第五十七話 蛇腹家訪問その2 サイド:洛陽 落ち葉
「な、なんでファフちゃんがここに?」
まず初めに私の口をついて出たのはそんな言葉だった。ぐっと堪えようとしたけれど、我慢できなかった。だって気になる。それに2階から降りて来たよね?おそらくどっくんのお部屋から。
「なんでって…、えーと」
なんで言葉を選ぶ様に目線を逸らすんだろ?やましい事でもあるのかな?
…ってダメダメ!友だちを疑うなんて!もしかしたら気を利かせて、どっくんのお家まで着いて来てくれたのかもしれないしね!もしかしたら階段を昇るのを手伝ってあげたのかもしれないし!ほら、ファフちゃん力持ちだから!
そうそう!なんでもかんでも疑うのは良くないよね!わたしの事を気にして言葉を選ぼうとしているのかもしれないし!
よぉし、ここはわたしの方から言ってあげないと!いやはや、いらない気の使わせ方をさせちゃったなぁ!反省反省!
「もしかして、どっくんの為について来てくれたの?」
「あ、うん。まぁそんな感じかな」
やっぱりそうだ!や、やだなぁわたし!なんか1人で嫉妬なんかしちゃったりして!恥ずかしい恥ずかしい!
「そっかー!今日はどっくんがお世話になりました!ありがとうね!」
「あはは、なにそのジャミラのご家族みたいなセリフ」
「えへへ、そうかな?…それじゃ、また明日ね!暗くなってきたから気をつけてね!」
「いや、泊まっていくけど?」
「…は?」
は?
「うぉぉ…!落ち葉ちゃんから黒いオーラが噴き出しとる!あんな落ち葉ちゃん久しぶりや!」
「フリッカージャブはこうー」
八さんと巳白さんが何やら言っているが、正直今はそれどころじゃない。何がどうなってどういう理由でファフちゃんがどっくん家に泊まるの?
聞き間違いかな?聞き間違いだよね?まさか、ね。念の為に聞き直しておこう。
「ファ、ファフちゃん?今…なんて?」
「お泊まりよ。ジャミラの部屋に泊まるの」
さらりと目の前の彼女はそう言ってのけた。
な、なるほどぉ。わたしでさえ中学入学と共にどっくん家へのお泊まりを控えたって言うのにお泊まりするんだぁ。それもどっくんの部屋で。へぇ、ふーん。
「なるほどねぇ」
「お、落ち葉?なんだか顔が怖いわよ?」
「気のせいだと思うよぉ。あ、わたしちょっと帰るね。わたし、どっくんのお隣さんだからすぐに帰ってくるけどね」
「え、うん?帰ってくるんだ」
「うん。どっくんのお家に帰ってくるよ。すぐに。ダメかな」
「いや、全然ダメじゃないと思うけれど。ジャミラも喜ぶんじゃない?」
な、なんて涼しい顔で言ってのけるの…!わたしという邪魔が入るってのに!これが世に言う正妻の余裕ってやつ…!?
まだ出会って1週間という短い期間なのに、10年来の仲であるわたしが敗北感を感じているなんて!まさか愛は育んだ時間ではなくて、密度の方が大事だって言うの!?
「修羅場や!視線のバチバチが手に取るみたいに見えるわ!」
「ファフナさんは全然相手にしてないわー。強者の余裕ですねー。落ち葉ちゃんがんばってー」
くっ!状況はアウェイ!ここは一時撤退して立て直すぞ!撤退撤退撤退撤退!アイムホーム!ゴーホーム!
身を翻し、中庭から飛び出すと「また後でね」と余裕綽々に呑気かましたファフちゃんの声が背中へと飛んでくる。わ、わたし負けないんだから!
「お母さーん!おばあちゃーん!わたし今日どっくん家に泊まるー!」
学生鞄を玄関に放りながら居間に向かって声を掛ける。そのままドタドタと忙しなく2階の部屋へと駆け上がり、急いでパジャマや歯ブラシなどをリュックに詰め込んでいると、ぬっと2人の女性がドアの方から顔を覗かせた。お母さんとおばあちゃんだ。
「マザザザザ…遂に落ち葉も独くんを射止める時が来たんだねぇ。女は度胸。既成事実が一番効くわよ。ねぇ、お義母さん」
「グランマママ!独葉巳は軽く見えて実は重い男しゃ。がっぽりずっぽし行けば、もう落ち葉しゃんしか目に入らんしゃろうのう」
よく分からないけれど、お母さんもおばあちゃんも応援してくれてる!
ドキドキした気持ちに加えて、じわりと暖かさが胸に広がっていく。
「よし、準備できた!行ってくるね!」
「待ちな落ち葉。火打ち石をカンカンするやつをやってやろう」
「俗に言う切り火ってやつだね!」
縁起が良さそう!3人仲良く玄関まで向かうと、お母さんが着物の袖から取り出した火打石と火打ち金にドボドボと愛飲しているエタノールをかけ始めた。
「火が付いた方が縁起がより良さそうだろう?」
「お、お母さん…!ありがとう!」
「マザザザザ…!可愛い娘の為さ!ふぅんっ!えぇいっ!きええっ!」
カン!カン!カン!…ボッ!
「行ってきな落ち葉!勝利をこの手に!」メラメラ
「うん!頑張る!」
「落ち葉しゃん。がっぽりずっぽししゃよ」
「うん!がっぽり?ずっぽし!」
おばあちゃんのよく分からない合言葉に力強い相槌を返し、いざ出陣だ!2人の見送りを背に戦場へと駆け出した。
くるりと後ろを振り返ると、メラメラと燃え盛るお母さんが段々と暗くなり始めた夜の空で一際眩しく輝いていた。
ファフちゃん!負けないからね!
「こんばんはー!不肖落ち葉!お泊まりさせていただきたくお願い申し上げまーす!」




