第六十一話 ばばん ば ばんばんばん野蛮
結局、俺からお風呂に入る事になりました。普段なら軽くヨガファイアしてから入浴するのだが、今日は身も心もほとほと疲れ果てたのでカットである。
落ち葉ちゃんとファフナちゃんは俺の部屋で待機中だ。一体どんな話をしているのか気になる限りだが、仲良くしていてくれたら万々歳だな。部屋を漁ったりは勘弁だけど。
「はー、びばのんのん」
やっぱりお風呂はいいね。いつもは黒ヘビくんや白ヘビくんが優雅に浴槽を泳ぐ姿が見られるのだが、今日はスキルを使いすぎた影響でまだ召喚できそうにない。
何故か出入り自由なシマヘビくんもお風呂嫌いなので、出てくるつもりはちっとも無い模様だ。
「こうも静かなお風呂は久しぶりだなぁ」
たまにはこういうのもいいか。後が閊えるから長時間ゆっくりしてる暇は無いけど、それでも気分転換にはなるというものだ。
なんとなしに右手を見ると、治してもらったナイフの刺し跡がほんのりと赤く色づいている。まだあの戦闘から半日しか経ってないんだなぁ。
「…そういえばあのニセ櫂毒、なんで急に消えたんだ?」
おそらくスキルにより形作られたあのニセ櫂毒、もといバズもどきが急に形を保てなくなった理由はなんだったんだ?
あの時は息を吐く間も無い状況だったから、そこまで頭が回らなかった。
スキルの効果時間を超過したのだろうか。それともスキル使用者、雄鶏 撮多寡のスキルの有効範囲から脱したのだろうか。
いや、話では東日本各地で同時誘拐を行ったというのだから、スキル有効範囲はかなり広いと思われる。そして瞳告くんが言うに、彼は今この近辺に潜んでいるハズ。範囲外はまず候補から外していいよな。
…う〜ん。あの時、俺は何をしたんだっけ。確か彼のエアプ演技っぷりに我慢出来なくなって文句付けまくって、それで…
「いや落ち葉なにやってんの!?」
「止めないでファフちゃん!女は度胸なんだよ!」
?
不意の声に思考が切り替わる。どうも洗面所の方が騒がしいぞ。声はこもっていて聞き取りづらいが何やらザワついている様子だ。
ゴッキーでも出たのかしら。Gから始まる黒いやつー。いーやーいーやーよー。ヘビくんがオモチャにし始めるからマジで嫌なのよね。どうか仕留めちゃって欲しい。
「幼馴染だから!わたし、どっくんと幼馴染だから!」
「幼馴染って高校入っても一緒に風呂入んの!?それやーばいでしょ」
選別は始まってるんだよね。
…って2人とも何やってるんですかね?洗面所に繋がる扉は磨りガラス製だ。ロングヘアのファフナちゃんとショートカットの落ち葉ちゃんらしき2つの影がわたわたと激しく蠢いている。
「ふぅん!」
「うわぁ!豪快な脱ぎっぷり!馬鹿、お前!顔真っ赤にしてやることじゃねぇって!」
「入るったら入るの!ファフちゃんには負けないんだから!」
「なんの勝負だよ!?なんでお前らこうも一方通行なの!?」
どんどん騒がしくなって来てるぞ。大丈夫かな?喧嘩とかじゃないよね?
いざとなったら俺の激おもろギャグ、怪奇ヘビ乳首マン(ヘビくんスカートを添えて)を披露しながらの介入も辞さない。なんだか妙に落ち葉ちゃんのシルエットが肌色肌色している気がするけど。
「じゃ、じゃあファフちゃんも入りなよ!これでフェアでしょ!」
「じゃあって何!?…うぉわぁ〜!無理やり脱がそうとするなアホ!チカラ強っ!」
「ぐぬぬぅおあ〜っ!おっ、お願い『花ン華ん陀羅』!」
磨りガラス越しの影が一つ増えたぞ。あの大きな体躯とヘビに似た下半身、陀羅ちゃんだな。なんでスキル発動してんの???
