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俺は主人公の友人Aとして生きたいの!〜バトルファンタジー漫画の世界に転生した俺はTS転生した美少女主人公(中身おっさん)を狙っている訳ではない〜  作者: どかんどかん!ぱおんぱおん!
第一章 学園入学:龍紋 ファフナ編

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第三十三話 『秘密ノ眼』

「れへへへへ。俺、パンケーキとミックスジュース。ベリアル、テメェはどうするよ」

殺殺殺殺殺(甘味は好かない)殺殺殺(サンドイッチと)殺殺殺殺(ホットコーヒーでも)殺殺殺殺(頂こうか)


 注文を済ませた2人の男が窓の外を眺めつつ、話に花を咲かせている。

 俺はその姿を横目で見つつ、平静を装うのに精一杯だった。


秘密ノ眼(ヒミツノメ)


 それは漫画『じゃむうま』世界における悪の組織。

 6人からなる彼らは主人公である龍紋 ファフナを捕らえ、その力を手に入れようと世界の裏側で暗躍している。

 そしてたった今、この店に訪れた2人はその『秘密ノ眼』の構成員。原作のボス枠だ。


 ヘラヘラ笑い、ふらふらしている死神染みたあの男…やっぱり見間違いじゃない。あのインパクトある姿は一目で思い出した。


 2メートルはある高身長に骨と皮だけの痩せた身体。バサバサの傷んだ金髪。目元は薄汚れた包帯で隠されており、その上からは落書きの様な瞳のマークが描かれている。

 耳まで裂けたニヤけた口からはガチャガチャの乱杭歯と長い舌がずるりと伸び、飢えた獣を思わせた。

 くすんだ色の無地のシャツとズボンを覆い隠す様に、毒々しい真紫のローブで包んだその姿。奴の名は…、


揺蕩たゆた毒虫どくむし櫂毒かいどく 傀儡郎くぐつろう


 その櫂毒かいどくの真正面に座る悪魔染みた男だってそうだ。浅黒い肌、後ろへ撫でつけられた黒髪、精悍な顔立ちだが眼は白と黒が逆転し、側頭部にはヤギを思わせるねじくれたツノが2本。

 純黒の執事服に身を包んだその姿と、特徴的なのはあのセリフ。一部読者からは『編集殺し』又は『コロスケ』と呼ばれた奴はまさしく、


三重みえけもの』ベリアル・迦羅から


 彼らはチート主人公のファフナちゃんでさえ、手を焼いていた超強敵だ。


 俺の知る範囲では確か、一年の夏休み編で櫂毒かいどくはファフナちゃんとヴロちゃんさんたちに敗れ逃走していた。

 巻数にして7、8巻くらいだったか。そう聞くとそんな強くないんじゃないか?序盤ボスじゃんと思うかもしれない。だが舐めちゃいけない。

 あの人並外れたチート級の力を持つファフナちゃんが苦戦を強いられ、あまつさえ逃走を許したのだ。

 ベリアルに至っては未だ倒されてもおらず、スキルも全て判明には至っていなかったハズ…。

 俺は彼らが怖い。漫画で見てスゲー、コエーと他人事の様に思うそれでは無く、純粋に恐れている。何故なら彼らは容易く人を殺す。殺人は彼らにとって、手段の一つに過ぎないからだ。


 なんでこんな時期にこんな場所にいるんだ…?元々、原作時点でニアミスしていた設定だったのか?


「どうしたのどっくん?顔色悪いよ。お腹冷えちゃった?」

「えっ?あ、ああ大丈夫大丈夫!ちょっと勢いよく食べ過ぎて頭がキーンってなってただけだから!」

「意地汚さのなせる技だな」

「こらヴロトレキ、口が悪い」


 ここにいるのはよろしくない。お店の人には悪いけど、パフェは残して店を出てしまおうか…。

 そうだ。そうしよう。関わらないに越した事はないんだ。ご飯を残すタイプの人なんだとファフナちゃんからのイメージダウンは免れないが、背に腹は替えられない。

 俺がみんなに対して、満腹だから帰ろうかと提案しようとしたその時だった。


「よぉ〜、ちょっといいかよ。れへへへへ」


 ブワッ………!!!


