第十二話 訓練再び、そして
「さぁて蛇腹くん。洛陽くん。
休憩も終えたことだし、次の訓練といこうネェ」
「はい!」
「…あ、はいっ」
ファフナちゃんの方に気を取られていたら、返事が遅れた。
…気になる。気になるぞファフナちゃんのバトル。漫画では見たことあるが、実際に動きがついたらどんなもんなんだろうか。俺アニメ見てないのよね。
それにしても、俺はこーんなにも見つめているのに、ファフナちゃんはこちらをまるで見てくれない。
真剣に向こうの教官の話を聞いているみたいだ。ヴロちゃんさんはめっちゃこっち睨んでくるんだけどなぁ…。
「むむむ。どうしたのだね蛇腹くん。ひどく隣のコートを気にしている様だが」
「どっくん、さっきからどうしたの?
やっぱりナンパしてたんじゃ…」
「いやいや何もございませんよ?
俺もお年頃なだけです」
「なにを言っているかまるでわからないよ?」
頭の上にたくさんのハテナを浮かべている落ち葉ちゃん。ごめんよ落ち葉ちゃん。
俺は今ファフナちゃんに夢中なんだ。もっと友だちになりたいぜ。
「…ふぅむ蛇腹くん」
「は、はい!なんですかオヒゲ教官!」
「キミにも何か事情はあるかもしれないネェ。
しかし、訓練とは言えこれは戦闘だ。集中を欠くのはよろしくないネェ」
「う、はい…すみませんでした」
オヒゲ教官にやんわりと叱られた。正論すぎて謝る他無い。
確かにそうだ。今日は訓練に来たんだもんな。
…うん!どうせ1週間もしたら入学式だ!今、少しでも関係性を持てただけでも十分だよな!
「ごめん落ち葉ちゃん!俺、集中するよ!」
「へ?う、うん!頑張ろうね!」
「どうやら調子は戻ったようだネェ?
予告の通りスライム3体との戦闘訓練だよ。さぁ、気を引き締めなさい。
早速始めようネェ!」
「「はい!」」
『行くよおじさま』
「さぁ、位置につきたまえ!油断は当然厳禁だ!
さぁ、合言葉は…!」
「「ご安全に!」」
『『『ぷにー!!!』』』
今回は3つの魔法陣が地面に現れ、教官の予告通り3体のブルースライムが召喚された。
彼女らの戦闘も気になるけれど、俺たちだって訓練の為に来ているんだ。
オヒゲ教官の言う通り、ここは訓練に集中しよう。
「来て!『花ン華ん陀羅』!スライムの誘導をお願い!」
「『蛇群召喚』!」
今回は先の反省を踏まえて、始めにスキルを使用した。
落ち葉ちゃんは陀羅ちゃんに命令を出し、スライムの1体を誘き寄せようとしている。
俺はサポートの為にヘビくんを2体召喚する。1匹は落ち葉ちゃんの肩に、もう1匹は俺の首元に待機させた。
ヘビくんたちはとても賢い。
俺たちがスライム1匹に気を取られ、他2匹の接近を許してしまった場合に備えて、常に周囲を警戒しているのだ。
『コッチダ青粘液!』
『ぷにゅっ!?ぷにー!』
陀羅ちゃんが、腕から伸ばしたツタを鞭のように扱う。スライムは追い立てられて、しっかり気を取られている。意識は完全にこちらに向いていない…。
…よし!他2体の距離も離れている!今がチャンスだ!
気がつかれない様に息を殺して走り迫る。剣は重いが不思議と先程よりも軽く感じる。
背後を取った!今度は俺の手で…!
どおぉぉぉぉん…!!!!!!!
うおお!?なんだ……!?
