第3話:遺跡と、無表情の技術者
ドーン!!「ジャンクライダーーーー!!」
途中で睡魔に負け、転倒しバイクは壊れてしまった。そのまま適当に森を抜け、その先に広がっていたのは、巨大な岩山に穿たれた――遺跡だった。
ナオヤは、そこに立ち尽くしていた。
「これは……完全に古代ダンジョン……いや、遺跡か!」
山肌に埋まるようにして存在するその鉄の門は、まるで永い眠りについていたかのように、静かに冷たく閉じられていた。周囲には魔力障壁の残滓が揺れ、かつてここが封印されていたことを示している。
《機巧分解眼》を発動すると、門の一部に反応が走った。
《ギア=テクト形式:解析可能》《一部の機構は動作状態に近い》
「おおっ……これはアツい! 絶対なんかあるぞ!」
工具セットを取り出して分解しようとした、そのとき――
「それ以上触ると、頭ごと吹き飛ぶわよ」
冷たい声が、頭上から降ってきた。
反射的に振り返ると、遺跡の外壁の上に、一人の少女が立っていた。銀白色の髪を風になびかせ、黒いローブの下には、薄い装甲服のようなものが覗いている。
「誰……?」
「私はアイナ。ここの解析をしていた。……あなたは、何者?」
「俺の名は湊ナオヤ。まあ、異世界初心者だけど、ジャンク部品の扱いには自信ある!」
「ふうん……変なヤツ……」
アイナは興味なさそうに一歩跳び降りてくると、すっとナオヤの横を通って、門の錠機構に触れた。すると、彼女の手から微かな魔力光が走り――
ガシャン。
古代遺構の門が、ゆっくりと開いた。
「え、今のどうやって……?」
「パスコード。昔の認証装置よ。あなたの道具では解除に数時間かかったわね」
「なにその超解析力……! あれ、君ってもしかして、元エンジニアとか?」
「何よ、それ。……入るの? 危険かもしれないけど」
「当然!ロボットが手に入るチャンスってことだろ?」
ナオヤはニッと笑った、アイナが、ランタン型の探査用ギアをつけた。光がトンネルを照らし、古代の通路が姿を現す。
二人はその中へと足を踏み入れる。
通路の壁には、錆びついた配管と魔力転送線が走っていた。ときおり、意味深なシンボルやマークが浮かび上がる。
「これは……ギア=テクト式の指揮者専用回廊。たぶん、ここに中枢がある」
アイナが壁の図面を指さしながら言う。その精密な観察力と知識に、ナオヤは心底驚いた。
――そして。
二人が最深部へと辿り着いたとき、それはあった。
巨大な格納庫。眠る巨人のように、全長7メートルの人型機体が、黒い棺のような格納器に沈んでいた。
《ギア=テクト製・指揮型試作機“KZ-TYPE02” 機体フレーム 機能停止中 一部欠損》
「これ……! 絶対、すげえヤツだ!!」
ナオヤはスキルを発動し、機体の構造を解析していく。
「ほぼ無傷……ただ、パーツと動力核が不足してる。これじゃ動かせない」
アイナが言うと、ナオヤはニヤリと笑って小さなポーチを取り出す。
「いや、たまたま拾ったんだよね。これ――」
そう言って取り出したのは、あの魔獣戦の時、手に入れたエネルギーコア。光を帯びた球体が、静かに鼓動しているように揺れていた。
「それは……!」
アイナの瞳が、初めて驚きに見開かれた。
「これで、動かせる!」
「本当に?」
「たぶんね。で、アイナ。あんたさ――オレと一緒に組まないか? このロボの再生、俺だけじゃ難しい。だけど君となら、できそうな気がする」
アイナは黙って彼を見つめた。数秒の沈黙の後、小さく頷いた。
「……わかったわ。契約成立ね。技術者同士として」
「まずは、異空間に収納しましょう。このままでは持ち運べないし」
「えっ、マジ!そんなこと出来るの!?」
こうして、“古代遺跡の解析者”と“異世界クラフター”は手を組んだ。
それは、後に世界の運命を左右する、一つの転機となるのだった――