第四十九話 『神の瞳』
「瞳告くん…!ど、どうしてここに?」
「ちょっと、ね」
隣のベッドで寝ていたのはクラスメイトの苦渋ヶ島 瞳告くんだったようだ。開かれたカーテンの向こう側、彼はこちらに身を向けてベッドに腰掛けていた。
見ると彼の手には氷水の詰まった袋、氷嚢がある。そして、こちらを見つめる彼の青い瞳、その白目の部分が真っ赤に充血してるではないか。
俺が彼の目に注目していると、どうやらこちらの視線に気がついたらしい。彼は自らの目を指差しながら困った様に笑った。
「あぁ、痛々しいよねコレ。昔から目が疲れやすくてさ。授業を抜けさせてもらって、こうして休んでたんだけど…そしたら2人の声が聞こえてきてね」
「…えーっと、誰だっけキミ」
「おんなじクラスだよファフナちゃん」
ファフナちゃんてばヒドいや。いや、入学2日目だったらそんなものかな?
俺はすぐにみんなの名前を覚えるタイプだから、その辺は分からないや。
眉を下げたファフナちゃんを見て、瞳告くんは苦笑した。
「あはは。苦渋ヶ島 瞳告だよ。ほら、爆世の隣にいつもいるでしょう?」
「あぁ!あの爆弾魔の…。って御三家かぁ」
注意:普通は御三家の人間にこんな態度を取ってはいけません。厄介な事になりがちです。
「またですか」、と溜め息を吐くファフナちゃん。そんな姿も美少女である。勿体無いね。
ちなみにファフナちゃんが御三家に辟易しているのは彼らのアプローチがエグいからだ。
おそらく寮の方には御三家や誰かしらが朝から迎えに来たり、俺の知らないところでナンパの様な事をされている事だろう。これは『じゃむうま』知識ね。
「安心してよ龍紋さん。ボクにはキミをどうこうしようって気はないからさ」
「…キミ個人がそうでもお家がねぇ」
「心腑兄さんや理髪さん、膚勒くんにも控える様に伝えておくよ。うちのがごめんね」
「おぉ!話のわかるヤツ…人ね!宗教勧誘みたいでエグいのよ彼ら!」
ファフナちゃんが「あでしゃ(ありがとう出会いに感謝)」なシェイクハンド。
どうやら2人は仲良くやれそうだね。良かった良かった。
…?
何やら瞳告くんが激しい握手を受けながら、こちらに顔を向けて微笑んだ。とりあえず微笑み返しておこう。…おっと、そういえば話が脱線しているな。
「そうだ瞳告くん。力になれるかもって、一体?」
「…あぁ、そうそう。あ、龍紋さん、握手はもういいかな。肩が抜けそう」
「ありゃ、ごめんごめん」
『力の制御もまともに出来んか』
またまたシマヘビくんがボソリと毒を吐いた。毒蛇かな?瞳告くんの話を聞きながら、こちょこちょとお仕置きだ。『やめろー』
瞳告くんが右肩の調子を確かめる様に軽く回すと、彼は俺の方を見ながら口を開く。
「…うん。今、話を聞いててさ。もしかしてボクがさっき屋上にあの男がいたって言ったから、そんなケガしちゃったのかなって心配になってね」
「あ、いやいや俺が勝手にしたことだから謝らないで!ぜーんぶ俺が勝手にやったことだからさ!瞳告くんは全然、悪くないって!むしろ俺が悪いよ!ごめんね!」
「謝らないでよ蛇腹くん。ボクがあんな言葉言わなければ…」
「いやいや、俺が悪いの!」
頭を下げようとする彼を必死で取り押さえて、逆に謝り倒す。昨日、わざわざカフェまで駆けつけてくれた優しい彼だ。今日も親切心で警告してくれた彼に謝らせるなんて俺が俺を許せなくなってしまう。
2人でわちゃわちゃと謝る謝らないで騒いでいると、椅子に腰掛けたファフナちゃんが首をこてんと傾げた。
「あれ?ならジャミラの仮説は成り立たなくないか?」
「…ん?あっ」
『ジャミラ以外にも見えていた事になるな』
そうか。てっきり俺にしか見えていなかったと思い込んでいたけれど、まず初めにアイツを見たのは他の誰でもない瞳告くんだった。
俺の視覚のみに作用するスキルと考えていたが、そうじゃないことになる。
「…なら、なおさらアイツの能力はなんなんだ?」
「うん、その事なんだけどさ」
瞳告くんの落ち着きのある声に全員の視線が注目する。彼は目が痛むのか氷嚢で片目を冷やしつつ、小さな口を動かした。
「ボクさ。話を聞いていて思ったんだけど、襲撃してきた相手の能力に少し心当たりがあるんだ」
「な、なんだって…!」
「どういうこと…えっと、苦渋ヶ島くん!」
『本当かぁ?』
もう俺達は彼に釘付けだ。まさかこんな近くに答えを知る人物がいただなんて。シマヘビくんだけ疑いの姿勢な訳だけど。
…しかし、どうして心当たりが?俺の疑問を表情から感じ取ったらしい、瞳告くんは何かを思い出す様にしながら言葉を続ける。
「苦渋ヶ島家には警察関係者も多くてね。以前、とある事件の容疑者リストを見た事があるんだけど…」
「それって話していいヤツ?」
「なんかダメなヤツっぽくない?」
俺とファフナちゃんは少し不安げな表示を浮かべる。なんか警察って守秘義務とか無かっただろうか。
聞いても良いの?後で消されない?記憶とか肉体とか。瞳告くんはというと変わらず優しく微笑みながら、ぽそりと呟いた。
「ここだけの話なら大丈夫だよ」
ほなアカン話やないかい。意外とダーティーでおもしれーヤツなのかな彼。まぁ、バズの親友だしな。そうであってもおかしくはない。
「しかし、見たってどうやって?いくら何でもありの御三家でもそんなやりたい放題出来るわけ?」
「あはは。そこにはボクのスキルが関係しててね」
瞳告くんのスキル…?確か昨日、バズからちらりとそんな話しが出た様な…。
「この際2人には説明しておこうと思うんだ」
「ボクのスキルは『神の瞳』。鏡面を通じて視界を得る事が出来る。それだけがボクの力だよ」




