第二十五話 俺のクラスは1年A組
門を潜り校内に入った俺たちをまず出迎えたのは、それはそれは立派な銅像だった。
魔法学校の校長とかしていそうな、たっぷりのお髭を蓄えたローブ姿のお爺ちゃんがおちゃめにピースをしているこの像だが、実は面白い秘密がある。それは…
「うわっ。この像今こっち向いた!」
「…何かスキルを用いて作られた像の様ですね。ガーゴイルやゴーレムに近い性質を感じます」
「ワームヴェルト名物、元気に動くワームヴェルト初代校長像だぞ」「ぞー!」
「受験の時に一緒に記念写真撮ったよねぇ」
「えぇ…?ここ学校よね?そんなテーマパークみたいな…」
何やらファフナちゃんが呆れている。お、校長像が背中をさすってあげてる。やさしい。
どうやらファフナちゃんとヴロちゃんさんは初めて見たらしい。意外にもヴロちゃんさんが興味深そうにしているのが印象的だった。
俺と落ち葉ちゃんは一緒に受験受けに来たその時からこの像について知っている。記念写真の時には確かダブルピースしてたわ。
果たして製作者のおふざけなのか、生前の性格を反映したものなのかは謎だけど、ファンタジー感満載で俺は好き。
…実は今の俺は原作知識があるので、この像の更なる秘密を知っていたりもする。
その秘密とはこの像の真下。像の土台を動かすと、そこには隠された部屋があるのだ。原作ファフナちゃん一行が夜の肝試しで偶然発見したそこにはなんと…。
まぁ、今はそんなことしてる場合じゃないからスルー案件だ。このまま原作通りの学園生活を続けていれば、遅かれ早かれ入る機会があるしねっ。
む?校長像が立ち上がると、どこぞの大志を抱いてそうなポーズである一点を指差した。
スッ
「なんかこの像、向こうの方を指差してるけど」
「なんだろ」
校長像の指差す方をみんなで向く。少し離れたそこには俺たちと同じ、新入生らしき人だかりがあった。どうやらみんな壁の何かに夢中の様だ。
「ふむ。どうもクラス分けのモニターがあるみたいですよファフナ様」
「お、よく見えたねヴロちゃんさん」
「ミナダイスキー。貴様に言った訳ではない」
「…くぅ〜ん」
「こらヴロトレキ!いい加減その人間嫌いどうにかしなって!」
「む、むぅ…しかし、」
「しかし、じゃない」
ファフナちゃんに怒られてしゅんとするヴロちゃんさん。だが、それでも俺と仲良くするのは嫌らしい。俺の顔を一瞥すると、ツーンとそっぽを向いてしまった。なかなか難しいね龍の眷属ってのは。
というかそんな事より、いい加減俺の名前を覚えてくれないだろうか。
校長像とお別れをしてモニターへと向かう。…そうか。クラス分けか。一大イベントがあるのをうっかり忘れてたな。
俺はドキドキしながらバーゲンセールの様な人の群れを掻い潜り、モニターの中の自分の名前を探し始めた。だが、これが中々の重労働だ。
ごくり…
どこだ。どこにあるんだ俺の名前は…。ずらりと並ぶ人の名前、名前、名前、名前。数百人もの文字の羅列を前に文字酔いを起こしそう。更にはゲシュタルト崩壊も起こしそう。
嫌だよ俺。初日からみんなの前でキラキラ吐いたり、ぶっ倒れたりすんの。ただでさえ包帯・絆創膏だらけで目を引いてんだから。
「出ましょうジャミラ。落ち葉。もうみんなの名前見つけたからさ」
不意にファフナちゃんからのありがたいお言葉。いや、もしくは死の宣告か。
しかし流石は龍と英雄の子。視力が優れているのか集中力が優れているのか、はたまたその両方か。とにもかくにもありがたや。
俺は早く答えが聞きたかったので、目を回している落ち葉ちゃんを雑に抱えてそそくさと人混みを抜けた。そして興奮気味に彼女に尋ねた。
「ねっ、ねぇファフナちゃん!俺ってばどこのクラスだった?」
ドキドキが止まらない。なんせ俺は原作の蛇腹のクラスを知らない。というか明かされてなかったと思う。だって本編一話だとクラス紹介無かったし!俺は一話で退場だったし!?
落ち葉ちゃんとヴロちゃんさんはファフナちゃんと同クラだった事は覚えてるんだけど…。これで俺だけ離れてたりしたら…。
「シャー?」ヘビくんが不思議そうに俺の顔を見つめている。
「ず、随分、張り切ってるわね。
Aよ。Aだったわ」
「…み、みんなは?」
「私とヴロトレキ、落ち葉は…」
「ご、ごくりんちょ」「ちょー!」「シャー」
「Aだったわ」
「おぉぉぉぉっしゃあぁぁぁぉぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
…
……
………
ルンルン気分で移動する。俺たちのクラスは3階だ。銅像が動くのだから、階段もエスカレーターみたいに動くかと思えば別にそんな事はない。
エレベーターもあるにはあったが、階段嫌いが列をなしてたので早々に諦め、こうして長い長い螺旋階段を登っている。
しかし、俺の気分は晴れやかだ。第一の関門を突破したと言っても過言ではない。
いや良かった。毎授業後の休み時間に他クラスに遊びに来る、自分のクラスに友だちいない人になるところだった。危ない危ない。お、3階だー。あったあったAクラス!さーて、たっぷり青春してやるぞー!
…
……
………
…くぅ〜ん。
クラスに入るや否や。『じゃむうま』のメインキャラクターが勢揃いしている事に興奮したのも束の間。
入室直後、名前の順に着席などつまらないだろうという担任の粋な計らいにより、席決めのクジを引く事となった。
こいつはありがたい。あわよくばファフナちゃんの前後左右をと願いつつ、ヘビくんの天啓と共に勢いよくクジを引いた。その結果は…
「チッ」
「くぅ〜ん…」
俺の席は窓側の一番後ろ。落ち葉ちゃん、ファフナちゃんの2人とは真反対の席となってしまった。折角、ファフナちゃんともっと仲良くなるチャンスだったのになんと運の無い…。
いやしかし、クラス全体を一望できるこの席はなかなか悪く無いのも事実。
「ね。ヴロちゃんさん」
「黙れ殺すぞ」
くぅ〜ん。俺の前の席に座るヴロちゃんさんの塩対応が尋常じゃ無い。
ファフナちゃんと席が遠いからかヴロちゃんさんはかなりご機嫌斜めだ。厄介オタは常に推しからの供給が必要不可欠。
スゴイ。話しかけるなオーラがもうスゴい。
…やれやれ。ヴロちゃんさんが心の扉を固く閉ざしてしまった。仕方がないので右隣の子とでも仲良くなろうかな。
くるり、と横に振り向くと隣人はすでにこちらを見つめているじゃないか。
「なんだぢょ」
「………。あ、いや、復活早いね?」
「それほどでもないぢょ」
めっちゃ見覚えある人いたわ。それも原作で、とかじゃなくついさっきのレベルで。




