第六十二話 お泊まり1日目終わり
「…うぅ」
「……お前記憶消せよな」
「…………が、がんばります」
あまりに無茶な努力を要求されたのは自室での事。
全裸並びに下半身陳列罪が適用されたのも遥か昔。あれからしばらく浴室に引き篭もっていたものの、いい加減湯冷めして来た事もあり、くしゅんくしゅんとクシャミをしていたら、ふと洗面所の方からドアがノックされ、「…出て来ていいわよ」とファフナちゃんからの鶴の一声。
そそくさとお着替えし、そこからは落ち葉ちゃん、ファフナちゃんが入れ替わりで烏の行水的入浴を終えた次第である。この間、言える事があるとすれば、誰一人として目が合う事は無かったし会話もまるで無かったという事くらいか。
そして気がつけば、何故か3人で俺の部屋に集まっている訳だが…。
「…うぅ」
「……お前記憶消してやろうか」
「……………え、遠慮しておきます」
三角形に向かい合って、俺たちは床に腰を落ち着けていた。女の子座りをした熱ったお顔の落ち葉ちゃん、胡座をかいて腕組みしている不機嫌そうなファフナちゃん、そして正座で小さくなっている俺という構図だ。
…ファフナちゃんって夜は髪型変えるんだなぁ。耳下で束ねたゆったりツインテはかなり新鮮だ。おそらく眠る時の髪へのダメージを気にした対策なのだろう。
「なに見てんだコラ」
「申し訳…」
…俺は真っ当に被害者だと思うんだけどなぁ。でも嫁入り前の女の子たち(1人おっさん)のアラレもない姿を見たのも事実。ここは反省の意を示す他無いのだ。
「本当に申し訳…」
「は、反省しろコラ〜」
「反省してます…」
「ドラゴン後頭部パンチでどうにかなるか?」
「ご勘弁…」
茶化すフェイズに入り始めた落ち葉ちゃんとは対照的に、ファフナちゃんが恐ろしい事を言い始めた。多分失うものは記憶どころじゃ済まない。ギャグ漫画みたいにお目目が飛び出すと思う。物理的に。
ここは無理にでも話題を切り替える他、無さそうだ。
「…っそうそう。寝る時だけどね!隣の客間が空いてるからさ!寝るのは2人ともそっちでお願いね!」
「え、わたしも?」
「当たり前定期」
「そんな定期は無い定期」
定期、定期と言葉を重ねて落ち葉ちゃんと無限ループに陥っていると、「あ!」と一音大きく叫んだのはファフナちゃん。
「ねぇ!宿題やんの忘れてた!ジャミラはともかく落ち葉は?やった?」
「あっ!すっかり忘れてた!早くやらないと!」
「え?宿題あったっけ?」
今日一日、考え事ばっかりで授業は正直耳に入ってなかったんだよな。それに後半は授業抜けちゃったし…
「あっ、そうだ!落ち葉ちゃん授業ノート写させて!しょっぱなから出遅れは流石にマズい!!」
「そんなん私もよ!落ち葉お願い!」
「えぇーっ。しょうがないにゃあ」
大慌てで落ち葉ちゃんに宿題と出れなかった授業内容を教えて貰い、全てを終える頃には気がつけば時刻は22:00。
明日もまだまだ学校だ。日付が回る前には就寝したいし、健やかな成長とお肌の健康の為にもそろそろ眠るべきなのだ。
「よし!明日も学校なんだしそろそろ寝よう!ちゃんと寝ないとお肌に良く無いよ」
「ん?あぁ、ホントだ。時間経つの早いわねぇ」
「ホントだ!もうこんな時間!そうだね早く寝よ!それじゃ、おやすみファフちゃん。また明日!」
しれっと落ち葉ちゃんが俺のベッドに潜り込んで、ファフナちゃんに手を振っている。なにやっとるんじゃい。ファフナちゃんも呆れた様子だ。
こちらがすっとドア向こうを指差すと、落ち葉ちゃんは頬を小さく膨らませ、「いやだいやだ」と首を横にふるばかり。
「あっち」
「いやいや」
「寝室はあっち!」
「ぶぅ」
「ぶぅじゃない!あっち!」
「ほら落ち葉行くわよ」
「ぶぅ〜」
3度の押し問答でビクともしなかった落ち葉ちゃん。同衾を拒否され続け、頬をぱんぱんに膨らませたハリセンボンな落ち葉ちゃんが、ファフナちゃんに引き摺られて俺の部屋を後にした。
『やれやれ、ようやく煩いのが居なくなったか』
はぁ、色々と騒がしい一日だったなぁ。ベッドに横になりつつ、1日の疲れを溜め息と共に吐き出した。シマヘビくんが長い体を引き伸ばし、大きく伸びをしている。
明日はちゃんと授業に出たいものだ。でも、もしも雄鶏 撮多寡が、近くをウロウロしてたらと思うと背筋がゾワゾワする。
明日、授業の合間を縫って瞳告くんに相談させてもらおう。警察関係者が家族にいるという話なので、彼の伝手でどうにかこうにか守ってもらえないだろうか。
ファフナちゃんが守ってくれるという話だが、中身おっさんとはいえガワは紛れも無い女の子。例えチートパワー持ちの主人公といえど1人の女の子なのだ。出来る事なら巻き込みたくない。これは俺の問題なのだから。
掛け布団を深めに被り、考え事をしているとシマヘビくんがぐるりと俺の首元に巻き付いてきた。
『また1人で抱え込んでいるなジャミラ』
「…よく分かったね」
『あぁ、分かるとも。分かってやれる。さぁ、胸につかえたその苦悩。私に吐いて楽になれ』
「今日は随分と優しいね」
『私はいつだって寛大だぞ。…なぁに、直に全て終わる。すぐにこんな悩みも笑い話に変わるだろう。お前の悩みも綺麗さっぱり、綺麗さっぱり無くなるとも。後に残るは楽しいだけの人生だ』
「…そうだね。そうなるといいね」
『なるさ。最後に笑うは私とお前だ、ジャミラ』
やけに自信満々なシマヘビくんの言葉が妙に沁みる。彼の尾の先が優しく俺の頭を撫でた。まるで幼い子どもの様にあやされながら、ポツリポツリと言葉を交わし、少しずつ意識は沈み、深い眠りに堕ちていく。
………
……
…
深夜1:00
ゴソゴソ
「………ふっふっふ」
「…ふぁ、落ち葉どこ行くのぉ」
「ッ!お、起きてたのファフちゃん!?」
「こういうの敏感なんだよぉ。ねむ…くぅ…」
「…寝ぼけてる?」
「そんにゃこと…」
「…ふっふっふ。ほらほらゆっくり寝てなよ。わたしはちょっとどっく…お手洗い行くだけだからさ。ほらほらおやすみおやすみー」
「オレもいく…」
「げっ」
「…いま、げって言ったかぁ」
「い、言ってないよ〜。じゃ、じゃあ一緒に行こっかぁ」
「うん、いく。つれてって…」
「とほほ〜」