 肌が泡立つ感覚に襲われる。全身の体感温度が急激に下がり、額からは嫌な汗が滲み始めた。


 …っ櫂毒かいどくだ。


 何故か櫂毒が俺たちの席まで来ている。彼はフラフラと千鳥足で立ちながら俺らのことを包帯に覆われた目で舐める様にして見ている。対してベリアルはというと、席で一人静かにコーヒーを口にしていた。

 まさかコイツ、すでにファフナちゃんを手に入れようとしてるのか…?緊張と困惑で俺の頭はおかしくなりそうだ。念の為、スキル発動の準備をしておく。

 櫂毒は先程と同じく変わらぬ態度でヘラヘラと笑うと、独り言の様に呟き始めた。


「俺な、気になっちまってなぁ。れへへ。ベリアルはさぁ。アイツ、ニンゲンじゃねーから気にならねーんだけどよぉ…。れへへへへ」

「ど、どーしたんですか?」


 落ち葉ちゃんが突然の事に、緊張した面持ちで死神染みた男に尋ねた。

 ファフナちゃんがソファを立ち、ゆっくりと落ち葉ちゃんの前に立つ様に移動を始めた。

 ヴロちゃんさんがスキルを発動し、右手の指輪に手を掛けた。店内に流れる軽快なクラシックが今は無性に邪魔だ。


 男の、櫂毒の裂けた口が口角を上げる。無精髭の生えた顎先を、枯れ枝の様な指で撫でると、ゆっくりと口が開かれた。


「…そのクソでけーパフェはよぉ。ホントーにうめぇのかよ?」

「へ?」

「は?」

「ん?」


 ……………え?


「いやぁなぁ。れへへへへ。俺ぁこう言ったチャレンジメニューみてぇなのが苦手でよぉ〜。色味がマジに美味くなさそうだろ?なぁ、れへへへへ」


 櫂毒が先程まで俺が口を付けていたDXなんとかパフェを指差して首を傾げている。

 …なんだ?いったいどういう状況なんだこれは。


 さっきとは一転、妙に弛緩した空気が流れ始めた。そんなこと、あってはいけないハズなのに。

 拍子抜けした様にファフナちゃんはテーブルに身を預け、ヴロちゃんさんは眉を顰めるばかり。俺なんて訳もわからず固まっている。こんなに気を許して良い相手では無いハズなのに。

 ただ、落ち葉ちゃんだけが彼、櫂毒の投げかけた疑問に対して柔らかな笑顔を返した。


「おいしいですよ!確かにめちゃくちゃカラフルでびっくりするんですけど、ちょうど良い甘さでミルクのコクとほんのり香る様々なフレーバーが一体となってとっても美味しかったです!

 上からかけられた甘酸っぱいフルーツソースと一緒に食べるともういくらでも食べられちゃいそうで!

 ま、まぁわたしには多過ぎて半分でギブだったんですけど」

「ちょ、落ち葉ちゃ」

「……お〜、そうか!れへへへへ!そうかそうか、美味そうじゃねぇかよ!ありがとうなぁ〜!れへへへへ!やっぱ聞いてせいかいだったなぁ〜!れへへへへへへへ!」


 なんだこれは。どうなってる。疑問が後を絶たない。どうして悪役とヒロインが仲良くなってるんだ?

