第四十一話 蛇腹 独葉巳vs櫂毒 傀儡朗
「殺してやるよ蛇腹 独葉巳」
「うっ、うわあああっ!!!」
櫂毒が扉の間に腕を入れて、無理やりにこじ開けてくる。ミイラの様な細腕のどこにそんな力があるのか、俺が全身を使って扉を押さえようとしてもメリメリと骨と皮の薄い体を押し込んでくるではないか。
本当ならこのままなりふり構わず逃げ出したい。だけど、学園内にヤツを侵入させたら一体どうなってしまうのか…。それは考えたくもない。
「…くっ!『蛇群…召喚』!!」
無我夢中でスキルを使った。俺の全身から無数のヘビくん達が溢れ出す。
濁流の如く溢れ出した彼らは、圧倒的質量で扉を圧していく。屋上手前の踊り場は全て彼らで埋め尽くされ、見るものが見たら卒倒するかの様な集合体の地獄絵図だ。
「『蛇群召喚』!『蛇群召喚』『蛇群召喚』…!!!」
「う、お、き、貴様ぁっ…!」
「ッ!?『蛇群召喚』…!」
一瞬何か不思議な感覚を得るも、それが何なのかわからない。考える暇も今は無い…!召喚の手を止めない。踊り場の乗車率は最早ゆうに120%を超えている…!だが、押し勝ってる!ドアの間に挟まれた櫂毒の腕がメキメキと悲鳴を上げていた。
『ぐえー!苦しい!』
シマヘビくんも悲鳴を上げる。俺自身もヘビくん達の質量でぺちゃんこに潰れてしまいそうなのも事実だ…!
「お、おおぉぉぉっ…!」
メキ
「っ!」
嫌な音が聞こえた。櫂毒の腕では無い。俺の体からでも無い。音の出所は扉の二箇所、挟まった櫂毒の腕とは正反対の位置…
「蝶番がっ!持たない…っ!」
『何をやってるんだバカ!』
シマヘビくんから叱咤の声が飛んだ次の瞬間、バキリという破砕音と共に俺たちは屋上へと雪崩れ込んだ。
「う、ぐっ…!召喚解除っ!」
咄嗟にヘビくんの群れの召喚を取り消す。召喚したヘビくんに押し潰されて圧死なんて笑えない。
ドアごと地面に倒れ込む。だが、相手はあの櫂毒だ。下手な動きをすれば、次の瞬間にはお陀仏は必死…!
肘を軸に前に転がる。そして、今度は自身の背中から、
「『蛇群召喚』っ!」
僅かに前につんのめるが、どうにか堪えた。
背面から召喚したヘビくんに地面を押してもらい、勢いのままに立ち上がったのだ。
あまりの勢いに肺の空気が一気に吐き出され、全身が硬直する。息苦しさに咳き込みながら、追加の召喚を行う。俺の体を巻く様にして太ヘビくんがズルリと這い出る。
「ジャ〜!」
「げほ…げほっ!か、櫂毒は…!」
『おい聞けジャミラ!お前は
「俺ならここにいるぜ?ぎゃはっ!」
「…っ!?」
シマヘビくんの言葉を遮り、櫂毒の声が正面から飛んできた。瞬きの間に彼は俺の目の前に召喚したのだ。
「いつの間にっ…!煙化してたのかっ!?」
「知るか!俺様のナイフで死ねっ!」
「…っ?ごめん太ヘビくん!守って!」
「ジャ〜!!!」
再びの違和感。だが正体が分からない。
考える暇もありやしない。太ヘビくんが身を引き絞り、その身をもって俺の事を守護してくれる。小さな悲鳴と共に、彼の皮膚越しにナイフが刺さる感触が伝わってくる…。
「…ごめん!ありがとう太ヘビくん!…巻きつけっ!」
「ジャ〜!!」
『おい、話を…』
「何っ!?くっ、貴様!無駄な事を…!」
太ヘビくんが抵抗する櫂毒の体を締め上げた。
だが、アイツのスキル『煙ル汚辱ハ鏖ノ夜』は肉体を煙化させる…!この程度の拘束はすぐにでも…!
