第三十七話 学生生活2日目
俺と落ち葉ちゃんはいつも通り電車通学だ。ガタンゴトンと電車に揺られ、今日も今日とて街を行く。
シマヘビくんはお寝坊さんなのか、召喚門からまだ出てこない。
落ち葉ちゃんはと言うと一見明るく振る舞ってはいるものの、昨日の出来事があったからか酷く周囲を警戒している。電車内でも移動中でも、ずっと俺の制服の袖を軽く握っていた。
…?
確かに、なんだか今日は酷く視線を感じる。しかし、辺りを見回してもそれらしき人物は見当たらない。
櫂毒の件があったからだろうか。自覚はなかったが俺も不安な気持ちを抱いているらしい。その不安感が、こうして人の視線を強く感じさせているのだろう。
改札を降り煉瓦造りの正門を抜ける。初代校長像のお辞儀に手を振り返しつつ、中庭を抜けて階段を上がった。するともう俺たちの教室は目の前だ。横開きの扉に手を掛ける。ほんの僅かな緊張感が扉を重くする。
「どっくん?」
中々ドアを開かない俺を心配した落ち葉ちゃんが小首を傾げた。目の下に小さなクマが出来ている。
ダメだダメだ。もう決めたんじゃないか。覚悟を決めた俺は落ち葉ちゃんに振り向いた。
「よし落ち葉ちゃん。アレやろっか」
「え?…アレってアレ?」
「中学時代に編み出したアレだよ」
「えー?やるの?ホントに〜?」
「いいじゃんいいじゃん。やっちゃおう!」
「しょーがないなー。どっくんは」
やれやれと言った表情で落ち葉ちゃんが肩をすくめる。だが、さっきまでの緊張した面持ちは雪解けしたかの様に柔らかい。
俺たちは顔を突き合わせ、息を合わせてスキル発動の準備を整えた。
「「せーの」」
「「スキル発動!!」」
…
……
………ガラガラ
「おはようみんな〜!さぁさぁ!寄ってらっしゃい見てらっしゃい!世にも珍しいヘビ人間だよ!ほぉら天井を這って教室に入ってくるよ〜!」
「にょ〜ろにょろにょろ!!!おはよーございまーす!!!」
「「「「「シャ〜!!!!!」」」」」
「ほーら、こっちにはビックリ植物女だぁ!綺麗な髪に綺麗なお花がどんどん咲いていくぞぉ〜!」
『何故、ワタシガコンナコトヲ…』
『ふぁ〜あ、喧しいぞジャミラ…』
「はいっ!最後にヘビ人間くんが何か見せてくれるみたいだ〜!みんなっ!注目〜!!!!」
「両乳首から長い長〜いヘビくんがどんどん出てきま〜す!」
「おぉ〜っ!長い長い!全然終わりが見えないぞぉ〜っ!これじゃもう乳首じゃなくって乳ろくろ首だよぉ〜」
「「じゃん!!!」」
き、決まった…!
「…」
「……」
「「「………………」」」
一度、廊下に出て教室のドアを閉めた。
「…………なんにも無かったことにしてもう一度入り直そう」
「…………そうだね」
『ダカラ止メロト言ッタノダ』
召喚したみんなに帰ってもらってから、教室のドアを再び開ける。今度は静かに落ち葉ちゃんと教室に入ると、みんなが物凄いものを見る目をこちらに向けていた。見なかった事にする。
ドアのすぐ隣りはファフナちゃんの席だ。既に登校していた彼女は席に着いており、その隣を陣取る様にヴロちゃんさんが立っていた。
「お、おはよう2人とも。…今なんかスゴいことしてなかった?」
「ファフナちゃんおはよう。気のせいじゃないかな。ヴロちゃんさんもおはよう。入院はしなかったんだ」
「おはよーファフちゃん。気のせいだよ。あれっヴロちゃん!大丈夫だったの?」
「…フン。龍の眷属の治癒力を舐めるなよ」
「んじゃ、俺向こうの席だからー」
「あ、うん。また後でねどっくん」
「…?」
会話もそこそこで切り上げて3人に手を振りながら、俺は俺で自分の席を目指す。
…これでいい。
「おはようスズミんちゃん!」
「え、あ、うん。おはやうで御座る〜」
「おはようお嬢〜」
「え、あ、うん。おはようございま…お嬢とは私の事ですの?」
「おはウィル〜!」
「え、あ、うん。おお、おはよう蛇腹。…話すの初めてなんだが早速あだ名呼びとは攻めてくるな」
「おはようぷーさん!」
「おはよー!今のすっごーい面白かったよー!」
「おはようりゃーくん!」
「あぁ。お前へんなヤツじゃなあ」
「おはイッチー!」
「…………おはよう」
既に登校しているクラスの面々に声を掛けつつ、自分の席へと真っ直ぐ向かう。バズや瞳告くんはまだ来ていないみたいだ。寮組はギリギリまで寝てられるのが羨ましいね。
俺は考えた。いきなり会話をゼロにしてしまうとファフナちゃんも違和感を抱いてしまう事だろう。なので、会話の量を徐々に減らす事にしたのだ。さっきの話の切り方も中々自然で良かったんじゃないか?
