第三十九話 謎の視線とお弁当
ずっと視線を感じている。
ヴロちゃんさんと教室に向かうが、その道中も常に何者かの視線を感じ続けていた。
残り休み時間は30分。教室の後ろのドアを開ける。今なお、視線は途切れない。不思議な気分のまま後ろを振り返る。…やはり誰も見ていない。
首を傾げつつ、再び前を向いてクラス内を見渡した。
「くぅ〜ん…」
流石にこの時間帯だ。クラスのみんなはほとんど食事を終えており、グラウンドに向かう者や図書館に足を運ぶ者なども少なくは無い。
1人での食事を寂しく思った俺は、お隣のヴロちゃんさんへと振り向いた。
「ね、ヴロちゃんさん。お昼はどうするの?」
「不要だ。時間を無駄にし過ぎたからな。残りの時間、ワタシはファフナ様と共にいよう」
「くぅ〜ん…」「シャ〜…」
やんわりとお食事の誘いをしたのだが、見事に断られた。寂しそうなヘビくんの頭を指で撫でる。
「ではな。……後は、貴様次第だぞミナダイスキー」
「う、うん」
そう言い残したかと思うと、ヴロちゃんさんはファフナちゃん成分を補給する為に彼女の席へと突っ込んでいった。爆速だ。怪我してるとは思えない。
先程、ヴロちゃんさんに言われた言葉が胸にずっと引っかかっている。
俺は間違っているんだろうか。
出ない答えが頭の中をグルグル巡る。
席に着くも周りには誰もいない。ミニーくんたちは食堂にでも行ったのだろうか。
考え事をしながら、カバンから母さんの作ってくれた弁当を取り出す。
「シャ〜!」
「…ゲンキンだなヘビくんは」
ヘビくんはご飯を前にして、ひたすらニョロニョロしている。昨日の晩ご飯のから揚げの残りが入っている。
「ヘビくん。から揚げ食べたい?」
「シャ〜!」
「駄目です」
「シャ、シャーッ!!」
メインは俺のものです。お隣のきんぴらゴボウをヘビくんの口元にお箸で持っていくと渋々食べ出した。かわいい。
お弁当をヘビくんと分け合いつつ、2人で寂しさも分かち合う。
『私にも寄越せ』
「うおお!急に出てこないでよシマヘビくん」
「シャーッ」
俺の胸に開かれた召喚門からいきなりシマヘビくんが飛び出してきた。いや、正確には半身のみを召喚門からはみ出させている。側から見れば、俺の胸から直接生えているように見えなくもないだろう。
シマヘビくんはかなり自由だ。かなりの気分屋で昨夜は就寝中、今日は通学中も授業中でもいつでもどこでも突然ニョロニョロと這い出て来たり、逆にノソノソと帰って行ったりとフリーダム極まりない。
『おい。早く寄越すと良い』
「えぇ?しょうがないなぁ」
プチトマトをひと粒シマヘビくんの口元に持っていくと長い首をぷいと横に向けた。
「あれ?食べたいんじゃないの?」
『野菜など誰が喰うか。肉を寄越せ肉を』
「駄目です」
『ぬわぁ〜』
無理やりプチトマトを口に押し込むと、おえおえ言いながら咀嚼し始めた。もしかしたらトマト嫌いなのかもしれない。美味しいのにね。
…そうだ。シマヘビくんならもしかしたらこの謎の視線の主に勘付いてるやも。
「ねぇシマヘビくん」
『腹いせにいっぱい食べるぞ』
「おわー!オカズばっかいってる!…ね、ねぇねぇシマヘビくん。さっきから誰か俺のこと見てたりしない?」
『自意識過剰か?』
「ちがうわー」
ツッコミを入れるもシマヘビくんは弁当箱に頭から突っ込んだまま帰ってこない。お、戻ってきた。げふー、と満足そうな息を吐いとる。彼?は質問に答える事なく、口元を汚しながら俺の方を振り向き、
『肉を寄越せ』
「もう無いす」
『なら用は無い』
「くぅ〜ん…」
「シャ〜…」
まじに答えてくれませんでした。スッとあっという間に首を引っ込めて、門の中に帰ってしまった。悲しい。ヘビくんも悲しそうです。
お米と梅干ししかないや。ひもじいひもじい…。しょんぼりムシャムシャとお米と梅干しをもそもそ食べていると、不意に俺の上に影が降りた。