俺は切り札であるシマヘビくんの方を見る。
俺の胸元から半ば程身を出して、ぐるりと肩に巻きつく彼を。
「シマヘビくん!昨日の技って使える…!?」
『あ?破壊者の吐息か?何故?』
「もう今のうちに決着を付けるしかない…!頼むよシマヘビくん!」
「ぎゃはははは!無駄だバカめ!」
そうこうしている内に櫂毒が笑い声を上げながら拘束を抜け出てくる。
やはり煙化の能力は厄介…だ…な?
ヤツの姿を見て俺の思考は停止する。何故か。
目の前の男、櫂毒の両腕と頭部が太ヘビくんの隙間から煙化するでもなく、体のパーツをおもちゃのブロックみたいにバラバラに外しながら、這い出る様にして出てきたからだ。
「ぎゃは!この程度、簡単に再生できるんだよバカが!抵抗しなきゃ楽に殺してやるのによぉ?」
そう言って、彼のパーツがふわりと空へと浮き上がる。そして、プカプカと浮かぶナイフの握った右手を顔まで近づけ、長い舌でベロリと舐めたのだ。
「…っ!!???」
ぞわぞわぞわ…!
な、なんだ…!?なんだこのさっきから虫唾が走る様な感覚!
何かボタンを掛け違った様な不快感は…!
俺はモヤを振り払う様にシマヘビくんに命令する。
「シマヘビくん!お願い!やって!」
『何処に?』
「正面に決まってるだろ!早く!」
『…はぁ。何がどう決まっているのか』
何故か呆れた様子のシマヘビくんが大きく口を開いた。そして、
『破壊者の吐息』
荒れ狂う暴風が彼の口より吐き出された。
…
……
………
荒れ狂う。吹き飛ばす。何もかもを引き連れて、視界の全てを地平線の彼方へと消し飛ばす。
今回は狭い室内ではなく、開けた屋上が舞台だ。ブレスは一直線に櫂毒に直撃し、彼の姿を真っ直ぐに吹き飛ばす。向こう側に見えていた学園の一部であろうと円錐型の屋根が消し飛んだ。後ろに立っている俺すらも、踏ん張っていないと立っていられない。こんなもの喰らえば、今度こそ奴は戦闘不能になる筈だ!
おおよそ30秒の後、シマヘビくんがブレスを止めた。青い空、白い雲、何もない広い屋上。そこには何もない屋上が広がっている。
…どうにかなったか。
「ふぅ…」
安堵の息を吐く。
こんなに早く櫂毒の奴が復活するなんて思ってもいなかった。でも、今の俺にはシマヘビくんがいる。おかげで俺は怪我という怪我を負う事もなく、無事に奴を撃退出来たのだ。
『…けほ。この体でやると酷くノドが渇く。なんだか分からんがこれで良かったか?』
シマヘビくんもありがとう。彼の体を優しく撫でる。
…だけど、一つ気になることがあった。シマヘビくん、彼がさっきからずっと他人事との様に話をしていることだ。俺はその事が気になり、彼に
「ぎゃは!」
「ぎゃはははは!バカめ!この程度で俺様が死んだと思ったか!?これくらい簡単に再生できるって言ってんだよ俺は!」
「な、に…!?」
大きく下品な笑い声と共に、再び目の前に櫂毒が現れた。彼の体は見る見る内に再生していき、シマヘビくんのブレスなど意にも介していない様子だ。
「おかしいだろっ!アイツは風が弱点のハズ…!」
「死ねっ!蛇腹 独葉巳!バラバラにして殺してやるぞぉ!」
櫂毒の奴がナイフを握ってこちらに走り出した。テンプレ殺人鬼みたいな事を叫びながら。
…何かがおかしい。
「『蛇群召喚』!」
何かが、この戦闘が始まってから纏わり付く様な違和感がずっと俺の中にある。
その正体にこそ、勝利への糸口があるに違いない。そんな不思議な確信と共に、俺は一歩踏み出した。
『…1人遊びもここまで来ると立派なものだな』
シマヘビくんの一人言がなんだか妙に耳に残った。




