第三十二話 学校帰りの寄り道にパフェを
「駅の反対側にそのお店があるんふぁよ」
「…なんか見る度にボコボコになってるねキミは」
「いいクスリだよっ」
「右に同意だ」
本日は入学式のみ。それが終わればクラスで自己紹介や教科書の配布、時間割配布などなどで1日目は終了だ。
『じゃむうま』本編ではこの後、俺が空き教室に落ち葉ちゃんを連れ込みハレンチしてしまうわけだが…。
ここで俺は実に賢い案を思いついたわけ。ほな、お出かけしてまえばええやん。なんて頭のいい選択なんだ。我ながら褒めてやりたい。
「シャ〜」「むー」
ヘビくんたちが頭の上をぐるぐると這い回っている。きっと頭を撫でてくれてるつもりなのだろう。うれしい。
ただ今、俺はクラスのみんなとお別れして、落ち葉ちゃんとファフナちゃんとそのオマケの4人で移動中である。向かう先は落ち葉ちゃんとも約束していたパフェの美味しい喫茶店だ。
「誰がオマケだ」
「くぅ〜ん」
心を読まれた。怖いにょ。
雑談しながら駅から徒歩5分。あっという間にお目当てのカフェに辿り着いた。こじんまりとした隠れ家的なお店だ。クラシックな雰囲気がいい感じ。
「へぇ〜!結構おしゃれなとこじゃん」
「でしょう落ち葉ちゃん?俺ってば見る目ある〜!」
「「いぇーい!」」
落ち葉ちゃんとハイタッチ!ほらファフナちゃんも…!
おや?ファフナちゃんがジト目を向けてきたぞ。じゃ、じゃあヴロちゃんさん。うん。安定の無視。むしろ安心したわ。
ファフナちゃんが店先のサンプルを眺めながら、ふぅんと何やら感心している。
「なるほどね。ジャミラってすぐこういうとこに女の子連れ込んでそう」
「な、ななな何を言うか!俺はそんな軽薄ナンパマンじゃありませーん!ねぇ、落ち葉ちゃん」
「………ノーコメントで」
「落ち葉ちゃん!?」
突然の裏切り!?俺ってば悲しい!
慰めてヴロちゃんさん!わぁ、ジト目刮目!
「…貴様、困ったらワタシに話を振るよな」
「絶対ロクな返事返ってこないのにね」
「どっくん、そういう性癖なの?」
俺の株がどんどん下がっていくなぁ。
いったい何が悪いのか。考えても分からんの花。
さ!こんな道端で話し込むのも迷惑だろうから、早くお店に入りましょうよ!ほらほら!
「押すな押すな!」
「何にしようかな」
「みんなでシェアしようねー」
「こんちはー!4名でーす!」
「いらっしゃいませー!」
…
……
………
店内は昔ながらの喫茶店と言った感じだ。
クラシック音楽が流れていて、ほんのりとコーヒーの良い香りが漂っている。リサーチした通り良さそうなお店だ。
ただ、マスターらしき人物が肩まで捲り上げたシャツ姿に、頭にはハチマキを巻いて腕組みしているのだけが気になるが。
「お決まりでしたらご注文お伺いしますよー」
店に入るとテーブル席は僅か四つ。どうやら俺たち以外に客はいないらしい。
メイド姿の褐色ウェイトレスさんに奥の席へと案内された。革張りのソファは少しへたっているが座り心地は悪く無い。
テーブルに置かれたメニューを開くや否や、お冷を持ってきた店員さんがにっこりスマイルで伝票を手に取った。
「みんなもう決まった?」
「わたしこの DXDXマキシマムジャンボレインボーパフェ!」
落ち葉ちゃん手厳しい!それ1番高いやつ…いや2番目か。や、優しいのか…?
