第二十九話 現在、廊下を移動中
教室を後にして、ぞろぞろと列を成して入学式の会場へ向かう。俺は教室の奥ということもあり、今は列のかなり後ろの方にいる。…どうもみんな大好きどっくんです!
今現在、俺たちが向かっている会場、名前を祝館と言うんだが、読んで字の如くお祝いをする為の会館である。
今から行われる入学式はもちろん、お祝い事やパーティー、卒業式の為に使用される場所である。内装はとても広く、それでいて豪華。どことなく劇場を思わせる雰囲気の場所なのだ。前世で例えるならクソデカ体育館。
いやしかし、廊下ひとつとっても非日常的だな。某魔法学校の様な喋る絵画が俺たちに祝福の言葉をくれるし、警備員役なのかプレートアーマーの西洋騎士が等間隔に並んでいる。俺らの頭上では手のひらサイズの妖精さんが忙しそうに飛び交っている始末。
これらひとつひとつがきっと誰かのスキルなんだろうなぁ。
あ、そだ。折角だしファフナちゃんとおしゃべりしに行っちゃお。
席も離れてしまったこともあり、さっきの時間はぜーんぜんお話が出来なかった。
これではお友だち大作戦がうまくいかないではないか!よしファフナちゃんの近くまで移動しよう。
「ごめんミニーくん、ポメくん、ミノくん。
俺どぉ〜してもお話したい人がいるんだ。
だから、今だけ前の方に移動したいんだけど良いかな?」
「じゃあ、お詫びにポメの騎士団に…
「さっきの女どもだぢょ?」
「そんなところ」
「ふぅ…仕方ねぇ奴だぢょ。今度、おで様との時間を設けるぢょよ」
「もぉもぉ」
「ちょっとポメはまだ納…あー!」
「ありがとうみんな!今度、一緒に遊びに行こうな!」
ごめんねクラスのみんな。寛大な心で俺を通してあげてね。俺はファフナちゃんとおしゃべりがしたいのだ。
「ごめんごめん通して通して」
「なんですの貴方」
「すまぬすまぬ通して通して」
「御座る御座る。どうぞ行くが良いで御座る」
「そーりーそーりー通して通して」
「はーい、通しまーす!せまくってごめんねー!」
「おっぱいでっかおっぱいでっか」
「…む、むむむ。おっぱい星人な中性的美少年…。…こ、この〆桐、天地開闢以来の驚嘆!アオくん描くぞ!」
「はい先生!ベタの準備もばっちしですとも!」
若いってのは元気ってこと。活気溢れるみんなの横を平謝りで通してもらい、ようやく来ましたファフナちょん。
しかし、ファフナちゃんを隠す様に立ち塞がったのは空色の髪の女の子、ヴロちゃんさん。…ふ、ちょうど良かった。キミには聞きたかったことがあるんだ。
「来ると思っていたぞミナダイスキー」
「ぷーさんのおっぱいどうでした?」
「…む。あれは不思議な感覚だった。暖かく柔らかく、夢見心地な…って何を言わせるか貴様!」
「ほうほう。だってさ〆《しめ》ちょん先生、漫画の参考なりそ?」
「…この〆桐、天地開闢以来の感激!感謝する誰とも知らぬ赤髪のキミ!アオくん、これより〆桐はネームの修正に入る!…ア、アオくん?」
「アオの胸囲も負けてませんとも…!」
「ア、アオくん…!」
ふんふんと鼻息荒く己のぺたんこバストを揉んで見せる紺色ツインテはアオくんこと、雪見辻 アオちゃん。
そしてそんな彼女が先生と慕うのは、ベレー帽にまんまる眼鏡、そしてチャーミングな口元の付けヒゲをみょいんみょいんと動かしながら動揺している〆桐 グローバルエリアちゃん。
俺は2人だけの空間に突入した彼女たちを見送りつつ、ヴロちゃんさんへ視線を戻した。
「相変わらずふざけた男だミナダイスキー!」
「…くぅ〜ん。俺ってそんなにふざけてる?ね、どう思うヘビくんたち?」
「ち〜?」「シャーク!」
「なるほど。ヘビくんたちはそう思ってないって」
「いや普通におふざけ大魔神だと言ってるが」
え、俺ヘビくんたちにそんなこと思われてたん?ちょっぴりショック。俺が肩を落とすと、ヘビくんたちが何やらフォローするかのように鳴き始めた。
「シャシャシャシャシャ!」「ぎー!」
「…ちなみにヴロちゃんさん、今なんて言ってるの?」
「まぁ、根はいいヤツだから仲良くしてあげて欲しいだと…って何故ワタシが貴様に通訳をしてやらにゃならんのだ!!!」
「ヘビくん…」トゥンク「シャ〜…」「いぇあ…」
「ワタシを置いて眷属共との世界に浸るなこの阿呆!」
「いひゃひゃひゃひゃ!」「ひゃー!」「シャ〜?」
いひゃいいひゃい!俺のぷるつやほっぺが千切れる!ヴロちゃんさんに両頬をつねられ悶えていると、彼女の背からひょっこりとファフナちゃんが顔を出す。びっくりした。美人すぎて女神かと思った。
