第4話:アイナ回想 その手は、温かかった
アイナ視点
――私は、何をしてるんだろう。
湊ナオヤ。突如として現れた謎の自称“異世界人”。常識も知らず、礼儀もない。けれど、あの時の目は――まっすぐだった。
「動かせる!」と、叫んだ時の顔を思い出す。
……あれは、嘘をつけない目だった。
私は、“異端”の子として生まれた。
この世界では“魔法”こそが正義であり、科学や機巧――とくに古代文明ギア=テクトの遺産を扱う事は、禁じられている。扱えば告発され、処刑される。私の一族も例外ではなかった。
私は幼い頃から、古代文字と機構解析を教え込まれた。笑うことも、遊ぶことも、許されなかった。ただ“遺す”こと。ギア=テクトの真実を、次の世代に伝えること。それだけが、私の使命だった。
私の一族が入っていた組織。
《灰の残響》――古代文明の知を後世に繋ぐべく、地下で活動する禁忌の集団。
その一員として、私はこの遺跡を一人訪れていた。ナオヤに会うまでは、ただ粛々と“記録”と“封印”を繰り返していた。
だけど、彼は違った。
何のためらいもなく、目の前の部品に触れ、構造を理解し、無駄にテンションが高いまま、私に声をかけてきた。
「君ってもしかして、元エンジニアとか?」
もとえんじゅにあ?違う。私は“異端”よ。触れてはならない知識を受け継ぎ、世界に拒絶される存在。
なのに彼は、そんなことを気にも留めず――私を“仲間”に誘った。
……馬鹿みたい。
でも、あの時。
彼が差し出した右手は、とても温かかった。
その手を取った瞬間、私は少しだけ、迷ってしまった。
“任務を遂行すること”と、“彼と共に何かを創ること”。
そのどちらが、正しいかなんてわからない。だけど――
「……わかったわ。契約成立ね」
彼の横顔を見ながら、私は初めて“自分の意志”で言葉を発した気がする。
このままではいけない。ギルドは、彼を危険視するだろう。私が彼に手を貸していると知れば、組織からも、排除命令が出るはずだ。
それでも、私は動いた。
これは、私の選んだ“異端”だ。
ナオヤ、あなたの無垢な笑顔に、私は少しだけ救われたの。
だからせめて――もう少しだけ、この時を続けさせて。
いつか世界が真実を知る日まで……