第五十二話 驚愕の宣言(お泊まり)
なんで櫂毒と言い、俺とファフナちゃんが付き合ってるだなんて勘違いするヤツばっかなんだ。
「照れんなって」
「照れてない!俺とファフナちゃんはそもそも…」
「なら茶髪女と付き合ってんのか?」
「いや落ち葉ちゃんはただの幼馴染だよ!」
「男装女は?」
「ヴロちゃんさんが俺と付き合う訳ないでしょ!」
「なら、龍紋 ファフナと言う名の人生しかいねぇじゃねぇか」
「3択なの!?誰とも付き合ってないっていう選択肢はどこにも無いの!?」
全身全霊を持って彼の言葉を否定する。実に困ったモノだ。バズは訓練所で出会った時から、ずっとこの勘違いをし続けてるフシがある。それで一回殺されかけてるからねこっちは。しかも、訂正してもこれだから困ったものだ。
「なんで私とジャミラが付き合ってるって話になんの!」
ファフナちゃんも当然ご立腹だ。当たり前だろう。だって中身がおっさんなんだもの。彼女は眉間にヒビを作りつつ、俺の事をビッ!と指差してきた。
「こいつには落ち葉がいるでしょ!」
「いや、だからぁ!」
最早、阿鼻叫喚である。こっちもこっちで勘違いしてやがる。どうして若者ってヤツは誰と誰が付き合ってるって話に持って行きたがるんだ…!いや、ファフナちゃんの中身おっさんだけど…!
「助けて瞳告くん!この2人の勘違いが止まらないの!」
「…え、蛇腹くんって龍紋さんと付き合ってるんでしょ?」
「もうダメだ!」
唯一のオアシスである瞳告くんも既に陥落していた。絶望的である。雄鶏 撮多寡の話なんてすっかり忘れたみたいにみんなでわーきゃーと大騒ぎだ。
終いにはバズに揶揄われ続けたファフナちゃんが痺れを切らし、対櫂毒用に生み出したというダブルラリアットで回転し始めたり、バズが起き攻めをくらい続けて「くにへかえるんだな。おまえにもかぞくがいるだろう…」なボコられ方をしたりと、気がつけば4限目の授業も残り5分に差し迫っていた。
「マジにボコりやがって、龍紋 ファフナと言う名の人生がよぉ…」
「つんっ!」
「爆世くん動かないですよぉ。治療の最中ですからねぇ」
バズはと言うと、つい先程山ほどの雑巾を抱えて戻って来た保健室の御手奈先生に治療を受けている。
スキル『神の御手・左』があればコルセットでガチガチの両腕も一発で治癒出来るかと思えば、骨折などの傷には使わない方が言いとの事だった。なので今はファフナちゃんにボコられた顔を治している最中だ。
「ジャミラ」
「…?どうしたのファフナちゃん」
不意にファフナちゃんに声を掛けられた。見れば彼女の顔は真剣そのものだ。なんだかイヤな予感がする。
でも、無視できるほど俺は図太く無いし無神経ではいられない。彼女の黒金の瞳を見つめ返すと、彼女は眉一つ動かさず淡い桜色の唇を動かし、
「今日からしばらくジャミラの家に泊まってあげるわ」
「はい?」
はい?何がどうなってそんな話になったの?ダブルラリアットのしすぎで脳みそシェイクされちゃった?
訳もわからず彼女の様子を見ていると、ファフナちゃんは乱れた髪を手で梳きながら、
「私がいればジャミラも幾分か安心できるでしょ。昨日は醜態見せたけどさ、私ってば強いんだから」
そう言って彼女は力こぶを作って見せた。
全然筋肉ないね。ぷくっ!とちょこっとだけ膨らんだ気がしなくもない。でもこの細腕でミニーくん持ち上げたり、片手で俺を支えたりするんだからビックリだ。チート主人公ってのは常識というモノがこれっぽっちも通用しないなぁ。
というか、もう決定したと言わんばかりにファフナちゃんは「荷物用意しなきゃか」などと考え事をし始めた。何言ってるかなこの人は。
「いや、いらないけど」
「ドラゴンお泊まりが炸裂よ!」
「おいおい、入学早々から堪んねぇ人生だな。テメェと言う名の人生はよ」
バズがニヤケ面浮かべながら肘でめっちゃ小突いてくる。まさか、わざわざ出会って一週間足らずの相手にそんな事しないでしょ。小粋なジョークってヤツだよ。
というか、こっちはこっちで初対面の時から比べて毒抜け過ぎでしょ。ほら、瞳告くんも呆れてるよ。目が座ってるもん。
「爆世もう行こう。ボクの目も大分マシになってきたしさ」
「あん?どうした瞳告、不貞腐れちまったか?」
「そんなんじゃないよ。ほら、2人の邪魔をしちゃダメでしょう?ほらほら、教室に戻る戻る」
「へっ!分かりやすいなテメェと言う名の人生は。…んじゃ、またな独葉巳と言う名の人生よ」
「うん、またね」
「私を忘れてるわよ」
バズはそんな彼女の言葉を鼻息一つで笑い飛ばし、瞳告くんに背中を押されながら保健室を後にした。いや、ドアを出た後に瞳告くんが顔だけを覗かせて来た。
「気を付けなよ蛇腹くん。雄鶏《おんどり》は何処にいてもおかしくないからさ」
「う、うん…。気を付けるってどうすれば」
「今日みたいにニセモノが来る可能性があるなら、何か決定的な違いを見抜くしかないんじゃないかな」
「む、難しいこと言うなぁ」
「そうだね。でもそれしかないよ。キミが生き残るにはね」
「う〜ん…」
俺が彼の言葉に唸っている内にどんどんと足音が遠ざかる。後に残されたのはファフナちゃんと俺の2人。
彼らの足音が完全に聞こえなくなった頃、ファフナちゃんが誰もいない保健室のドア前を見ながらポツリと呟いた。
「なんかアイツ、無駄にジャミラのこと怖がらせようとしてない?」
「え?いや、きっと本当に心配してくれてるんだよ」
ファフナちゃんは唇を尖らせながら、「ふぅん」と納得した様子を見せる。そして、こちらへと振り返ると、彼女は気を取り直した様子で腰に手を当て、
「うし。ジャミラはこれからどうする?疲れたんならまだ寝とく?それとも早退すんの?」
「うーん…。少し血を流し過ぎたからなぁ。今日は大人しく早退しようかな。だから先生に…」
「わかった!じゃあジャミラと私の荷物取って来るからちょっと待ってて!」
ドラゴンダッシュは風より速い!…あれ?今、「私の」って言ってた?お泊まりって本気なの?




