第7話:異端の進撃
スイレン遺跡に夜が訪れた。
再構築を終えたガラクタMk-II・Rは、地下整備区画の魔導照明に照らされ、調整をしていた。
「エネルギー安定。身体強化魔法も正常ね。……いつでもいけるわ」
アイナが報告しながら、ナオヤの方を見た。
「で、あなたはその……せっかく遠隔操作が出来るのに、本当に“中に入って”操縦するつもり?」
「当たり前だろ!ロボットは魂で動かすもんだ」
ナオヤは笑いながらコックピットへ滑り込む。座席は狭く、仮設の安全装置しかない。だが、その分“直感”が生きる。
そのとき――地上出口から爆音が響いた。
「……来たわね」
アイナが、魔導通信機に映し出された熱源反応を確認する。
「外に、少なくとも十人以上。おそらく“フォーミュラ・ブレイズ”の本隊」
「本気で潰しに来たってワケか。……オレたちのクラフト、評価されてるなあ」
ナオヤは肩をすくめるが、緊張は隠せない。
――ギルドは本気だ。ここで捕まれば、二人とも“異端技術保持者”として命はない。
アイナが静かに呟く。
「彼らが恐れているのは、私たちの技術じゃない。“可能性”よ。禁忌が常識を揺るがす、その未来を」
「だったら、見せてやろうぜ。その“未来”をさ!」
ナオヤの声に、機体が呼応するように唸りを上げた。
「展開――“リビルド”出撃準備!」
装甲が展開し、背部スラスターから淡い青光が立ち上る。
――遺跡の天井が開いた。
月光の下、待ち構えていたのはギルドの精鋭部隊。魔法陣が空を覆い、杖を構えた魔術師たちが一斉に詠唱を開始する。
「目標確認。異端機体、ならびに搭乗者。排除開始!」
雷、氷、火炎の魔弾が降り注ぐ――だが。
「今度は、避けられるぜ!」
スラスターが噴射し、リビルドが宙を駆けた。
――飛んだ。
わずかに浮遊できる程度の推力。それでも、高低差と加速を制御するには十分だった。
「右旋回、斜線誘導! 次、背部魔導砲、解放!」
アイナの指示を受けてナオヤが叫ぶ。
「“魔獣コア・チャージ……砲撃、発射ぁあああ!!”」
白熱する蒼光が、敵前衛を一掃する。
ギルドの部隊が一瞬ひるむ。その隙に、リビルドが突っ込む。
「なっ……魔方陣が壊された!? 再詠唱を――」
「させるかよ!」
ロボの拳が魔術師の前に突き立てられ、魔法杖を粉砕する。
その攻防の中、アイナも冷静に敵の動きを読み、後方支援を行う。
「ナオヤ、後ろからくる! バリア展開を!」
「わかってるって! ――《リフレクト・ジャンク》!」
即興で組み込んだ盾が、背後からの火球を跳ね返す。名前だけの、金属片を溶接した即席装備。
「いい加減にしろ……あんなガラクタで……なぜ、ここまでの戦力を……!」
指揮官格の魔導士が叫ぶ。
「くっ、撤退だ!」
ナオヤはロボの胸部ハッチを開け、顔を出して笑った。
「覚えとけよ、お前ら! オレのガラクタは――どこまでだって進化すんだよ!」
ギルドの追撃隊は、戦術的撤退を選択。空に残された魔法陣が崩れ、森に静寂が戻る。
戦闘後、月明かりの中でロボを降りたナオヤに、アイナが近づいた。
「……勝ったわね」
「最高だ!!っていうか、飛べたし、撃てたし、なにより“乗って動かせた”!」
ナオヤは興奮気味に叫ぶ。
アイナは小さく笑った。
「……あなたのバカさ加減、嫌いじゃない」
「おっと、今“好意”に変わるフラグ立った?」
「違う」
その返しに苦笑しながらも、ナオヤは空を見上げた。
「さて、次は何を作ろうかな!」
アイナも空を見上げる。
「この世界には、まだいくつも“封じられた遺構”がある。古代の技術も、未知の兵装も。全部、見てみたい」
「決まりだな。次の遺跡に向けて、ガラクタと夢を詰めて出発だ!」