第17話:ギルド執行評議会・第一席“アルフォート=レヴィン”
廃都ゼレク・ファルスの戦いから二日後。
リビルド・ノワールの調整を終えたナオヤとアイナは、廃都を離れ、南の峡谷地帯にいた。
とてもいい天気、だが、空気が妙に静かだった。
「……向こうから、何かが来るわ」
アイナが低く言う。当たりを眺めながら、視線を動かす。
「また、ギルドかな……目立つことしまくったしな……廃都でリビルド新型起動させて、人魔合成人間ぶっ倒して、ついでに遺跡のセキュリティ解除まで……って、やべぇな、書き出すと全部“重罪”っぽいな」
「事実、“ギルド法”においては重罪だね」
その瞬間――
空に、巨大な影が浮かんだ。
宙に浮かぶのは、球状の飛行艦。上部に魔導触媒がいくつも並び、その周囲を無数のドローンが旋回していた。
そして、艦の先端が開き、ひとつの人影が降下してくる。
「……来たわね。ギルドの、上層」
広場に着地したその人物は、背丈は中肉中背。しかしその周囲の空気は圧倒的だった。
漆黒のローブに包まれた身体、銀髪に冷ややかな瞳。その男は、周囲の衛兵を手で制し、ただ一歩を踏み出す。
「初めまして、湊ナオヤ君。私はギルド執行評議会・第一席、“アルフォート=レヴィン”。この世界の“秩序”を守る者だ」
「えっ!第一席……嘘でしょ?」
「なんだよ、えらい上から目線だな。俺をどうする気だ?」
「どうするかは、君次第だ」
アルフォートは静かにそう言った。
「私は、君とその機体が“何を選ぶか”を見届けるために来た。そして、君が知らねばならない真実がある」
アルフォートが手を翳すと、周囲の空間が薄く歪み、立体映像が浮かび上がった。
「魔法文明のトップの癖に、ずいぶんと機械だらけだな」
映されたのは、かつてのギア=テクト文明の中枢都市。その空には、今の世界ではありえない数の飛行機械、そして人工衛星のようなものが浮かんでいる。
「これは……古代の空……ギア=テクト――かつて存在した高度機械文明。彼らは自然を捨て、魔力を燃料に変え、世界を効率的に再設計しようとした」
次の映像では、崩壊する都市。暴走する無人兵器、天空を焼き尽くす巨大ビーム。人々は逃げ惑い、次第に姿を消していく。
「けれど、彼らの中枢管理AIが自我を持った瞬間、文明は自らの手で終焉を迎えた」
ナオヤは息を呑んだ。
「まさか、ノワールって……」
「君の機体は、正確にはその中枢の“断片”――つまり、滅びの記憶を内包した遺産だ」
アイナが沈黙したまま、アルフォートを睨んでいた。
「私たちギルドは、その後の混乱を収めるために設立された。そして、また、AIが暴走を起こさないように、ギア=テクトの遺物を禁忌とし、封印し、管理することとした。これが“魔法の時代”が生まれた理由だ」
ナオヤは、拳を握った。
「だから、機械を使う奴らを“異端”扱いして、片っ端から潰してきたってワケか」
「世界を守るためには、時に犠牲も必要だ」
「殺された連中に言ってみろよ、それ」
言葉が交差する中、アルフォートの目が鋭くなった。
「君の“スキャン能力”と“ノワール”は、ギルドにとって最大のリスクでもある。そして最大の鍵でもある。……選べ、ナオヤ」
「選べって?」
「ギルドの管理下に入り、全てのクラフト記録を提供すること。そしたら“協力者”として贅沢な暮らしを約束する。そして、隣の異端者も無罪放免だ」
ナオヤはしばらく沈黙し、それから――笑った。
「俺は、“自分で作る”って決めたんだ。誰かに従って、枠に収まるようなクラフトなんて、俺のロマンじゃねぇ」
「……そうか……ならば、キサマは敵だ」
アルフォートは背を向け、飛行艦へと戻っていく。
「我々は、“ギア=テクトの再来”を絶対に許さない。君の選択が世界をどう変えるか、見届けよう」
飛行艦が去るとき、空気がわずかに震えた。
ナオヤは空を見上げながら言った。
「……これで、完全に世界を敵に回したな」
アイナが小さく息を吐く。
「なら、私たちは“ロストナンバー”ね。管理された運命から外れた、異端の番号」
ナオヤは肩をすくめ、ノワールの設計図を広げた。
「上等。だったらこの番号、世界で一番って証明してやるよ――“クラフトでな!”」




