第5話:ギルドの監視者
遺跡で試作機KZ-TYPE02の解析を終えたオレとアイナは、古代都市スレインの廃墟を目指していた。修理用のパーツを探すためだ。
「この先に、整備施設の跡があるの。運が良ければ、まだ使える中枢部品が残ってる」
アイナが地図を広げ、冷静に目的地を示す。だがオレの思考は、すでに次の改造でいっぱいだった。
「機体重量を落として、スラスターに切り替えれば……って、待てパーツもないし、燃料供給ラインの負荷がヤバいか?んー、逆に重装備でドリルも捨てがたい……」
「あなたの問題は、理屈より先に“面白そう”が来るところよ」
呆れ混じりの声を背に、歩を進めた、そのときだった。
――バシュッ!
乾いた破裂音。地面が爆ぜ、土が跳ね上がった。
「魔弾!? 伏せて!」
アイナの叫びに即座に反応し、オレは茂みに飛び込む。耳元を赤紫の閃光がかすめ、背後の岩が砕け散る。
森の奥。黒いローブをまとった人影が歩み出た。顔は覆面、手には禍々しい十字の杖。
「禁忌技術の使用者を確認。対象、異端者および協力者」
続けて、森の縁からさらに三人の魔法使いが現れた。彼らは声を揃えて名乗る。
「魔導ギルド直属・追撃部隊“フォーミュラ・ブレイズ”。王令第十三条に基づき、貴殿らを拘束する」
「え、ちょっと待て!? ギルドって、そんな取り締まり部隊まであるのかよ!?」
「当然よ。魔法はこの世界の秩序そのもの。逆に、あなたみたいな技術屋は“法に背く存在”なの」
アイナの冷ややかな声に、事の重大さを実感する暇もなく、魔法陣が浮かび上がる。
暴風と炎が渦を巻き、杖の先から魔力の奔流が空気を焦がす。
「ナオヤ、例の機体――動く?」
「動かすしかねぇよな!」
オレは指輪をかざし、叫ぶ。
「展開! “ガラクタMk-II(仮)”、起動ッ!」
地面に魔方陣が現れ、ゴゴゴ……と音を立ててロボが実体化する。未完成だが、動力コアは生きている。
敵が放つ炎撃を、ロボの即席シールドで受け止める。
「いけぇええぇ! 見た目はジャンクでも、魂はフルスロットルだあああああ!!」
ぎこちなくも、ロボは突進。相手の詠唱隊列へと飛び込む。
「詠唱が同期型。つまり、ひとつ崩せば、全体の術式に誤差が生まれる」
アイナが冷静に見抜いた通り、ロボの突撃で一人の魔導士が怯み、連携が乱れる。
その隙を、アイナは逃さない。
「氷晶よ、敵を穿て――《氷晶の十刃》!」
青白い刃が十重に空を裂き、敵の陣形を一瞬で切り崩した。
「おっ!風と炎、ちょうどいい!その杖のパーツを置いていけー!」
結局、戦いは五分とも言えぬ短期決戦となった。ロボの突貫とアイナの精密魔法の連携に、ギルドの追撃部隊は撤退を余儀なくされる。
――静寂が戻る。オレは息を切らしながら、膝をついた機体に手を添えた。
「……はぁ。ギルドって、マジで容赦ねえのな……」
「これが始まりよ。これからは、もっと“組織的”に動いてくる」
アイナは空を見上げながら言った。その横顔はどこか影を落としている。
「私も昔、あのギルドに“異端”とされて追われたことがあるの。理由は、古代技術への過度な執着――そして……」
言葉を濁したアイナに、オレは苦笑を浮かべた。
「なるほどな。じゃあ“異端同盟”ってことで、今後ともよろしく」
「……ほんと、バカね。軽すぎるのよ、あなたは」
アイナはそう言って目を伏せたが、その口元にはほんのわずかに微笑が浮かんでいた。
追われる日々の始まり。
だがオレたちは、それでも前に進む。
この世界の“常識”なんざ、俺の魂で塗り替えてやる。