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旅路  作者: 羊飼
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旅路1

 



 私は理想主義者になった覚えはない。


 けれど私の思う『普通』は現実と比べるとあまりにも『理想的だった。


 その最たるものと言えば大人に対する普通。期待感と呼んでも良いかもしれない。


 私は昔から読書が大好きだった。漫画でも小説でも主人公を支えてくれる大人というのは殆どの場合優しく、誠実で、時に厳しく、利他的な人間だった。


 社会に出て思ったのはそんな理想的な人間はいないということだ。

 余裕がない人間は人に当たり散らし、余裕がある人間は傲慢になる。利己的で、誇張と嘘で人を貶める。


 もちろん人によってその強弱に差はあるが、どんな人間にもそういう瞬間が垣間見れた。


 思えば学生の頃の担任も、バイト先での社員たちも明らかにそういう負の部分を持っていた。親だって例外じゃない。


 しかし私は大人に対する『現実』を受け入れることを拒否していた。

 社会に出れば親とも担任ともバイト先の上司とも違う、非の打ち所がない理想の大人がいると。


 私は理想主義者だった。


 それに気づいた瞬間、私は人に優しくする意味も、人と関わる意義も、過去も、現実(いま)も、未来も分からなくなってしまった。


 優しくすればつけ上がり、謙虚に振る舞えば舐められる。私が目指した理想の大人は社会という枠組みでは圧倒的な弱者で搾取される側の存在だった。


 今までの価値観が完全に崩れ落ちてしまった私は毎日をただ無気力に過ごすようになった。仕事はやりがいなんて皆無で時間を潰してお金をもらえればよくて、帰ったらダラダラと動画サイトで動画を見て寝るまでの時間を過ごし、休みの日も寝るか動画を見ているだけだった。


 けれどある日そんな無気力な私にちょっとした転機が訪れた。

 いつも通り仕事から帰ってきてダラダラと動画を見ていると画面に流れてきた一枚の写真が目に入った。


 何か心に引っかかるものがあったので動画を止めてマジマジとその写真を見つめる。


 それはひたすらに雄大な自然。空は青々と澄みきっており、大きな山々を縫うように横幅数十メートルはあろう川が流れている。


 日本では間違いなく見ることができない圧倒的な自然の風景は、無気力な私の心にふつふつと感動を湧き上がらせてくれた。

 少しだけ、ほんの少しだけ涙が出そうになるほどのその風景に、一枚の写真に私は自然と感想を口にしていた。


「死にたい。ここで死のう」


 私は早速この写真がどこで撮ったものなのか調べることにした。

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