凄まじい爆音と吹き荒れる風。剣を振り上げた俺は前につんのめり、落ち葉ちゃんは陀羅ちゃんに身を守られ、オヒゲ教官のヒゲがはためき、スライムは爆風に転がった。
「きゃっ!何…!?」
「痛苦じい!胸から落ちた…!」
逆立ちに失敗した時を思い出す!肺の空気が全て吐き出され悶える俺。
爆発の発生源は隣のコート…すなわち、ファフナちゃんとヴロちゃんさんが絶賛訓練中の場所からだ。
随分と派手にやってるなぁ…!ファフナちゃんかな?それともタオル強奪クレイジー厄介オタの方か?
気になるが、舞い上がる砂埃に目も開けられない。
「む…!何があったと言うのだネェ!?」
「ぶえー!目が痛いよー!」
ふぉふぉふぉ。知りたいかね?物知り博士なワシが教えてやろう。これは龍と英雄の力を併せ持つファフナちゃん、もしくは龍の眷属である厄介オタのチート染みたパワーから発された…
「うおおおおお!?!?!?なになになになに!?!?!?」
「ファフナ様っ!!!危険です!お下がりください!」
…いや、爆煙の中から2人の慌てた声が聞こえるな。
え?ファフナちゃんズがやったんじゃないのコレ??
どかぁァァァァァァん!!!!!!!!
「うあっ!?!?」
「きゃあっ!!!」
「くっ、何者だ!!」
再びの大爆発。さっきよりも爆心地が近いぞ!?
吹き荒れる爆風。その勢いは凄まじく、俺や落ち葉ちゃんが軽々と吹き飛ばされた。
「『蛇群召喚』!!」
召喚された蛇くん達が俺の意思を汲み取り、即座に落ち葉ちゃんの肉体を包んでいく。
「いやぁぁぁ…うわぁヘビくんがいっぱい!!!!」
『…スケベノ独葉巳!今回ダケハ褒メテヤル!』
珍しく陀羅ちゃんに褒められた。
ヘビくんたちには悪いが、地面に打ち付けられる落ち葉ちゃんを守る為だ。
「ごめんなっ」
「「「シャー!」」」
優しい(やさしい)。悪いけど俺の方も…あ、地面近、やべ、間に合わ…
「ぐえっ…がぁっ…!!!」
気分は荒野を転がるタンブルウィード。なんて良いものじゃない…!痛い痛い!きっと明日は全身アザだらけだ!
目が回りそうな程にゴロゴロと、5回転も10回転も地面を転がりようやく止まった。
擦り傷や打撲がひどい…!前世で自転車で大横転した時よりキツい…!!
「うぐ…痛ぅ…」
「あ〜ぁ狙いがズレちまった」
聞き間違いかと思った。その言葉はまるで暇つぶしに始めたシューティングゲームでミスをした時の様ななんの重みも無い言葉。
「まぁ、大丈夫か。
龍紋 ファフナと言う名の人生はこの程度でくたばるタマじゃねぇ」
燃え盛る炎の中から言葉は続く。俺は全身の痛みに耐えながら頭を上げた。
「…ぐ、誰だ?」
「オレという名の人生が…」
視線の先に居たのは初めて見る男だ。
独特な話し方をするそいつは、ジャラジャラと派手なネックレスとツンツン頭が特徴の不良風の青年だった。
…見覚えがない。この世界で生きてきた人生でも、漫画『じゃむうま』でも見た覚えがない人物だ。
「用があるのはテメェと言う名の人生だ。出しちゃいけねぇ所に手ぇ出しちまったなぁ赤ロン毛。
恨むなら、軽率なテメェと言う名の人生を恨めよ。なぁ?」
赤ロン毛…???誰のことだそれ…?
ファフナちゃんは黒と金…。ヴロちゃんさんは空色だし、落ち葉ちゃんは薄黄色…。オヒゲ教官は真っ黒だし…。
うーん、俺の方を向いて話しているがきっと人違いだろう。まさか俺な訳無いしな。
「無視ぶっこいてんじゃねぇ赤ロン毛!!!
テメェと言う名の人生如きがよぉ!!!!」
うーん、まさか俺な訳無いしな。
…なんて、現実逃避してもどうにもなんないよな。
ほんと…原作に無い展開はやめてくれよ。




