
「いただきまっ!八さんマヨネーズ!」
「はいな落ち葉ちゃん。ようけ使ったってな」
「なにこの扱いの差」
『良い匂いだな。腹が減ったぞ』
「はいはいシマヘビくん。ベーコン1枚分けたげる」
『はぐはぐ。んまいんまい。でも足りないぞっ』
「あっ!このヘビ、私の目玉焼き食べやがった!返せジャミラ!」
「俺!?おわー!俺の半熟さん!」
「ぐぁつぐぁつ!むしゃむしゃ!」
「みんなホンマ元気やなぁ。ほらファフナさん、僕まだ手ぇ付けてないから僕の食べぇ」
「足りないでしたらまだまだ焼きますよー」
今日も今日とて賑やかな1日になりそうだ。実に実に騒がしい朝の始まりが、そんな予感をさせていた。