「ちょっと。声大きすぎるってヴロトレキ。さっきから過保護すぎるから!」
「し、しかしぃ」
「しかしじゃない。オレ…じゃない私、クラスのみんなから一体何者なんだって目で見られてるんだって。…ほっぺ大丈夫?ジャミラ」
「らいじょーぶらいじょーぶ。俺のほっぺ伸縮性に富んだもちふわほっぺだから。
いやぁそれより、なんか久しぶりな気分だねぇファフナちゃん。ちょっちお疲れ気味?」
「ふっ!ファフナ様は疲れなど知らぬ!」
「ちょっと、ね」
「なにっ!?大丈夫ですかファフナ様!!!すぐに医者を…!」
「いやぁ、久しぶりにたくさんの人と話したら結構来たなぁ」
「なんと…!許せんぞニンゲンども!」
「まさかあそこまでコミュニケーション能力が落ちてるとは我ながらショックだよ…」
「ファフナ様が哀しいとワタシも…」
「「やかましいっ!」」
ふぅ、とため息を吐いて自分に呆れた様子のファフナちゃん。てかヴロちゃんさんエグいくらい会話に入ってくる。頭おかしなるで。
若干、ファフナちゃんが女口調を忘れて素に戻ってるのは慣れない環境による疲労からだろう。まぁ、仕方のないことだと思う。なんせ約十六年間ほとんど人との絡みが無かったのだ。会話デッキとかタンスの奥っちょに仕舞われてることだろう。
おや?ファフナちゃんが俺の周りを見回している。誰か探してるんだろうか。ぐるりと俺の周りを見渡し終えると、彼女は「あれ?」と声を上げた。
「落ち葉は?一緒じゃないんだ」
「落ち葉ちゃん?俺はファフナちゃんといるものだと思ったんだけど…」
「いや、そうだったんだけどね。さっき、ジャミラを探しに…」
「ぶはっ!いたいた2人とも!」
ぼすん、と俺の背中にぶつかったのは何を隠そう落ち葉ちゃん。
もみくちゃになりながらここまで来たのか、ふんわり茶髪はわやくちゃで制服も乱れ気味だ。
「おぉ。落ち葉ちゃん何故後ろから?」
「どっくん探しに後ろに下がってたら入れ違いしちゃったんだよぉ!
苦渋ヶ島くんが教えてくれたから今、やっと戻って来れたの!」
へぇ、瞳告くんが。後でお礼を言っておこう。それより今は…落ち葉ちゃんと目が合った。何も言わずとも手を繋ぎ、くるりと同時にファフナちゃんへと振り向いて、
「さぁさぁおしゃべりしましょ!」
「そうしましょ!」
「2人はホントいつでもテンション高いね」
「ファフナ様はお疲…もごもご」
「それじゃ、ジャミラに落ち葉。少しの間だけどおしゃべりしよっか
「さぁ祝館だよ!席は名前の順番だネェ。
ズルはしちゃあいけないよ!」
「「が、が〜ん!!!!!」」
「ありゃ」
オヒゲ教官…ではなくオヒゲ先生のよく通る声が廊下を通り抜けた。
「そんなのってないよぉ」
「あ、あはは。落ち葉、残念」
…不憫な落ち葉ちゃん。ファフナちゃんも苦笑いだ。今日入学式が終わったら、あとでパフェでも食べ行こうね。あ、そうだ。良いこと思いついたぞ。
「そうだ。放課後カフェでも行かない?落ち葉ちゃん、この前の約束のパフェ奢るよっ!」
「ほんと!」
「あぁ、おかわりもいいぞ…。
ね、ファフナちゃんもどうかな?俺たちと一緒にパフェ食べに行こうよ。俺、この辺リサーチ済みだから良い店知ってるよ!」
「パフェかぁ。いいね。久しぶりだしご一緒させてもらおうかな」
「ならばワタシも…!」
やったぜ!俺の原作知識が火を吹いた!ファフナちゃんは実はなかなかの甘党なのだ。え?女の子って大体そう?へ、偏見だね思い込みだね!俺の華麗な交渉術が生んだ成功体験なんだい!
機嫌の治った落ち葉ちゃんたちと共に祝館へと進む。祝館の扉も正門同様に巨大だ。装飾の三体の魔人像が扉の上から俺たちを見下ろしている。お、目が合った。手ぇ振っとこ。やった。振り返してくれた。
中は暗いな。というか本当に巨大な劇場みたいだ。一階二階とずらりと席が並んでいる。暗いから気をつけて歩こう。
「ぬえっ!?」
「おおっと。せぇーふ!」
「せぇーふ!えへへありがと、どっくん」
「気をつけなよ落ち葉」
躓いた落ち葉ちゃんが頭を掻きながら笑い、ファフナちゃんが心配そうに声をかける。微笑ましい光景だ。これからもずっと見てたい。な、ヴロちゃんさん。
「にこにこ微笑むな気色悪い」
「くぅ〜ん…」
俺たちAクラスは一階の前方の席だ。舞台上だけがスポットライトで明るく照らされている。もうじき全クラスが揃うだろう。さぁさぁ、いよいよ入学式。わくてかテンション上げて行こう!