『…ドウシテ、ワタシハ召喚サレタノダ。ソシテ落ち葉、オマエハドウシテ裸ナノダ』
「手伝って『花ン華ん陀羅』!目標はファフちゃんの衣服!一緒に行くよ!」
『エェ…?』
「に、2対1とは卑怯だぞ落ち葉!本気出したらお前もコイツも一発なんだからな!」
「でも出来ないッ!そうでしょう!」
「…ッ!!!」
ファフナちゃんの影がビクリと震えて後ずさる。なに?なんかバトル展開始まっちゃってる?
「ファフちゃんはとっても強い。そうだよね。わたしなんか一発でメシャメシャに出来るし、この家の壁もビスケットみたいに簡単に粉々に出来ちゃう。でも、それは今のファフちゃんには出来やしない」
「…くっ!」
「それは何故か!ここがどっくん家で、相手がこのわたしだからだ!勝った!フェアネスに行くっ(訳:一緒にどっくんとお風呂に入りましょう)!」
「くそぉぉぉぉぉっ!!!」
『帰ッテモイイカ?』
ドドドドドド…!
なんか変な効果音が幻聴して来たな。やっぱ疲れてんのかな。風呂上がりたいけど、扉前に2人がいるから出るに出れないんだよなぁ。
「『花ン華ん陀羅』!ツタで手足を拘束!後ろに回り込んで!」
『人使イガ荒イ…』
「くっ!うっ!植物系はこれだから厄介…っぎゃあああ!むっつり!変態!オレを巻き込むな!どすけべ落ち葉!」
「うおおお!獲ったどー!」
…!!!
磨りガラス越しに見えた景色に酷く驚愕した。なんと落ち葉ちゃんがファフナちゃんにマウントを取っているではないか!更には拳を振り上げて…!こ、これはいかん!
俺は急ぎ風呂から上がり、腰にタオルを巻きながら勢いのままに扉を開け放った。
「ま、待ちたまへよキミたち!喧嘩はよく無い!仲良く行こ………う?」
「あっ」
「い!?」
扉の先の光景に目を疑った。まずはファフナちゃんのマウントを取っていた落ち葉ちゃんの方を見る。がっちし目が合った。
落ち葉ちゃんは何故か全裸。あんなに食べたのにほっそりしてるなぁ。太りにくい体質なんだなぁ。………って全裸?
更には振り上げられたパンチは、パンチではなくパンツだったのだ。何を言ってるか分からないと思うが……パンツ?随分と大人っぽい黒のパンツが彼女の右手に握られている。一体誰の…?
続いて床で仰向けになっていたファフナちゃんの方を見る。ばっちり目があった。彼女はひっくり返されたカブトムシみたいなポーズで固まっていた。ちゃんと学生服は着ていた。上だけだったけど。
………。
「スカートは」
『コレカ?』
「あぁ、それそれ」
陀羅ちゃんがツタに絡めたスカートを見せてくれた。気が利くなぁ。
「パ、パンツは?」
『アレダ』
「あー、なるほどね」
陀羅ちゃんが落ち葉ちゃんの振り上げた拳に握られている布切れを指差した。お風呂でサッパリしたばっかりだったけど、嫌な汗が背中を伝う。
無言を貫いていた2人の顔が見る見るうちに赤くなっていく。俺は迷わず浴室へ戻る事を選択した。
「し、失礼致しましたー」
「いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「バカぁ!!見んなアホ!!!最悪最悪最悪最悪!!!!」
磨りガラス越しに大暴れする2人が目に入る。
ここを永住の地としよう。あ、鼻血出てきちゃった。いやぁ、この後どうしようかなぁ…。気まずいなんてもんじゃないぞ。
洗面所に飛び交う石鹸やら歯ブラシやらを扉越しに眺めながら、長々と頭を悩ませるハメになったのは言うまでもない。




