第12話:空を断つ者
――金属と魔素がぶつかる轟音が、空間の歪みによって何重にも反響していた。
《ルビナ・インテグラルモード》は、まさに魔法そのものを意志とした存在だった。無数の魔術陣を展開し、絶え間なく撃ち込まれる高出力魔法がリビルドの装甲を削る。
「やっべ……ガードが間に合わねぇ!」
ナオヤは必死に黒鋼で防ぎながら、回避と攻撃のリズムを探る。しかし、ルビナの動きはあまりにも正確で、無駄がなかった。
それもそのはず――今の彼女は《アストラ・カーネル》とリンクし、都市全体の演算処理を自らの戦術予測に転用しているのだ。
「こんなの……人間の反応じゃねぇ!」
「当然でしょう。私は“人”ではない。今はただの、執行機構」
ルビナが言い放つと、彼女の身体から翼のように伸びた光刃が振り下ろされる。リビルドがかわしきれず、左腕の装甲が吹き飛ぶ。
「くそっ、左駆動系損壊! アイナ、《アストラ・カーネル》の制御、まだ!?」
「あと十秒! でも……ナオヤ、ルビナとの、接続解除は間に合わないわ!」
ルビナの赤い瞳が輝く。
「終わりよ、ナオヤ。これが……ギルドの選択」
無数の魔弾がナオヤに収束する――その刹那、リビルドのコアが蒼白く脈動し、内側から新たな機構が展開された。
《機構展開・対魔装:黒鋼・断刃モード:解放》
「なっ……! そんな力、解析には――なかった!」
「俺のロボをナメんな……こっちは、“未完成”だらけの夢の塊だッ!!」
ナオヤの叫びと共に、リビルドが武装を変形、双刃へと再構成する。斬撃に魔力を纏わせる!
それは、古代技術と現代クラフトの融合――最後の一撃だった。
「ルビナあああああああああ!!」
光と音が交錯し、空間が一瞬、真っ白に染まった。
――静寂。
《アストラ・カーネル》の脈動が止まり、浮遊都市全体が穏やかに沈黙へと移行する。
爆煙の中、リビルドは膝をつき、胸部に深い損傷を負っていた。
その前に、倒れる少女の姿があった。
――赤い外套は焼け落ち、魔装翼は崩れ落ちていた。彼女の瞳から、赤い光がゆっくりと失われていく。
「ナオヤ……」
「……どうして、こんなになるまで……」
ナオヤが駆け寄ると、ルビナは小さく微笑んだ。どこか、安堵に満ちた表情で。
「“命令”のお陰で……こうして、あなたに……会えた。少しだけ……わたしも、誰かで……いられた気がする」
「お前……最後の最後で、そんな顔しやがって……!」
アイナが静かに後ろから歩み寄り、ナオヤの肩に手を添える。
「《アストラ・カーネル》の接続が切れたわ。もう、彼女は自由になったのよ」
「遅ぇよ……!」
ナオヤの手の中で、ルビナの身体が光に変わっていく。それはまるで、“空”そのものへと還っていくかのようだった。
――空の剣は、ようやく鞘へと戻ったのだ。
そして、彼女がいたその場所に、丸い紅の宝石が残されていた。
ナオヤはそれを手に取り、そっとポケットへとしまう。
「お前の“命令”はもうない。けどさ……俺が覚えててやるよ。お前が確かに“ここ”にいたってことを」
空が静かに、夜明けを迎えていた。




