第二十八話 教師オヒゲ・ガリッパ
「この後9時から入学式だ。すぐに中央の祝館へと移動するよ。
…いやはや嬉しいネェ。若人たちの新たな門出を祝えるのだから」
「だが、その前に…」と言いながら、オヒゲ教官は女の子2人をゆっくりと床へと下ろした。
「この〆桐…天地開闢以来の不覚…」
「先生〜…例えどの様な修羅場でも、アオは何処までも先生に着いていきますから…」
とぼとぼと席へと戻る二人を困った笑顔で見送り、彼は立派なお髭をピンと撫で付ける。
それから、こちらへ振り向くと脇に抱えていた出席簿をペラと開いて朗らかに笑った。
「はっはっは。先に簡単なホームルームを行うとも。教壇に立つのは随分と久しぶりだ。共に高め合いたいものだネェ」
本当にオヒゲ教官が先生なんだ。本当に良い人なんで担任になってくれるのは嬉しいのだけれど、一体どういう経緯で???
疑問は尽きない。後で聞いてみるとしようか。オヒゲ教官もといオヒゲ先生が現れたのを皮切りに、散らばっていたクラスメイトが席へと戻り始めた。
「後でもう一度名前教えるぢょ赤髪」
「ポメはまだ諦めてないからね!」
「もぉむ」
右隣の席にミニーくん。その前方にポメくんが。ミノくんはミニーくんのお隣の席へと戻って行く。
そして、それはバズや瞳告くん、落ち葉ちゃんも同様だ。
「へっ。先公という名の人生が来やがった。おい瞳告。席に戻るぞ」
「うん分かったよ爆世。じゃあ、またね蛇腹くん」
「ういうい〜」
「…覚悟しとけよテメェ。爆発するんだろ、オレと言う名の人生と」
「あたぼーよー!」「よー!」「シャー!」
「…わたしはまだキミのこと許してないんだから!」
「…はっ!テメェと言う名の人生に話してる訳じゃねぇよ女」
「ぐぎぎぎぎ…!わたし、キミ好きくないかも!」
「仲良くしてよ〜落ち葉ちゃんもバズも」
「はっ!」「ふんっ!」
ヘラヘラと笑うバズと対照的にズンズンと肩を怒らせて席へと戻る落ち葉ちゃん。
爆誕犬猿の仲な2人。くぅ〜ん…いつか和解して欲しいなぁ。それまでは俺が間で板挟みからの中間管理職。このままじゃサンドイッチになっちゃうよ。
「ほら神乳山くん。
ヴロトレキくんを離してあげなさい。無闇にスキルを使用するのはよくないネェ」
「はーい。ちぇー」
「ぬぉぉぉぉ…はっ!?先程までの柔らか謎空間はっ!?」
おぉ、羨ま…じゃなかった。良かった。ヴロちゃんさんが無事帰って来た。
ほら、キミの席は俺の前だよ。こらファフナちゃんにまとわりつくんじゃない。まったくもう仕方のないヤツだ。
「ヘビくんお願い。行って来てあげて」
「…シャ〜?シャシャー!」「いー!いー!」
なにやら縞ヘビくんと黒ヘビくんがおしゃべりしている。いや、これ押し付け合いしてるわ。なんて反抗的で可愛いんだ。
結局は縞ヘビくんが負けた様だ。ニョロニョロ渋々と床を這って行く。そして、ヴロちゃんさんの…あっ、ズボンの裾から入ってった。
「わひゃっ!んあぁ!!!?な、なんだコレはっ!何かワタシの…はうぅっ!あっ、キサマ…!ミナダイスキーの眷属!」
「く〜?」
縞ヘビくんが捕まった!まずいっ!ヴロちゃんさんがぶち切れフェイスでこっちを向いた!!!!俺はすかさず両手を顔の前で合わせて、
「これだけは言える。ホンマごめん」
「よくもこんな辱めを!!!!!ミナダイスキー・ドッグぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!」
「おぎゃぁぁぁぁぁ!!!!!??」
…
……
………
「では改めて、私の名前はオヒゲ・ガリッパ。どうもよろしく頼むネェ」
