第1話:錆びた鉄屑と、ガラクタの守護者
気づけば、そこは森の中だった。
「うわ、マジかよ……ここ、俺の部屋じゃない……よな」
湊ナオヤは、錆びた鉄板の上に寝転がっていた。歯車や金属フレームの残骸が地面一面に散らばり、まるで巨大なジャンクヤードの中心に投げ出されたようだった。
「いやいや、これはもう……テンプレ展開すぎるだろ。俺、事故ったんだっけ?これ異世界転移か?」
高校卒業後、引きこもり気味に暮らしながらプラモデルと自作ロボの設計・改造に没頭していた彼は、むしろこの状況にテンションが上がっていた。
そして、そのとき――
《転生完了》 《ユニークスキル:機巧分析眼》付与
古代機械文明《ギア=テクト》の遺産を解析出来る。
「……っはー!来たこれ!神スキルじゃん!」
ナオヤの脳裏に、金属の構造を透視するかのようなビジョンが浮かぶ。配線、パーツ、エネルギーライン。まるでプラモデルの設計図を見ている様な感覚――彼にとってそれは、夢のようなスキルだった。
だが、その喜びも束の間。地響きとともに、茂みの奥から魔獣が赤い目を光らせ現れた。
「え、展開早くない? せめてはじまりの町に着いてからにしようよ、そういうの!」
逃げようとした瞬間、足を滑らせて転倒し、金属の山に突っ込む。
がしゃん、と鈍い金属音が響く。
その時、中から錆に覆われた巨大な金属の右腕が姿を現した。側には、わずかに青白い光を放つエネルギーコアが転がっていた。
《対象:古代自動兵器オートリムA1 右腕部》 《対象:エネルギーコア 魔力構築可能》
「うおおお、これ動くか!? ……って、俺なら動かせる!」
《機巧分析眼》を発動。右腕内部の構造とエネルギーの流れが、まるで自分の設計図のように読み取れた。
魔獣の攻撃を躱しながら、壊れた部品を抜き出し、周囲のジャンクから代用品を選別。木の枝と鉄パイプを組み合わせ、即席でフレームを組み上げる。最後に、エネルギーコアを接続して魔力を注ぎ込む。
「なるほど!エネルギーコアは電池のイメージか!」
――ギィィン……ガガッ!
ナオヤはそれを右腕に持ち、魔力を流し込む。
「よし、いける……いっけえぇぇぇ!!」
魔獣が跳びかかってきた瞬間、ナオヤは金属の右拳を思いきり振り抜いた。
ドゴォンッ!
地面に衝撃が走り、魔獣は数メートル吹き飛ばされた。木々を薙ぎ倒し、ついには動かなくなる。
「や、やった……まじで倒した……っ!」
呼吸を整えながら、ナオヤは金属の拳を見つめた。その手の中には、微弱に輝く小さなエネルギーコアがあった。
「これ……まだ動いてる。魔力……すげぇ、これ全部、再利用できるじゃん」
この世界では、"僕の考えた最強のロボット"が作れる――そう確信できる瞬間だった。
「ふふっ、こりゃ最高だな……この世界、完全に俺向きだ!」
にやりと笑い、拳を握る。お調子者で柔軟な頭を持つ彼にとって、転生したこの世界は最高の工房にすぎなかった。
「いっちょやってやるか。俺のロボで、全部ぶっ壊して、組み直してやるよ。世界ごと!」
こうして、“異世界クラフター”湊ナオヤのガラクタライフが始まった――。