「よぉ。帰って来てたのかよ、テメェというなの人生よぉ」
「あっバズ!それと瞳告くんも」
「よぉ、独葉巳」
「やぁ。蛇腹くん」
2人はどうやら食堂から戻ってきたばかりみたいだ。バズは爪楊枝を咥え、瞳告くんは可愛らしいお弁当用バッグを片手に持っている。
…バズってば両腕コルセットなのにどうやって食事を摂ってるんだろう。…そういえば、この2人はずっと一緒にいるなぁ。…あっ、ふーん(察し)。
「ねぇ2人とも。よければなんだけど、オカズとか無いかな?」
「んな良いもんあるかァ?テメェと言う名の人生はどうよ、瞳告」
「うーん…そうだねぇ」
ちょっと待って、と瞳告くんが制服のポッケをゴソゴソと探り出す。無いみたいだ。
バズのポッケも探し出した。
「お」
「なんかあったか?」
「なんだろコレ…。お、くしゃくしゃになったビッグ◯ツだ。欲しい?」
「いただきます…!」
袋を開けてご飯の上に乗っける。すると簡易的ソースカツ丼が完成した。とても富んでいる。
もしゃもしゃぐぁつぐぁつ
ヘビくんとカツ丼(偽)を頂いていると、ヴロちゃんさんの机の上にどかりと座ったバズが首を捻りながら教室入り口の方に視線を流す。
「テメェと言う名の人生よぉ…。さっきはアイツ…男装女と言う名の人生とどこ行ってやがったんだよ。龍紋 ファフナが嫉妬しちまうぜ?」
「え?待って待って待って待って。何か勘違いしてない?」
「そうだよ爆世。決めつけは良くないよ」
おっ。瞳告くんが助け船を出してくれた。彼は知った風に人差し指を立てると、大事な事を教えるみたいにバズに「いい?」と確認を取る。そして、自信満々にこう言った。
「蛇腹くんはね。龍紋さんとヴロトレキさん、2人どころか洛陽さんを含めた3人とお付き合いしているんだよ」
「ちがうわー」
…
……
………
キーンコーン♩
気がつけばもう休憩時間も終わりだ。チャイムの音が聞こえるや否や、ゾロゾロとクラスメイトが教室へと戻り始めた。
バズは掛け時計を睨み付けると、ダルいという感情を全面に出しながら瞳告くんの方を向く。
「ケッ、もう授業かよ。戻るぞ瞳告」
「時間が経つのは早いねぇ」
バズが大あくびをかいて、机から飛び降りた。彼は首をゴキゴキと捻りつつ、自身の席へ足を進めるが、不意に足を止めコチラへと振り向いた。
「…ん?どうしたのバズ」
「…テメェと言う名の人生よぉ。今日は昨日と違って随分とシケッたツラしてるぜ。
オレと爆発するんだろ?なんかあんなら相談くらいしやがれ。友達だろーが」
「バ、バズ…」
どうやらバズなりに気を遣ってくれていたらしい。ヴロちゃんさんといい、バズといい、誰も彼もが優しくて困ってしまう。
複雑な気持ちを抱えたまま、2人の背中を見送っていると、「あぁ、そうだ。」と瞳告くんが俺の方へと振り向いた。
「蛇腹くん、実はね。一つだけキミに伝えておきたいことがあったんだ」
「えっ、なにかな?」
瞳告くんが再び俺の席までゆっくりと戻って来る。彼の青い瞳が真っ直ぐに俺を捉えていた。青く澄んだ目は、見ているとなんだか心が落ち着く気がする。
…そう言えば瞳告くんは漫画『じゃむうま』だとお知らせキャラだったなぁ。
彼の情報はいつでも正確だった。聞いておいて損は無いだろう。瞳告くんに手招きされて、彼の口元に耳を寄せた。こそこそと囁き声がこそばゆい。
「…聞いて驚かないでね?」
「う、うん…」
至って真剣な表情なのが怖い。
少し、イヤな予感がするのは気のせいなのかそうでは無いのか…。
「昨日カフェにいた2人の男の、死神みたいな方。彼が今ここの屋上にいるよ」
「えっ」
「僕の瞳に映った真実、キミの眼にはどう映るかな?」
…瞳告くんはそう言ってニコリと笑った。だが、俺にはもはや彼の表情も言葉も入って来てはいなかった。
櫂毒が、あの男がワームヴェルトに来ている…?
謎の視線が一際強くなった様な、そんな気がした。