俺はもう決まってるけど、みんなは何にするのかな?ファフナちゃんはメニューをバサバサと忙しそうに捲ると、わずかに悩んでから「よし」と頷く。
「私はシンプルにチョコバナナパフェにしようかな」
「ヴロちゃんさんは?」
「要らん」
「またまたー」
「要らん!」
「んじゃこの抹茶パフェお願いしまーす」
「貴様ぁっ!」
「折角、来たんだしいいじゃんね。
それにヴロさんちゃん抹茶好きでしょ?」
「む、ぐ……待て。ワタシがいつそんな事を言ったんだ?」
「あ、えー?勘だよ勘!ほらヴロちゃんさん抹茶みたいな顔してるし」
「殺すぞ」
「俺はメロンクリームソーダ」
「はいー。以上でよろしいですか?」
「「「はーい」」」「フン…」
危ない危ない。うっかりしてた。原作知識のお披露目を迂闊にしてはいけないな。
たまーに、あれ?これって原作情報なのか?それとも蛇腹 独葉巳として生きた16年間で得た知識なのか?と分からなくなることがある。今度、まとめ上げてみるべきだろうか。
うんうんと俺が頭を悩ませていると、パフェはすぐに運ばれてきた。
「お待たせいたしましたチョコバナナパフェのお客様ー」
「はーい。ありがとうございます」
「抹茶パフェのお客様ー」
「………」
「おりょ?」
「ヴロトレキっ!もう諦めなさい!」
「くっ!頂戴する…」
「DXなんちゃらレインボーパフェのお客様ー」
「はいはいはーい!わたしでーす!…おぉ、でか。写真撮ろっと」
落ち葉ちゃんの頼んだパフェだが、彼女の顔よりデカいぞ。良かったよ俺、飲み物だけにしといて。残りそうなら頂きましょ。
「メロンクリームソーダのお客様ー」
「はいはいー。ありがとうございまーす」
うんうん。この鮮やかな緑のメロンソーダと真っ白なソフトクリーム。いつ見ても嬉しくなっちゃうね。いただきまーす。
うん!この濃厚でミルキーなソフトクリームと人工的なメロン味が奏でるハーモニー!たまらんっ!サクランボのシロップ漬けも嬉しいね。俺は最後に頂く派なのだ。
チラリと正面のヴロちゃんさんを見る。満更でも無さそうな表情で抹茶パフェを軽く崩すと、彼女は小さな口へとスプーンを運んだ。お、ちょっぴりだけど表情が柔らかくなった。感想を聞いてみたいが多分機嫌が悪くなるし、じっくり楽しんでて貰おう。
さーて、俺はクリームをメロンソーダに混ぜ混ぜてしちゃおうかな。
「うっわ!久しぶりのパフェうっま!!!」
大きな声が斜め前の席から上がった。ファフナちゃんだ。思わず声が出てしまったらしい。完全に素が出てたもんね。
しばらく目を見開き固まっていた彼女だが、ハッとすると顔を赤らめて小さくなってしまった。
「わかるわかる。久しぶりのパフェって沁みるよね」
「あはは!ファフちゃんかわいー」
「聞かなかったことにして…」
「このヴロトレキ!ここにいるニンゲンの記憶を残らず抹消して…」
「「「待て待て待て」」」
突然のファフナちゃんでびっくりしていた落ち葉ちゃんも写真を撮り終わったらしく、一口目に取り掛かる。
カラフルすぎるクリームをスプーンいっぱいに掬い上げると小さなお口に頬張った。
「んぐ。わぁ、おいしい!!さすがどっくんの見つけたお店だね!」
「へっへっへっへ。もっと褒めてくれてもいいんだよ?」「シャ〜」「よ〜?」
「すごいすごい!えらいえらい!
はいっ!一口どうぞー」
「ありがと落ち葉ちゃん。あーん」
落ち葉ちゃんから直接スプーンでDXなんとかパフェを頂く。
お、アメリカのお菓子見たいな色してるけど全然甘ったるくないぞ。むしろ、上からかけられたフルーツソースに程よい酸味があっていくらでも食べれそうだ。
…おや?なんかファフナちゃんがスプーンを口元に持って行った状態で固まっている。
「どしたのファフナちゃん」
「アイス垂れちゃうよファフちゃん」
「…え、あぁ、なんか、スゴいなって」
「「何が???」」
「いや、直接あーんするとか」
「幼馴染なら普通じゃない?」
「ねぇ?」
「いやいやいやいや。無いでしょ。ね、ヴロトレキ」
「ワ、ワタシならファフナ様に口移しでも…!」
「聞いてない聞いてない」
それからは今日出来た友だちについて話したり、どんな部活に入りたいかなど、わいわいがやがやと雑談を重ねているとあっという間に時間は過ぎていく。
途中でヴロちゃんさんから一口貰おうとしてぶっ飛ばされたり、アイスを分けて貰ったヘビくんたちが食べ過ぎで冬眠しかけたり、落ち葉ちゃんが予想通りお腹いっぱいになってピクリとも動かなくなったので残りを頂いたりと実に楽しい時間を過ごせている。
いやはや、しかし。なんやかんやで着々と友情を育めているなぁ。俺は落ち葉ちゃんの DXなんとかパフェをもぐもぐしながら心の中で安堵していた。俺が落ち葉ちゃんにハレンチして退学エンドも免れたことだし、しばらくは安心安心。
カランカラン
ドアに取り付けられた鐘が鳴る。どうやら他のお客さんが来たみたいだ。この店を見つけるなんて中々通な人だな。ちらりと視線を向けると客は2人組の男だった。
「殺殺殺殺?殺殺、殺殺殺殺殺」
「れへへへへ。そんな以外かベリアルぅ?俺がこういう店に入るのはよぉ〜?」
………っ!?
喉が引き攣る。口に含んだパフェは気管支へ流れ込み、思わず咳き込んでしまった。
「げぇほっ!げほげほっ!!?」
「『御魂揺るがす五天輪・第四』!汚いぞミナダイスキー!」
「わっ!」
「大丈夫?」
吹き出してしまったパフェは全てヴロちゃんさんがスキルで防いでくれた為、場を汚すことはなかった。そこは本当にありがたい。
………い、いやそんなことより!
改めて男たちの方を見る。もちろん気づかれない様にしながらだ。
彼らは俺たちとは真反対側の窓側テーブル席に腰を落ち着けていた。その容姿は一度見れば忘れられない程に実に特徴的で、俺の知っている人物の特徴と完全に一致している。
やっぱりそうだ。
どうしてここに?
なんでこんなとこにいるんだ?
まずい。
このままじゃまずい…!
なんで…!
なんでここに悪役が2人もいるんだよ…!?




