第6話:再構築の衝動
廃都スレインの南端。深緑に沈む谷底に、それはあった。
霧に包まれた半崩壊の石門。その奥に、かつてのギア=テクト文明の遺構――スイレン遺跡が眠っていた。
「ここが……」
「ギア=テクトの技師団が、機体の点検と再調整を行っていた施設のひとつ。ここの中枢装置が生きていれば、“機構生成炉”も動かせるかもしれない」
アイナが淡々と説明する。だがオレはもう、それどころじゃなかった。
「これだけの設備があれば、オレの作りたいものが何でも作れる!ぐへへへへっ」
遺跡の中央、巨大な整備台に横たえられていたのは、激戦をくぐり抜けた我が愛機――ガラクタMk-II。
「……ほぼ素体で戦ってたから、ボロボロだな」
外装は焦げ、関節は歪み、コアユニットは変調を起こしていた。それでも、オレにとっては大切な“相棒”だ。
「修復には最低でも数日は必要。しかもこの状態では、いっそ解体して――」
「いや。再建造する」
オレは、そう断言した。
アイナが眉をひそめる。「再建造って、まさか……」
「ああ、こいつをもう一回“最初から”組み直す。ガラクタMk-IIは、“相棒”だ。まだまだ、やれる」
アイナはしばし黙った。だがやがて、静かにうなずく。
「はぁ……あなたのその変態じみた“こだわり”に最近、つきあう価値があるって思えるようになってきたわ」
「へへっ。ありがとうよ、相棒」
そこから、オレたちの再構築作業が始まった。
整備台を昇降させ、外装を一枚ずつ剥ぎ、損傷した動力管を摘出する。アイナは機構生成炉を復元し、魔力循環路を再構築した。
「……ここの出力バランスがおかしい。再調整には対流魔石がいるわ」
「じゃあ、代わりにこの“魔獣炉心”を使ってみよう。前に倒した魔物のコア、残しておいたんだ」
「正気じゃないわね。……でも、面白い」
理論と狂気のせめぎ合い。だが、それが“オレたちのクラフト”だった。
やがて――
「よし、構成プログラム更新完了! こいつが、再構築型ガラクタMk-II――いや、“Mk-II・R”だ!」
見上げた機体は、以前のバランスの悪い外観とは違い、装甲が流線形に再設計され、両肩に小型の魔導スラスターを装備していた。中核部には、魔獣炉心とアイナの“氷晶環”を融合させた特殊回路が組み込まれている。
それはまさに、“異端の融合体”。
アイナが思わず、ぽつりと呟く。
「……これが古代技術と異世界の共存。かつて誰も成し得なかった、“禁忌の先”」
「ま、呼び方は何でもいいさ。でも――」
オレは笑いながら、コックピットの外装に手をかける。
「やっぱり、オレが直接乗らなきゃ始まんねぇだろ!」
「……は?」
「今までは“操縦連携”だったけど、今回の中枢制御系は完全コックピット仕様。だからオレ自身が中に入って、全身で感じて動かすのが一番ってわけ」
アイナは絶句したあと、思い切りため息をついた。
「胴体に変な空洞があると思ったら……そんなアナログな発想、誰が思いつくのよ……」
「だろ? このロマンが、オレの武器なんだよ」
再建された機体に乗り込み、オレは起動コマンドを詠唱した。
「“リビルド”、起動!」
魔力が炸裂し、機体の眼が青く輝いた。
アイナが横で、じっとその様子を見守っていた。
「……すごい」
「よっしゃ。このリビルドで、全部ぶっ飛ばしてやる」
禁忌の技術、異世界の発想。二つの異なる力を繋ぎ、オレたちはまた歩き出す。