第六話 戦闘訓練所に行こう③
『ぷみー!』
赤く発光していた魔法陣からポヨンと飛び出したのは、スイカ玉くらいのサイズ感をした水色のゼリー玉だった。
ブルースライムと呼ばれるそいつは、ぼよんぼよんと何回か地面を跳ねて転がる。
「かわいい」
「かわいい」
「可愛いだろう!しかし油断大敵だネェ!」
『ぷみゅみっ!』
「かわいい」
「かわいすぎる」
「可愛過ぎるだろう!しかし油断大敵だネェ!」
オヒゲ教官の叱咤激励が飛ぶが、正直気が抜ける。油断大敵と言われても、だ。
ボインボインと地面を飛び跳ねてちょっとずつ近づいてくるその姿は実に愛くるしい。
もしかしたら、この可愛らしさこそが彼らの生存戦略なのかもしれない。
位置は俺が前衛、落ち葉ちゃんが後衛。
スライムは見るからに隙だらけで、ただただポヨンポヨンしている。
…こちらから攻めてしまおうか。
「落ち葉ちゃん!俺は詰めに行くから!
もしも俺が逃した時に狙える様に、矢を構えておいて!」
「っわかった!任せたよどっくん!」
「おぉらぁぁぁぁぁ!!!!」
落ち葉ちゃんに指示を出し、駆け出した。
コートの手前側から中心部へ、走り出してしまえばあっという間にスライムは目の前だ。まだ彼はのんきにぶにぶにと揺れるばかりだ。勢い任せに剣を振りかぶった。
だが、
(重っ…!)
剣の重みに後ろに仰反る。慣れない剣が実に重い。
気を抜けば振り回されてしまいそうだし、下手に扱えば手首を痛めてしまいそうだ。
ここは早急に決着をつける…!
「おおおおおっ!」
『ぷみもみっ!』
想像よりも振り下ろしのスピードが遅い…!
筋力が足りない証拠だ。でも、スライム程度なら…!
当たる。
『ぷみゅ!』
剣がすぐ目の前に来て、彼はようやく反応した。でも、もう遅いっ!
「やっちゃえどっくん!」
「おぉりゃああっ!」
『ぷみゃみゃみゃっ!!!』
「…っえ!?」
突然のことだ。
スイカ玉サイズのかたまりだったスライムが剣が触れる瞬間に、シートを広げる様に一瞬にして大きく横に広がったのだ。
「んぶっ!?」
剣が当たっていない…!それどころか、いつの間にか俺の顔全面にはその彼がべったりとへばりついていた…!
まずった!ビックリして思わず息を吸ったのも不味かった。
勢いよく喉奥にまでスライムが滑り込み、前後不覚に陥ってしまう。
「ど、どっくん!」
「ごぼぼぼば!?」
「もがけばもがく程にスライムは気道を防ぎにかかるネェ!そして、ああ見えて味は特別苦い!」
「にばぁーーっ!!!」
「どっくーん!!」
オヒゲ教官が何やら言っているがそれどころでは無い。…そうだっ!スキル!
「『ごぼぼがぼぼ』っ!!」
「「「シャぼぼぼぼぼ」」」
「うおぉぉぉ!どっくんの頭がボウフラの湧いた水溜まりみたいに…!」
ダメだ!全然ダメだ!
ヘビくんたちをいくら召喚しても、みんな溺れるばかりでどうにもならない!
「ようやくスキルを使ったネェ。
やはり説明だけではなく、身を持って知るのが1番なのかもネェ。
気を張り過ぎると視野が狭くなる。柔軟な発想こそ肝要だ。
しかし蛇腹くん。今の使い方ではよろしくない。洛陽くん、弓矢では危険だ。キミもスキルで助けてあげるんだネェ」
「は、はい!お願い『花ン華ん陀羅』!」