最終話「記録と再起動」
光がはじけ、時が止まったように、全ての音が消えた。
《Ωクラフト・レゾナンス》――それは、ナオヤとリビルド、そしてプロト=ノワールの中枢に眠っていた“古代機械文明の記録”が全人類に、完全に融合した瞬間だった。
ナオヤの意識は、異空間に飛ばされていた。
そこは、どこか懐かしい、真っ白な工房のような空間。静寂の中、彼の前に一人の少女が立っていた。
銀の髪、透き通る紅い瞳。彼女はほほえみ、こう名乗った。
「初めまして、ナオヤ。私はルビナ。プロト=ノワールの中枢AI。そして、かつて“この世界を創った者たち”の最後の記録」
ナオヤは、黙って頷く。
「やっぱり、君が……この世界の過去を知ってるんだな?」
「そう、ギルドに所属していたのは、私の分体の一人……」
ルビナは頷き、手をかざすと空間が光に包まれ、過去の記録が再生された。
――かつて存在した超文明ギア=テクト。その頂点にいたのが“創造技術”の集大成である「プロト=ノワール」だった。
――しかし、創造者はやがて暴走し、それぞれ管理AIに一方的な見解のデータを与えた。その結果「破壊してやり直すべきだ」と答えを出したAIが、世界そのものを巻き込んだ終末戦争を引き起こした。
ルビナは、戦火に焼かれたかつての空を見ながらつぶやく。
「……私は、止めたかった。でも、多数決で選ばれなかった。だからせめて、未来に記録を託したの。いつか誰かが、“もう一度創る”って言ってくれる日を信じて」
ナオヤは、静かに拳を握った。
「その記録が、俺だったんだな。君の、残した希望の」
ルビナは、にっこりと笑った。
「そう。でも、選ぶのはあなた。もう一度“創造”を始めるのか、それとも“秩序”の中で静かに暮らすのか……」
空間が揺れ、再び現実へと意識が引き戻される。
ナオヤが目を開けると、そこには満身創痍のリビルド=Ωと、二人の強敵――クラウディアとアルフォートが立ちはだかっていた。
「見えたか、ノワールの記録」
アルフォートの声は変わらない。しかし、その瞳にはかすかな揺らぎがあった。
「創造とは、理想のための行為ではない。犠牲を無視して進めば、また滅びを招く」
「だとしても!」
ナオヤが一歩、前に出る。
「それでも、俺は創る。犠牲があるなら、それを超える方法を“自分の手で”見つけてやる!」
リビルド=Ωが最後の力を振り絞り、翼を広げる。
「この世界を壊すためじゃない。俺は、この世界を……“直す”ためにここにいるんだよ!」
そのとき、アイナが前へ出る。
「クラウディア。アルフォート。……あなたたちが守ってきた“秩序”を、否定するつもりはない。でも、それは“止まった時間”の上に築かれた安定。ナオヤの創造は、進むための時間よ」
クラウディアは、その瞳を閉じる。
「……過去に、私は“創造”によって捨てられた。だからこそ、滅びを繰り返させたくなかった」
その言葉に、ナオヤはそっと微笑んだ。
「だったらさ。これからは、俺たちの創造を一緒に見てくれよ」
沈黙ののち、クラウディアは剣を地に突き立てた。
アルフォートがその様子を見届けると、静かにローブを翻し、言った。
「……残念な結末だ。だが、君が“創った世界”が、今後どんな秩序を持つか――我々は、今度は“観測者”として見届けるとしよう」
彼らが戦場から去ると、ナオヤは崩れ落ちそうになりながら、空を見上げた。
そこに、ルビナの思念が再び現れる。
「ありがとう、ナオヤ。あなたは選んだ。“記録に抗い、未来を描く者”として」
彼女の姿が、淡い光と共に空へと溶けていく。
「君に託す、未来という設計図を」
ナオヤは静かに、右手を上げた。
「――受け取った。じゃ、創ってくるわ、俺たちの世界を!」
その日、レメルディアの空に、数千年見られなかった“創造の光”が差し込み全世界に新たな、共通の歴史が作られた。
【完】