個性的で愉快な面々ばかりのこのクラス。こうしてゆっくりとフェードアウトしていけば、俺なんてあっという間に一介のモブキャラになることだろう。
「おはようだぢょ!赤が…ぢゃ、蛇腹!」
席に着くや否や、隣の席のミニーくんが挨拶をくれた。
「おはようミニーくん。来るの早いんだね」
「おう!おで様はじぃに毎朝車で送ってもらってるんだぢょ。羨ましいか?」
「へぇ〜、良いね。流石お金持ち」
「ぐぶぶぶぶ。お前さえ良ければ次からお前を拾ってから学園に迎うよう…
「おはようポメの騎士くん!」
「おはようポメくん。まだ全然騎士じゃないよー」
「知ってる!今の凄かったね!あの強メンタルには惚れ直したよ!だから今日こそはポメの騎士団に入団…
「邪魔するなぢょチビ!蛇腹はおで様と大事な話を…
「おデブちゃんこそ黙っててよ!ポメは今の、愛しの騎士くんと大切なお話を…
「もぉもぉ」
「おはようミノくん。今日も立派なツノだね」
「もぉ〜」
…これでいいんだ。友達に囲まれて十分楽しいじゃないか。
いやぁ、流石に主人公の友人Aは難しかったなぁ。今後は同クラの男子で付き合うなら誰ランキング5位くらいを目指すかな。
次回より、『クラスで5番目位にモテたいの!〜バトルファンタジー漫画の世界に転生した俺はクラスの優しくて面白い良い人枠に収まりたい〜』をお送りいたします!よろしくね〜!
…
……
………
「おい」
昼休み前の四限目の授業終わり5分前の事だった。
歴史担当のお爺ちゃん先生がフガフガ言いながら、震える指で教鞭を取っている。
俺は俺で頬杖をつきつつノートにメモを取っていると、不意に前の席から小さく声を掛けられた。
「おいミナダイスキー」
「ん…あ、何かなヴロちゃん…さ…ん?」
珍しい。反射的に返事をしたものの、よくよく考えるとヴロちゃんさんから普通に声をかけられたのは初めてだ。その事に気が付いて思わず言葉に詰まってしまった。
眉を顰めた彼女の眉間にさらに深くヒビが入る。
実のところ、まだ彼女と顔を合わせてから日は浅い。顔や名前も知ってるし、一方的にではあるがそこそこは話す。だがそこまでだ。俺と彼女、ヴロちゃんさんと深い関係を築けているわけではない。
なので、まだ彼女のこの行為が珍しいことか否かと問われると正確に答えることは出来ないだろう。だが、あえて言おう。これは実に珍しいことだ。
まだ授業中であった為、顔を近づけ、口元に手を当てる。こちらも小さな声でヒソヒソと返事を返す事にした。
「…ヴロちゃんさん。どうかしたの?」
「チッ。腑抜けたツラだなニンゲン。まぁいい。次の休み時間だ。少し付き合え」
…?
不愉快極まりないといった表情のヴロちゃんさんが口元を歪めてそう言った。まさかのお誘いだった。他の誰でもない彼女の口からその様な言葉が聞けるとは思いもしていなかった。
彼女の上唇と下唇の隙間から覗く鋭い犬歯が実に攻撃的で、まるで威嚇されてるみたいだ。返事に詰まっていると、口元が小さく動いた。
「…返事は?」
「え、いやー、俺はちょっとミニーくんたちとご飯食べる約束が…」
「返事は?」
「お、お付き合いさせていただきます」
有無を言わせない圧に屈した。俺の別に全然快くない了承に満足したのか、フンと小さく息を吐くと彼女はくるりと前を向く。もう話は無いということらしい。
…一体、何が待っているんだ。
一抹の不安を抱えつつ、授業終わりのチャイムを耳に、俺はと言うと小さく手を合わせてミニーくんやポメくんたちにペコペコと頭を下げていた。




