第三十話 入学式①
席に着く。お、ふかふかだ。背もたれも動くじゃん。お金かかってそ〜。
いやはやそれにしても入学式かぁ。その後が気になってばかりで気にも留めてなかったな。
確か『じゃむうま』本編ではダイジェストだったから詳細には語られてなかったはずだ。一流の学校さんは一体どんな入学式を見せてくれるのかしら。案外、普通だったり?
「お隣失礼に御座る」
「はいはい〜」
席順は名前の順。来た人たちから席に貼られたネームボードを見ながら自分の席に着いていく。俺の左の席には〆ちゃん先生が座っており、ふんふんと鼻息荒く館内をスケッチ中で忙しそうだ。
そして右の席に今来たのは御座る口調のスズミ・スズミバードことスズミんちゃん。絶賛帯刀中の生粋のポニテサムライっ娘である。お、目が合った。自己紹介しときましょ。
「俺はみんな大好きどっくん。同じクラスの仲間としてよろしくね」
「ほほう。その傷だらけの体、なかなかの強者と見た。拙者、スズミ・スズミバードと申す者、どうぞよろしく頼むでござ…む?どっくん殿とやら、首元に何か…」
スズミんちゃんが興味津々だ。ふっふっふ。仕方がない。マイプレシャスレッドヘアーで遊んでいる可愛いヘビくんたちを見せて差し上げよう。
「聞いて驚け見て笑え。ほーら、出ておいで〜」
「シャ〜?」「な〜?」
「にょわぁぁっ!!!!!へ、へへへへへへヘビっ!?」
「うぉぉぉっ!あぶいあぶい!!」
いやぁん!こんな至近距離で日本刀抜かないでっ!パニックになったスズミんちゃんが刀を握りこちらに向かって抜刀術をお披露目してくれちゃいそうだ。
ま、まさか、こんなところに死亡フラグが潜んでいたとは…!ししし真剣白刃取りっ…!
「………?」
無謀にも来るであろう刀を受け止めようと眼前で両手を構えながら縮こまっていたが、いつまで経ってもハラキリフジヤマ斬首の刑がやってこない。何がどうなったのかと恐る恐る目を開ける。
「お?」
「はっ!拙者は何を!」
結果としてスズミんちゃんが刀を鞘から抜ききることは無かった。寸前に後ろの席にいた誰かが身を乗り出し、ツカの部分をピタリと手で押さえていたのだ。
「あっぶな!まーたジャミラは何やってんの」
「どっくんてばトラブルメーカー」
え?俺が悪いの今の…って、おぉ!ファフナちゃん!後ろの席だったんだ。お隣には落ち葉ちゃんも。そっかそっか名前の順だもんな!
「す、すまぬ。少々取り乱した。
拙者、昔からニョロりとしたものが少々苦手で」
「シャ〜…」「に〜…」
「くぅ〜ん…」
ヘビくんたちがショックを隠しきれていない。まさかこんなにキュートフルなヘビくんたちを苦手とする人がいるとは…。あとちょっとチビった。
でも、そうか。そうだよな。人の数だけ苦手なものも異なるのだ。俺もピーマン苦手だし。こちらの配慮が足りなかったな。
「スズミんちゃん俺たちもごめんね」「ねー!」「シャシャシャ」
「いや!どっくん殿が謝ることなど…!あぁ、これもう拙者責任を取って腹を切るしか…!」ババっ
「「「待て待て待て待て!」」」
シャツを捲り上げながら、どこからか小刀を取り出したスズミんちゃんを大慌てでみんなで羽交締めにして止めた。こーの責任感の申し子めー…!
…む?どこからか視線を感じるぞ。主に俺の左側奥の席から。あ、見なくても分かるわ。これヴロちゃんさんだわ。だって殺気スゴいもん。自分だけ席が離れてるからって僻まないでほしい。
『あ、あーマイクテストマイクテスト』
「お?」
「御座る?」
「始まるかな?」
『レッディーーーーーーーースアンッゼントルメーーーーーーーーーーン!!!!!!!!さぁさぁみなさん舞台の上にご注目!!!』
スピーカーから男性の声が大きく鳴り響いたかと思えば、キーンと若干のハウリングを残して消えていく。俺たちはただただ呆気に取られるばかり。
突然の事に一瞬の静寂が場を支配した。だがそれも束の間の事。タタンタタンと軽快なタップ音がどこからか聞こえてきた。
舞台の上だ。見ると杖を片手に持ったタキシード姿にシルクハットを被ったピエロメイクのおじさんが舞台上でタップダンスを踊っているじゃないか。あれ、俺サーカスでも見にきたんだっけ?
