第四七話 ご機嫌ナナメなファフナちゃん
「で?もいっぺん言ってみろ。ちゃんと聞いててやるからさ」
「…おりぇはファフナひゃんとともだひをひゃめるっていいまひた」
「あ?」
「ひぃっ!」
ファフナちゃんのドラゴン睨みが炸裂だ。身が縮こまる思いである。
現在、俺はというと右頬に真っ赤な紅葉を咲かせながら、屋上の硬い地面に正座させられていた。思わず逸らした視線を戻すと真っ正面には腕組みをしたファフナちゃんが仁王立ちしている。
…どうしてこうなってしまったのか。
俺が絶縁を宣言して彼女のビンタを受け止めればこの関係は綺麗さっぱり終わる。そう思っていた。
だが実際はどうだ。首が根っこごとすっぽ抜けそうな程のドラゴンビンタをモロに喰らい空中錐揉み回転したかと思えば、そこから更に空中でファフナちゃんに組み付かれ、某牛丼大好きマンの必殺技そっくりのドラゴンバスターとかいうワザで地面に叩きつけられた。
そして気が付けば今に至る訳だ。美少女が台無しなまでのメンチを切る彼女に、俺は冷や汗がダラダラだった。
「おい」
「は、はいっ!」
「イチから説明しろ」
「イ、イチからと言うのは…?」
「ホントは全部聞きたいところだけどな。とりあえず今あった話でいい。ホラ、話してみろ」
まるで説教だ。いや説教か…。
俺が顔を逸らして押し黙っていると、ずいとファフナちゃんの顔が近付いてくる。
心に悪い。もっとガワが美少女な事を自覚してほしい。まつ毛長い。
「えーっと…」
なんと言ったものだろうかと頭を悩ませると、顰めっ面のファフナちゃんがヤンキー座りで唇を尖らせた。
「なんで飛び降りなんかしようとしたんだよ?」
「え!?だ、だからそれは誤解だって!」
「なら何してたんだよ」
純粋な疑問を向けられて、俺は目線を逸らした。ドスを効かせた声ではあるが声帯が美少女の為にそんなに怖くない。というかそんな小首を傾げたりしないで欲しい。頼むからもっとおっさんらしく振る舞ってくれ。ジト目すら可愛い。そんな場合じゃないのに可愛いが凌駕してくる。
こちらが視線を逸らしているにも関わらず、穴が開きそうな程に見つめてくる彼女に対して、俺は小さな声でポツリと答えた。
「た、戦ってた…」
「戦ってたぁ?どう見てもジャミラ1人しかいなかったけど」
「ホントだって!ホラ見てよこの手のキズ!」
「うおっグロっ!」
俺の手のひらに空いた空気穴を見せると、ドン引きする彼女。実にヒドい限りである。
ていうかアドレナリン切れてきたのか痛くなってきたな。後にしてくれないかな。
『麗しい外面とは、似ても似つかない品の無さだな。腹が立つ』
シマヘビくんはご機嫌ナナメだ。俺の手首に巻きつきながら、尻尾の先を右に左に地面に叩きつけている。
一体どうしたのだろうか。召喚主である俺が傷ついた事に腹を立ててくれているのだろうか。もしくは先程、俺がエアプ櫂毒に腹を立てた時の様に、彼女に対して解釈違いを起こしているのか。
前者だったら嬉しいね。…なんかまたデカく、長くなったかな?
「…刺し傷だよなさっきの。痛くないの?」
「痛くなってきたよ」
「っバカ!それを早く言え!話は後にして保健室行くぞ!まったくそんなヒドいケガなんかして!」
「半分はファフナちゃんのせいなんすけど」
「まったくしょうがないヤツだな!」
ふんふん!と鼻息荒くファフナちゃんは俺を肩に軽いだ。俺は米俵か。
「はたまた角材か」
「さ、爆速で送ってやるからな!舌噛むな……よっ!!!!」
「えっ!ちょ待…ゔぇっ!!!!!」
瞬間移動かってくらい景色が一瞬で遠くなる。もう校内だ。階段なんかひとっ飛び。走り抜ける空気が俺の体を削ぎ落としてやろうと必死極まりない。俺への配慮が無い。
こんなのジェットコースターなんて比じゃない。剥き身の新幹線に乗せられたら、おそらくこんな感じなんじゃないだろうか。
「ゔぇゔぇゔぇゔぇゔぇ!!!!!」
「ん?なんだ?ちょっと、ドラゴンイヤーでも聞きとれないんだけど!」
「ゔぁゔぁゔぁゔぁゔぁ!!!!!」
顔の皮膚が置いていかれそうな中、発する言葉も言語として成立せず、俺はだだっ広い校内をただ只管に引きずり回されるハメになった。
時折、チラリと見えるのは廊下警備の鎧騎士だ。ファフナちゃんを止めようとしているみたいだが、まるで対応出来ておらずワタワタとしている。
というか途中でファフナちゃんが迷子になったせいでもう完全にグロッキー。
『力の使い方がなってないな、この男は』
全くもってその通りである。シマヘビくんに完全に同意。…あれ?俺ってばファフナちゃんの中身がおっさんだって話した事あったっけ?
「着いたぞジャミラ!!!ドラゴンダンク!!!!」
考え事をしていて反応が遅れた。
気がついたら目の前には真っ白なベッド。おそらくここが保健室なのだろう。柔らかそうなオフトゥンが、次の瞬間には俺の視界いっぱいを埋めつくしており、…ん?埋め尽くしており?
「え?…ごばぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ズドン!!!!!!
抵抗する暇もなくベッドに垂直に突き刺さっていた。な、なんか俺こんなんばっか…。
「いけね!勢い余りに余っちった!」
「ナ、ナイス…ダンク…」ガクリ
『ジャミラーーー!!!!!』




