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第五話 戦闘訓練所に行こう②

「教官を務めるオヒゲ・ガリッパだ。

 よろしくお願いするネェ」

「「よろしくお願いしまーす!」」


 動きやすい服装に着替え、貸し出しの革鎧を身に纏った俺たちは指定されたコートへと足を運んだ。

 開始時間よりは少し早かったが、すでに教官らしき人が腕組みをして立っていたので集合してすぐに訓練開始となったのな。

 …そんなことより、くんくん。やっぱ、なんかこの革鎧深みのある匂いがする。

 よく言えば歴史がある、悪く言えばほんのり酸っぱい。いやごめん、もうシンプルにツラい。臭みがある。前世の柔道の授業を思い出す。あのいろんなやつが着回してた柔道着…ほんのり湿ってた気がするあの柔道着…。

 ヘビくんたちもそうだそうだと言っています。


「落ち葉ちゃん落ち葉ちゃん」

「なになにどっくん?」

「これ嗅いでみ」

「…っ!(フレーメン反応)」

「うわははは!いってぇ!蹴るのは無しでしょ!」

「最悪!ほんとに!」

「ぬっはっは!貸し出しの革鎧は臭いだろう?特に男用はスゴみすらある。

 しかし、それも先人たちの汗と涙の賜物だ。今だけの我慢だネェ」


 そう言って、両肩いっぱいまで伸びた立派すぎる口髭をイジるのは俺たちの教官を担当するオヒゲさん。

 歴戦の勇士を思わせるいかめしい顔立ちに、分厚い筋肉の鎧を纏ったゴリマッチョおじさんだ。頼りになりそう。

 でも、欲を言えば綺麗なお姉さんとかがよかったです。ビキニアーマーとかの。めっちゃキワドいやつ。


「どっくん、なんか変なこと考えてない?」

「べやべや、いつに?」

「なんて?」

「よぉし、まずは準備運動からだ。その次はコートを3周ランニングする。

 突然の激しい運動は体に良くないからネェ」


 オヒゲ教官が懐から取り出したスマホを操作すると、聞き慣れたラジオ体操の曲が流れ始める。

 なんか体育の時間みたいだな。


「なんだか体育の時間みたいだね」

「お、気が合うね落ち葉ちゃん」

「合う合う超合う」


 落ち葉ちゃんも同意見らしい。

 音楽に合わせて、ちゃかちゃかと体を動かしていく。

 ラジオ体操など実に久しぶりなので、なんだか新鮮だ。

 しっかり深呼吸まで終えて(うっかりシミシミの革鎧臭を吸い込んだ俺は悶絶した)、オヒゲ教官・落ち葉ちゃん・俺で仲良くコートを軽く3周した後、本題である対魔物戦への説明を受けることとなった。


「本日の訓練内容は、最も数の多い魔物とされるスライムとの戦闘訓練だ。

 最弱と称される魔物だが、油断大敵だネェ。慢心こそ己の最大の敵なのだから」


 そう言うと教官は腰に差していた無線を手に取り、何やら指示を出し始めた。

 ふと、自分の手が震えてることに気がついた。

 スライムといえど人生初の魔物との戦闘だ。

 命の保証こそされているモノの、本来なら生死をかけた戦いだ。

 今更ながら自覚した。どうも俺はかなり緊張しているらしい。


「どっくん緊張してる?」

「正直ね」

「あはは一緒だ」

「落ち葉ちゃんホントに緊張してる?

 いつも通りにしか見えないんですけど」

「してますったらしてますー!

 でも、少しリラックスできてきたかなぁ?」

「ほんとぉ?どーしてリラックスできるのぉ?」

「さぁ〜?どおしてでしょう?」


 マジでいつも通りな様子で、落ち葉ちゃんは柔軟運動を始めた。

 すげぇや。頼りになるぜ落ち葉ちゃん。原作との乖離が尋常じゃねぇや。

 誰だ彼女をこんな風にしたのは(現実逃避)。

 でも、彼女と話していたら少し心が和らいだ気がする。

 そうこうしていると、準備が整ったのかオヒゲ教官にコートの手前側に立つ様に指示を出された。


「使用武器は蛇腹くんが剣。

 洛陽くんが弓矢という事でよろしいかネェ。

 己にしっくりくる武器というのは運命の如き巡り合わせだ。

 色々と試すがよろしいネェ」


 そう。俺の手に取った武器は剣。

 今回は初めてと言うこともあり、なんとなくで選んだが正直重い。まるで手に馴染んでいない。

 落ち葉ちゃんはというと、どうしてか弓の構える姿がサマになる。聞いてみれば、俺に隠れてこっそり練習していたらしい。えらい。

 落ち葉ちゃんが一人で頑張っていた間、俺は趣味のヨガと美容に興じていたわけだ。

 培われたのはツヤツヤぷにもち肌くらい。


「さて、始めようか。

 質問があれば今のうちだネェ。何かあるかね?」

「あ、スキルって使ってもいいんですか?」

「もちろんだネェ。武器も肉体も知識もスキルも、全てはキミのものなのだから。

自由に戦いなさい」

「分かりました」

「他には無いかネェ?」

「「大丈夫です!」」


 俺たちが頷くと教官も大きく頷き返す。立派すぎるヒゲの端が遅れてミョインと揺れるのが少し面白い。

「よぉし」と言うと教官は再び無線機を手に取る。


「ブルースライムを一体だネェ。

 活きがイイのを頼むよ呼子よぶこくん」

『うん。飛ばすよおじさま』


 次の瞬間、俺たちのコートのど真ん中に赤く輝く魔法陣の様なものが浮かび上がった。


「うおお悪魔召喚…!?」

「ぬっははは。それ本人に伝えると怒られるから止した方がイイネェ」

「これも施設の機能ですか?」

「残念ながらそこまで万能では無いのだネェ。ここで働いている子のスキルだよ」

「へぇ。便利なスキルもあるもんですねぇ」


 感心しているとオヒゲ教官がばっと手を振るった。先程までとは違う真剣な声色で叫ぶ。


「さぁ、いよいよ始まるネェ!

 各自準備を整えたまえ!キミたちの初訓練だ!どうぞご安全に!」

「「ご安全に!」」


 遂に初戦闘が始まった。

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