俺もうボロボロ。バズの時よりボロボロかも。医者か救急車を呼んでくれ。…おや?何やらクラスのみんなが騒がしいぞ。
「オヒゲ・ガリッパって…『ぶつ切り』ガリッパ?」
ぼそりと誰かが呟く声が聞こえた。なんそれ。しかし、世間知らずなのは俺だけの様だ。周りは顔を合わせて何やら確認するかの様にお話しているぞ。俺もこのビッグウェーブに乗るしかない。ヴロちゃんさんに話しかけよう。
「ねぇヴロちゃんさ
「殺す」
「くぅ〜ん。ミニーくんなにか知ってる?」
「おで様は庶民には興味ないぢょ。前のチビに聞くといいぢょ」
「そっかありがと。ポメくんポメくん」
「なぁに?騎士団に入ってくれるの?」
「オヒゲ先生の『ぶつ切り』ってあだ名?について何か知ってる?」
「む、無視…!このポメを無視…!そ、そんな人キミが初めてだよ。なおさら気に入っちゃったネ…!」
「くぅ〜ん…」「んー!」「シャシャシャ」
「そんな悲しい顔しないでよ!むう…。
元特別探索士オヒゲ・ガリッパ。又の名を『ぶつ切り』ガリッパ。
カウンタータイプのスキルと特異な巨大剣で、ダンジョン『鬼王の巣窟』と『巨豚魔の洞窟』を単独攻略した特別探索士界ではなかなかの有名人だよ。怪我が原因で引退したって聞いてたけど…。
まぁ、あのお髭はポメの趣味じゃないから騎士団には入れてあげられないかな」
はえ〜!人に歴史ありってヤツだな。まさかオヒゲ先生がそんな凄い人だったとは。ポメくんキミを物知り博士に認定して差し上げよう。
「さんくすポメくん」
「ならお礼にポメの騎士だ
「はーい!」
「こ、このポメのセリフを遮るなんて…!」
ポメくんが何やら驚愕しているが、俺は気になることがあったので挙手の真っ最中。大きな声でハイと声上げ、ピンと真っ直ぐ手をあげよう。
「おや、どうしたんだい蛇腹くん」
「質問良いですかっ…て、俺のこと覚えてくれてたんですか!」
「はっは!当たり前だネェ。私は受け持った生徒の名を一人たりとて忘れていないよ。
あぁ…それにしても良かったネェ。無事、入学式に出れるまで回復してくれて本当に良かった…」
そう言って涙ぐむオヒゲさん。前方の席のバズが素知らぬ顔でそっぽを向いた。こらバズ。後で一緒に謝るぞ。
てかこの怪我の半分は今ヴロちゃんさんにボコされたものだよ。ね、ヴロちゃんさん。
「喋りかけるな屑ニンゲン」
いやんいけずぅ。ヴロちゃんさんにボコはれるし、先生が泣いちゃうしで何があったとみんなの視線を独り占めだ。俺、こんな形で話題に上がりたかったんじゃないよぉ。
ぐすん、と立派なお髭で涙を拭ったオヒゲ先生がこちらへと向き直した。おぉ、そうだ質問質問。
「先生ってどうして今は先生に?」
「あぁ、そのことかネェ?先日、ガス爆発のせいで訓練所が破壊されてしまっただろう。
その為、教官としての仕事は改修の間は出来なくなってしまってネェ。そしたら友のツテでこちらの仕事を勧められたんだよ。
遥か昔の話だが、私も教員をしていたことがあったからネェ。昔取った杵柄というヤツだよ」
はえ〜。ほなバズのせいか。バズがまーたそっぽを向いた。後で謝りに行くぞ。俺もついていってやるから。
なら、元々の担任だった筈の人物は玉突きで別のクラスになったのかしら。後で探してみようかな。
オヒゲ教官…ではなく先生が黒板上の掛け時計を見てお髭を撫でる。
「あぁ、気がつけばもうこんな時間だネェ。もっと話をしたかったのだが…。
改めて入学おめでとうみんな。さぁさ、早く移動しようとも」
「「「「はーい!」」」」
おっ!遂に入学式か。問題はこの後だな。まぁ、突如として俺が性欲モンスターにでもならない限り、1話退場は免れるでしょ!よゆーよゆー!