『いやはや遂に始まったぁ!』
『ワタラクシは学園長の惡上 発条!キミたちの入学を心より祝福いたしまぁすっ!!!!!!!!!』
タァん!と決めポーズで動きを止めるピエロのおじさん。もしかして今、学園長って言ってた?
『拍手っ!!!』
そう言ったかと思うと、学園長がこちらに向かって耳に手を当てた。
ぱち…ぱちぱち…ばち…、拍手はまばらだ。それも仕方ないだろう。だって、誰も彼も突然のことにびっくりしているのだから。
『おーやおやー?まーったくもって聞こえないぞぉーーー???さぁさ、もう一度!拍手っ!!!!!!』
ハッと我に帰った新入生一同が手を叩く。
先と打って変わって万雷の拍手が学園長へと送られる。
パチパチパチパチパチパチパチパチ!
すると気を良くしたのか深く深くお辞儀をする学園長。
そして、彼はどこからか取り出したマイクを小指をピンと立てながら持つと、にっこり笑顔を浮かべた。
『どーもどーも!いいねいいね!ノってきたね!!!!興も乗ればスキルも踊る!!!
スキル発動『絡繰倶利伽羅殻呉名入』!』
ぱちん!
学園長が指を鳴らす。すると、祝館の天井の真ん中が割れた様にパクリと開き始めた。
暗かった室内から一転、陽の光の眩しさに目をシパシパさせていると、祝館の壁が反転し楽隊姿の人形が次々と現れる。舞台の袖からもマスコット的な着ぐるみたちやコーラス隊がぞろぞろと現れる。
あ、廊下に並んでいた西洋鎧や初代校長像もいる。空からは門の上にいたガーゴイルまで飛んできた。
『さぁ始めよう!』
タタん♫
再びステップを踏み始めた学園長。
そのリズムに合わせて楽隊が一斉に各々の楽器を弾き始め、ぞろぞろと舞台上にいた着ぐるみや校長像が優雅に踊り始めた。
絵本の中の世界や子どもの頃に見た夢の様な不可思議な空間が目の前に広がっている。
『もう一度言おう入学おめでとう!!!
夢はあるかな子どもたち!!!何がしたいと門をくぐった!!!
スポーツかな?勉学かな?スキルを磨いてビッグネームの討伐?それともダンジョン踏破かな?…なんだっていい!夢がなくたってもいいさ!』
『これから見つけりゃ大儲け!!ここは全てが揃うワームヴェルト!なんでも出来る!なんでもやれる!』
『励みなさい若人たち!楽しみなさい若人たち!!我々はいつだって君たちのサポートをしよう!』
『そう!だってここは!……………ワ〜〜〜ムヴェ〜〜〜〜♫
「はい学園長からのありがたいお言葉でしたー。ほら早く幕閉めろ。共感性羞恥すごいわ」
『ちょーっと今最後のシメのとこだったんだけど!?あーっ!!いやーっ!!!幕が閉まる幕が閉まる!くっそー!それじゃあ、みんな楽しく学んで育っていこう!!!』
パタン
閉まりゆく幕から体を覗かせ、パチンと一つウィンクを残していった学園長。
い、いやぁ嵐の様に現れ嵐の様に去って行ったなぁ。ポカンとしていると落ち葉ちゃんがポツリと呟いた。
「な、なんかすごかったね」
「う、うん」
落ち葉ちゃんに激しく同意。なんかすごかった。そうとしか言い様が無い。
「…風邪引いた時に見るタイプの夢だわ」
「う、うん」
ファフナちゃんが引き攣った笑みでそう言った。そうそうインフルエンザの時とかのやつ。
「えっと、んじゃ今の校歌斉唱と校長の式辞兼ねてたって事で。お次は入学生代表挨拶。
龍紋 ファフナ。前へ」
「あ、はいっ!!!!」
気怠げな教師の進行でファフナちゃんの名前が呼ばれた。そうそう。ここは入学式ダイジェストで見たんだよ。
まさかその前にこんなとんちきな事が行われてたなんて思ってもなかったよ!




