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第七話 覇王ハンク

 「今すぐ戻って来てぇぇ、その地球人を渡しやがれぇぇぇ!!」


 丸太のような両腕を振りましわしながら、喚き続ける巨大なワニ。

 この表現が、まさにぴったりだと思う。 


 一つ星盗賊団の4人は、ヒューマノイドであるファイツァーも含めて、地球人に近い見た目をしていた。

 しかし広い宇宙には、当然僕たちからは大きくかけ離れた容姿を持った宇宙人たちもたくさんいる。

 

 つまり、地球人が、『エイリアン』とかって聞いてイメージする方の人々。

 むしろ全体でいうと、そういうタイプの方が多いそうだ。

 僕たちの方が少数派だし、元々多様性に慣れた宇宙の人々は、見た目が自分と近いかどうかということを、左程気にはしないらしい。


 エルラが「クソ顎デカ男……」と呟いているから、腹の立つ相手の容姿を攻撃するってのは、まあ宇宙共通の悪口手段とされているようだけど……


 だけどまあ、エルラが誹りたくなる気持ちも分かる。

 このハンクという男は、そもそもワニに似ているとかそんなこと以前に、挙動の全てが大袈裟で、不自然なほど力が籠っていて、

 なんというか……見る者全てを不快な気持ちにさせる、特殊能力を持っているらしい……

 

 この時には、ちょうど良い例えが見つからなかったんだけど、これはあれだ……

 下手な役者が、『とりあえず大きく演技する』時の動作に似ている気がする。

 観客がみんな疲れて、共感性羞恥で目を背けたくなるタイプの動きだ。


 勿論、彼は芝居をしているわけじゃない。

 それに何か威厳やらそういうものを示そうとして、こんな話し方をしているわけでもなさそうだ。


 残念なことに、素の話し方がこれなのだ……


 「今ならぁぁ、お前らのことは見逃してやるぅぅ!!お前らの船もぶっ潰さねぇぇ!!」

 

 やはりワニらしく、彼の長い両顎の間からは、鋭い牙が並んでいるのが見えた。

 競立ったその白い歯の間から、彼が一音放つごとに吹き出る唾液の飛沫まで、画面ははっきりと映していた。


 「いきなり何発もぶっ放しといて、そりゃいまさらだぜ、とっつぁん……」

 

 興味が無さそうに呟きながら、白い煙を吐き出すギアン。

 煙がモニターの前を漂うと、ハンクは目をかっと開いてたじろいで、前に伸びた顎を右腕で庇いながら咳き込んだ。

 その服装がまた奇妙だった。一応ボディースーツと呼ばれる類のものだと思うけど、その上に色んな装飾が乗っけられていて、中世の貴族服を思わせるような、かなり独特のセンス。 


 モニターに映った白煙に驚くというハンクの奇妙な動きに、一つ星盗賊団の面々は、誰も反応しなかった。

 『付き合ってられない』、そんな倦怠的な沈黙が、数秒間流れた後、恐らくハンクの部下一人であろう人物の、「あの……」という遠慮がちな声が、画面外から聞こえて来た。

 

 その声にハッとしたような仕草を見せたハンクは、一瞬身体を硬直させ、そしてネジ巻き人形のようなぎこちない動き方で、再び正面に顔を向けた。


 「おおいいいぃ、モニター越しじゃねえかぁぁ、コンチクショウめぇぇ!!俺はデリケートなんだよぉぉ!!ハメやがったな、クソたっれぇぇ!!」

 

 モニターの向こうで大喚きするハンク。

 ギアンは死んだ魚のような目で、ファイツァーの方を見やった。

 

 数回言葉を交わしただけで、もう限界だからやり取りを変わってくれ、と無言で訴えかける表情。

 ファイツァーは、ギアンの眼差しを頑なに無視している。

 

 「ねぇ……やっぱり引き返してぶっ殺しといた方が良いんじゃない……?」

 

 飽き飽きした声でエルラが呟く。誰かに問いかけているわけじゃない。

 ただイライラが募り過ぎて、言葉を発さずにはいられなかったという調子。


 「ああいう人とは出来るだけ関わりたくないんですよねぇ……」

 

 肩の上のリーラの方に目を向けながら答えるファイツァー。

 相変わらず耳を抑えたままだったリーラは、彼の言葉を聞き取れずに首を傾げた。


 確かに、少女の教育上、こういう人物とは距離を取っておいた方が良いだろう……


 「なんだとぉぉ、ファイツァァァ!?てっっ、うぉぉい、そこに居やがるのが地球人かぁぁ、このヒョロヒョロ野郎!!」

 

 急に呼びかけられても、なんと答えれば良いのか分からなかった。

 他の面々のスルー技術が徹底しているので、少し可哀想にもなってくる。

 緑の巨体を存分に振り回していることが、その虚しさを余計に増幅させていた。

 

 「オメェェは必ずぅぅ、この俺様が手に入れてやる!!この、ティラ銀河の覇王・ハンク様がなぁぁぁ!!」


 両方の力瘤をムキっとさせて大見得を切るポーズ。横顔を画面に向けているのは、彼にとって一番自信のある角度がこれだからなのだろう。

 反応がない驚いて、目玉だけを動かしてチラチラとこちらを見ているが、拍手を送るものは誰もいない。


 「ティラ銀河というのは、地球のデータベースにはありませんでしたが、恐らくこの一帯のことを指すのだと思われます。そして……論理的に判断する限り、彼がこの銀河の覇王ということは有り得ない……つまり……嘘です……」

 

 説明してくれるナレの声にも、戸惑いの色が浮かんでいた。

 彼女のような人工知能からすると、異常なテンションで絶叫し続ける謎の大男は、きっと一番理解が難しいジャンルの一つだろう。

 

 彼女の分析を聞くまでもなく、僕だってこのド滑り大魔王が、銀河の覇王だなんて、さすがに信じちゃいなかった。

 ファイツァーが言っていた通り、小悪党というのが関の山だろう。

 むしろ、それでも一応、一つの組織を率いる男だということの方が不思議だった。


 こちらの反応がないことが気になっているのだろうけど、画面に近付き過ぎている。

 今やモニターに映っているのは、ギョロっとした彼の片目だけ。

 黒目が忙しなく動いていて、誰か彼に応えてくれる人間はいないか探しているようだ。

 

 「そうこう言ってる間に、もうワームホールだ!しっかり掴まってろよ!」


 ギアンの声に、僕はいつの間にか、宇宙船の周りを虹色の光が取り囲んでいることに気付いた。

 キラキラと輝く光の束が重なって、一つの空間を作り上げている。

 こんなに綺麗なものは、仮想世界の中でも見たことがなかった気がする。


 ワープ……当然これも、僕にとって初めての経験だった。


 「さようなら……」と呟いたファイツァーが、ハンクの回線を遮断する。

 「うぉぉぉい」という叫び声が聞こえた気がしたが、それよりもモニター前方に映し出された不思議な光の空間に、僕の目は釘付けになった。


 ここに飛び込んでいくのか……


 そう思った瞬間、視界は全て虹色になり、乱暴だけど優しいような、不思議な感触が僕の全身を包み込んでいった。

第七話もお読みいただきありがとうございます。


次回からは、ちょっとシリアス目の話になります。


ブックマーク、評価、ポイントなどいただけると嬉しいです。


引き続き、お付き合いの程よろしくお願い致します。

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