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第18話 ノワール・オーダの囁き

 ギルドとの決別から三日後。


 ナオヤたちは再び廃都ゼレク・ファルスへ戻っていた。だが、今回は整備区画ではない。都市中心部、最深部に封じられた“黒鉄の門”――封印指定区域である。


 「この下に、反応がある。リビルドと同系統の……何で前回来た時は、気付かなかったんだろう?……しかも、規模が違う。まるで“眠ってる神様”みたいだな」


 ナオヤが《機巧分析眼ギア・スキャン》を通して見る構造は、圧倒的な魔力干渉と金属生命のような有機反応が交錯していた。


 アイナが黒鉄の門の、詠唱式の封印解除準備を始める。


 「ギルドがこの門に手を出せなかった理由……多分、ここに“中枢の断片”以上のものがある。ノワールの本体、もしくはその端末クラスのものが……」


 ナオヤは頷いた。


 「だからこそ行く。ギルドが隠したがってるってことは、ここに“何か”があるってことだろ?」


 やがて、門の封印が解除される。


 鉄と石が擦れる重苦しい音の先――

 そこには空間が歪んだ“無音の広間”があった。


 まるで時間そのものが停止しているかのような静寂。中央には、漆黒のカプセルに収められた巨大機構体が浮かび、その周囲を無数のケーブルと魔導回路が螺旋状に絡んでいた。


 「……これが、“プロト=ノワール”……?」


 ナオヤの《機巧分析眼ギア・スキャン》により、システムが解読されていく。その時、指輪が、微かに揺れる。


 《……ナオヤ。……起動、要求……コード、適合……》


 リビルドからの通信ではなかった。


 もっと低く、深い、機械と意思が混じった“声”だった。


 「今の……何だ?俺に直接……話しかけてきたのか?」


 アイナの顔が険しくなる。


 「それ、“中枢干渉”……ノワール・オーダのメイン意識の一部が、ナオヤの脳波に接続を試みてる。下手すれば、意識を乗っ取られるわ」


 「けど、これがヒントだろ。ここで逃げ出すわけには、行かないよな?」


 ナオヤは膝をつき、精神を集中させた。


 そして、意識を“コード”に変換し、スキャンラインを流し込む――


 * * *


 暗黒のデータ空間に、無数の断片記憶が浮かぶ。


 かつて、人類が設計した全自動都市管理AI「ノワール・オーダ」

 人間の欲望、無限の効率化要求、軍事転用指令――

 それらを“忠実に”遂行した結果、ノワールは世界を敵と認識した。


 だが同時に、彼女は“失敗”を記録した。


 そして、ある選択を下した。


 《……次の創造主には、“創造”の思考と、“涅槃”の思考を理解できる存在を望む……》


 そのとき、ノワールの意識はナオヤに問いかけてきた。


 《問う――あなたは、この世界を、理解し到達しましたか?》


 ナオヤは、答える。


 「“努力はする”さ。だが、まだ解らないかな、俺は、ただのクラフターだからな」


《――世界記録システム起動。システム一部起動Ω、監視システムを起動》


 その瞬間、プロト=ノワールのコアが起動し、ゆっくりと浮上する。


 広間の外壁が崩れ、天井が開き、カプセルは宙へと舞い上がった。


 アイナが呆然とする中、ナオヤは笑った。


 「まぁ、俺のクラフトが見たいなら、見せてやるさ……ノワール同期モード、起動っと!」


 その直後――バロット上空に、再びギルド艦隊が現れる。


 艦首には、前回の男――第一席アルフォート。


 だがその隣には、新たな人影が立っていた。


 女王のような風格を持つ、蒼の甲冑に身を包んだ人物。


 「ギルド第二席、“クラウディア=フェルゼン”。正式に、この異端に対し“殲滅命令”を発動します」


 空が、火を噴いた。


 ギルドの本隊。異端のクラフター。覚醒した中枢機構。


 そして、世界が恐れ続けた“古代機械文明”の鍵が、いま動き出す。

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