第三十一話 入学式②
「入学生代表、龍紋 ファフナ。
春の息吹が感じられる今日…」
ファフナちゃんが定型分を読み読みしている。場所はもちろん舞台上の演台で、だ。
ついさっきまで学園長や人形たちが踊り狂ってた場所とは思えない程に綺麗さっぱりだ。
…いや、舞台袖から学園長が顔出してるわ。手ぇ振ってきたぞ。振り返しとこ。
だがしかし、他の新入生や在校生はファフナちゃんの見目麗しい姿に釘付けで誰一人として彼の存在に気づいていない。お、泣きながら引っ込んでったぞ。哀れな…。
「…以上をもちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます」
あ、終わっちった。川のせせらぎの様に心地よい声だったなぁ。録音しといたら良かった。夜寝る時とかにむっちゃ良さそう。
おっ、ファフナちゃんが戻ってきたぞ。みんなみんなポーッとした顔で彼女の方に注目している。美少女だからね。しょうがないね。
彼女はと言うと強張った面持ちで胸をホッと撫で下ろしている。
「あー緊張した…。どうだった落ち葉。ちゃんと声出てたかな?」
「うん!ファフちゃん良かったよ!」
あれれ、俺には聞いてくれないの?ま、まぁ隣の落ち葉ちゃんに聞くのは当然か!…しくしく。
「ど、どうしたに御座るかどっくん殿」
「ちょっと目にホコリが…」
スズミんちゃんに慰められたり、ファフナちゃんがそれを見て首を傾げたりしていると、進行役の先生が手に持った紙を読み上げる。
「えーっと、生徒会長並びに在校生代表は前へ」
「あー、ワームヴェルト学園生徒会会長、呼子 左記」
「はい」
黒髪三つ編みの女の子が演台に立つ。この先輩は確かテレポーテーション系のスキルを持っていたはずだ。
『じゃむうま』本編では、夏にダンジョンに入る機会があり、そこでかなりお世話になるのだ。親しくしておいて損は無い。
「んで三年代表、苦渋ヶ島 心腑」
「はぁい」
出た苦渋ヶ島家。瞳告くんのお兄ちゃんに当たるのかな。チャラチャラした雰囲気のホスト風のイケメンが前に出る。
この人は後々ファフナちゃんにしつこくナンパを仕掛けてくるので要注意である。
「そんでラスト。二年代表、光・マーダー」
「…はい」
お、マーダー家。爆世のお姉さんか。金髪おかっぱ頭の大人しそうな女の子が前に出た。
彼女とファフナちゃんは模擬戦で戦ってたかな。確かスキルは………
………あれ?
原作見た時は気にしてなかったけど、御三家の一つ、宍喰井家がいないな。学年代表になってもおかしくないのが1人いたはずなんだけど、この時は登場してなかったか?
性格はともかくマジ強だったから学年代表になっててもいいはずだけど…。
〆ちゃん先生は物知りそうだし何か知ってるかしら。スケッチ中に失礼。俺はお隣の〆ちゃん先生にこっそりと耳打ちした。
「ねぇねぇ〆ちゃん先生?」
「…んひゃっ!コホン、どうしたのだね赤髪くん」
「な、なんかゴメンね。ちょっと質問いいかな?」
「…ふむ。先程アイディアをくれたお礼だ。この〆桐に答えられることならなんでも聞いてくれ!」
みょいんとつけ髭を弄りながらふんぞり返る〆ちゃん先生。ヘビくんたちが真似して俺の髪をヒゲに見立てて遊んでいる。かわいいね。
「それじゃ遠慮なく。…………《《レックス》》って知ってる?」
「レックスというと…2年の宍喰井 裂空洲ですかな?」
そう。その宍喰井 裂空洲だ。
別名『暴竜』レックス。
宍喰井家の最高傑作にして学園一の問題児。この歳にしてダンジョンを一人で踏破し、暇つぶしに危険区域に無許可で出ていき魔物を狩り倒しているあたおかである。
彼は本編にてファフナちゃんを手に入れようと彼女と大バトルを繰り広げるのだ。
そして、チート持ちと言っても過言ではないあのファフナちゃんがギリギリ辛勝というレベルの強キャラなのだ。
「うん。そのレックス先輩なんだけどスゴい強い人だって聞いてたからさ。学年代表になってるんじゃないかなーって」
「ふぅむ。この〆桐の知る限り、彼は今警察に捕まっているハズですな」
「え、そうなの??」
「うむ。天地開闢以来の問題児、宍喰井 裂空洲は先月の末、危険区域まで出向くと何やら暇つぶしに魔物を絶滅するまで狩り尽くそうとしたとか。
そして、それを止めようとした天秤機関職員数名に重傷を負わせたとかで現在、拘留中の身ですな」
「へぇ〜!そうだったんだありがと」
なるほど!やっぱあたおかだわ!彼とファフナちゃんは出来るだけ出会わない様に立ち回りたいものだな。うんうん。
「あれ?」
俺が一人で納得していると不意に後ろの席から声が上がった。ファフナちゃんである。彼女は俺の背もたれにもたれかかりながら、小さく首を傾げた。
「なにジャミラ。キミ知らなかったの??」
「え?いや、俺ニュースとか見ないから」
「どしたのファフナちゃん?」
落ち葉ちゃんも不思議そうにしている。ニュースでそんな大々的にやってたのかしら。俺ってばテレビは基本ドラマしか見ないから…。
「あれ?落ち葉なら仲良いから知ってるんじゃない?彼ってば宍喰井家の…もごっ!」
慌ててファフナちゃんの口を手で塞ぐ。なんか懐かしいわ!
いやぁん!それにしても、しっかり忘れてたぞその設定!あぶねぇ〜!
『俺、蛇腹 独葉巳は宍喰井家の分家でファフナちゃん監視の為の使いである』
そんなん無理くりでっち上げた設定だからそりゃ落ち葉ちゃんが知る由も無い。もう少しで落ち葉ちゃん経由でバレてしまうところだったぞ!
そんな大嘘つき野郎だってバレたら嫌われちゃってお友だち大作戦が失敗しちゃうでしょ!
俺は大慌てでファフナちゃんにこそこそと耳打ちをする。
「いい?ファフナちゃん!俺は落ち葉ちゃんを変なことに巻き込みたく無いから万が一を考えて教えてないの!」
「んっ…!ちょ、オレ耳よわ…!」
「で!レックスの件は本家の方が、俺みたいな末端も末端まで教えてくれてなかったの!おーけー!?」
「わわわ、わかったわかった!わかったからもう離れて!」
わかってくれた!?
こら!ビクンビクンしてる場合じゃないやい!顔を赤くしてへたっと力なく席に着くファフナちゃん。小さくコクコクと頷いている。
…ふぅ。どうにか納得してくれたか。
おや?落ち葉ちゃんがすごい顔してオレのことを見ている。なぜか目がガンギマリだ。……パフェ奢るどころじゃ済まないやもしれん。
「はい在校生共ありがとう。ほんじゃ入学式を終わりまーす。あざした」
あれっ!?いつの間にか全部終わってら!
お、明かりが全部ついた。あぁ、物凄い勢いでヴロちゃんさんがこっち来てるわ。
もう!ちょっとの間ファフナちゃんと離れてたからって…違うわコレ俺に来てるわ。目が吊り上がってら。あ、これ死んだわ。一句読むか。
「静けさや 勘弁勘弁 マジ勘弁」「シャシャシャシャシャシャシャ」「んー!!!」