 一頻り笑った櫂毒が、不意に今にも折れそうな細い指で俺の方を指差してきた。


「…そんじゃこっちの残りを食ってやってた赤い髪のボウズが嬢ちゃんの彼氏ってわけかぁ」

「えっ!?いやいやいやいや!!!!!」


 落ち葉ちゃんがぶんぶんと大袈裟なまでに首を振る。それはもう取れてしまいそうなくらい。何を勘違いしているのか。落ち葉ちゃんは大切な幼馴染だ。

 彼女が否定すると櫂毒はそのまま腕をスライドさせてヴロちゃんさんの方を指差した。


「じゃあお前が彼女かぁ」

「…何を馬鹿な」

「あぁ〜?それじゃテメェかぁ」


 ヴロちゃんさんが当然の様に否定すると、最後にファフナちゃんの方へ指先が向いた。

 現時点で彼はファフナちゃんを認識しているのかは謎だ。そんな素振りはまるで見せず、ヘラヘラふらふらとするばかり。

 櫂毒かいどくの問いにファフナちゃんは小さく首を横に振った。


「…違うけど」

「れへ!あんだぁボウズ。女3人ハベらせてるかと思えばよぉ、苦労すんなぁテメェもよぉ〜。れへへへへへへ!れへへはへはへ!」

「あっ、あはははは」


 バンバンと背中を叩かれ敵キャラに励まされた。状況が飲み込めない。俺はもう笑うしか無い。ちゃんと笑えているだろうか。引き攣ってはいないだろうか。

 ヘビくん達は警戒しているのか、俺の首後ろで小さく丸まっている。


 カツン、カツン


「…殺殺殺かいどく殺殺殺殺殺(直に集会だ)殺殺殺殺(油を売っている)殺殺殺殺(暇は無い)


 …もうどうなっているんだ。

 悪魔染みた男、ベリアルまでこちらに来てしまった。彼の特殊な口調はまるでこちらの気が触れてしまいそうになる。

 脳内にはちゃんと言葉として送り込まれてくるのだが、言葉の一音一音が憎悪と殺意に満ち満ちている。聞いているだけで気分が落ち込み、不思議と死にたくなってくる。みんなも急な頭痛や気分の低下に不思議そうにしている。

 だが、櫂毒の方はと言うと彼のそんな言葉などまるで意に介さず、ニヤケ面でれへへと笑った。


「れへへへへ。ん〜?おぉ〜、テメェ相変わらず食うの早ぇよ。れへへへへ。先に行ってろ」

「殺殺殺殺殺《遅れるなよ》。殺殺殺殺殺殺《姫様が悲しまれる》」

「わかってらぁなぁ〜。れへへへへ」


 そう言い残して悪魔染みた男、ベリアルは静かに店を後にした。

 良かった…。ホッと胸を撫で下ろす。とりあえず櫂毒より強そうな方は出て行ってくれた。

 後は彼だが、やはり現時点でファフナちゃんのことを認識していないのだろうか。バリバリと頭を掻くと、ふらつく足で自身の席へと踵を返した。


「あぁ〜…俺もさっさと食うとするかぁ〜。れへ」


 フラフラと千鳥足で冷めたホットケーキの置かれた自席へ戻る死神染みた男、櫂毒。

 彼は一度こちらへ振り返ると、変わらぬニヤケ面で落ち葉ちゃんを指差した。


「茶髪の嬢ちゃんよぉ。教えてくれてありがとうよ。がんばるといいぜぇ〜、れへへへへ!れへへへへへへ!…おぉ、バターが溶け切ってやがる」


 そう言い終えると、櫂毒は己の注文した3段パンケーキと格闘し始めた。最早、こちらに一片の興味すら無さそうにして。


「な、なんか変わった人だったね?」

「…うん。そうだね」


落ち葉ちゃんの評価だが現時点ではそれ以上に言う事はない。

やはり、敵対するのは夏休みあたりからで今日は偶然出会ったと考えてよいのだろうか。

とにかく店を出るとしよう。縮こまっていたヘビくんたちがようやくニョロリと顔を出す。


「そ、それじゃ出よっか」

「美味しかったね。また来ようね!」

「うん。そうね」

「………」


テーブル上の空いた皿やコップをまとめて席を立つ。鞄を手に取り、最後にもう一度だけ櫂毒の方を見た。死神染みた男はひたすらにパンケーキと向かい合っており、妙に人間染みて見えた。


「どうしたの?」

「ううん。さ、行こっか」


レジに向かう。ファフナちゃんとヴロちゃんさんが既に待っている。落ち葉ちゃんに背中を押され、少し早足でそちらへ向かう。


『気を許すな』


………?


「今、落ち葉ちゃん何か言った?」

「ん?なぁに?」


気のせいか?

首を傾げ、リュックの中から財布を探す。


『あれらは人の形をした人外』


『決して心を許すなかれ』


 それは誰が発したもので、どういった意味を持つのかは理解出来なかった。

 だが、それが誰を指した言葉なのかは不思議とわかった。もう一度、後ろを振り向いた。


「…れへ」


 櫂毒がナイフとフォークを持って、パンケーキを切り崩している。まっすぐこちらを向きながら。


「あぁ…やっぱ殺すかぁ」


だがその姿は空気に溶ける様に消え、


「『煙ル汚辱ハ鏖ノ夜(チケムリ)』」

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