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第六話 背に腹は代えられない

 「で、どうすりゃ良いんだよ?このまま突っ切っちまうか?」

 

 ギアンはもはや、ハンドルを握ってすらいない。筋肉が盛り上がった肩を、グルグル回しながら尋ねたが、きっと彼には、全力前進以外の選択肢はない。

 旋回しろ、などと指示されたところで、きっとアクセルを弱めはしないだろう。

 

 さっきから警報音が鳴り続けているが、恐らくはスピードの出しすぎだ。

 この宇宙に法定速度なんてものがあるのか僕は知らない。ただ、反則切符を切られないとしても、ガチャガチャと軋み続けている船体自体がもうすぐダメになりそうだった。


 「いえ、待ち構えているのは5隻ですからね……」

 

 アームレストに肘を立て、頬杖を突いたファイツァーが答えた。

 ナレよりも優秀だという彼の頭脳は、きっと今、可能性の計算をしているのだろう。

 他の面々は意見を出すわけでもなく、ただファイツァーの結論を待っているだけ。


 彼の黒目の部分が、高速で動いていることに気付いて声を上げそうになった。そんな風に目を動かす人間は、仮想世界の中でも見たことがなかった。


 「恐らく彼はヒューマノイドです。地球でも研究はされていた時期がありますが、彼ほど高性能なものが誕生しているとは……」

 

 僕の驚きを敏感に察知したナレが説明してくれた。

 ヒューマノイド、つまり人間型ロボットというわけだ。3,000年後の宇宙なのだから、地球人の僕からしたら、驚嘆のテクノロジーが存在することには何の不思議もない。

 それにしても、『考える』部分を機会に丸投げしているのは、3,000年前の地球でも、この時代の宇宙でも同じらしい。

 もっとも、宇宙の方の話でいえば、この一団が特殊過ぎるのかもしれないけど……


 「この間カーライア星で見つけたワープホール、まだ残ってますよね?」

 

 ファイツァーが尋ねると、船長席に腰を戻したエルラはギクッとした表情。

 すぐに無言で、首を左右に振って力いっぱいの拒絶を示したが、「背に腹は代えられねえよ……」とギアンが小さく呟いた。


 ワープホール、僕だって言葉自体は知っている。

 空間から空間へ、瞬時に移動する夢の技術。そんなものまで実用化されているとは……


 「えーーー……あんなの、絶対自分たちでは買えないから、売るのはやめとこうって言ったの、ファイツァーじゃない……」


 リクライニングを水平になるまで倒し、両手を顔の上に被せて、足をバタバタさせることによって、全力の苦悶を表現して見せるエルラ。

 しかし、ファイツァーよりも良い考えを、自分が出せるとも思っていないのだろう。

 そのまま沈黙して、彼の次の言葉を待つ。


 「まぁ、我々の所有物の中で、圧倒的に一番高価なものではありますが、命あっての物ぐさですから……」


 そう言いながら席を立ったファイツァーは、船長席の真下に設置された扉を開いた。

 その先には下へと降りる梯子が吊るされていて、奥にも部屋があるらしい。

 リーラをその肩に乗せたまま、彼は階下へと進んで行った。


 「アンタのせいよ、クソ疫病神……!」


 寝そべったまま、顔だけこちらに向けて、僕を睨みつけるエルラ。

 コールドスリープ中の僕を探してきたのは自分だというのに、そんなこと忘れてしまったかのような言草。

 しかし、そんな反論をしようものなら、どんな目にあわされるか分かったもんじゃない。

 何も答えずにそっと目線を外すことが、僕の出来る精一杯だった。


 「大丈夫、問題なく使えるようです。セッティングも済ませてきました」


 階下の部屋から戻ってきたファイツァーがそう言うと、エルラは諦めと絶望の入り混じった唸り声を上げる。

 目はだらんと力を失っていて、口もだらしなく開いてしまっている。まるで、打ち上げられた魚のような、生気のない表情。

 親に叱られて、反論のしようもなく項垂れるしかない幼児のようだ。


 「すぐに展開しますよ。敵の射程圏内に入ってしまうまで、時間がありません」


 ファイツァーが、悲嘆にくれるエルラを無視して言った。

 ギアンがアクセルから足を離せば、敵と衝突するまでの時間が少し伸びるのではないかとも思ったけど、多分そんなこと言っても仕方ないのだ。

 ラムライズ号は、当然のように、フルブーストで進み続けている。


 「ワープホール、展開」


 ファイツァーが、パネル操作しながらそう言うと、虹色に光る膜のようなものが、前方のモニターに表示された。

 はっきりとした距離は分からなかったが、見た感じ、後数分もすれば到着しそうな位置だ。

 モニターから放たれる光が、ファイツァーの細い頬を照らしていた。


 「ジャンプ先は、宇宙都市アレッタ星。ワープ完了後、速やかに大気圏に突入します」


 エルラが、「金もないのにアレッタ星って……」とボヤいたことから察するに、きっと商業が盛んな星なのだろう。さっき出たばかりの星は、岩と砂ばかりの荒野だったから、僕はいきなり、両極端の世界を体験することになるわけだ。


 僕がそんなことを考えながら、ワームホーム突入の衝撃に備えて手すりを握りなおした時、突然モニターの画面がぐにゃりと歪んで、警告音が鳴り始めた。


 咄嗟に周囲を見渡すと、慌てているメンバーはいないようだった。それどころか、少し呆れたような、飽き飽きしたような表情でモニターを見やる。

 きっと、予想していた展開なのだろう。そして、その展開自体にも、あまり興味を持っていないことがはっきりと感じられた。


 『こぉぉぉぉのぉぉぉ、ドグサレ野郎どもぉぉぉぉ!!!人のものを勝手に持っていきやがてぇぇぇぇ』


 モニターの前面に大きく映し出された人物が、怒りに震えながらそう叫んだ。

 ギアンが溜息をつきながら、額のバンダナから取り出した煙草に火をつける。

 リーラは両手で耳を塞いでいるし、さっきから寝そべったままのエルラは、モニターを見るために起き上がろうともしない。


 あぁ……これは……この人は……


 僕は、さっき目覚めた直後に受けた、ファイツァーからの説明を思い出していた。

 

 『ちなみに、昔地球に生息していたという……』


 これが……この男がハンクなのか……


 コールドスリープ中の僕のところに、一つ星盗賊団を差し向けた癖に、何故か今になって僕を取り返そうと躍起になっている『小悪党』。


 ファイツァーに尋ねてみるまでもなかった。

 間違えようがない。


 モニターには、大きく腕を振り上げて喚き続ける、丸々と太った二足歩行のワニが映っていた。 

 

第六話もお読みいただきありがとうございます。


この世界の宇宙人には、いわゆる人間タイプの者もいますし、我々が『火星人』とかと聞いてイメージするようなタコ足?の宇宙人だっています。

動物によく似た、ハンクのようなのもいます。


違う星で別個に進化してきた種族が似通っているのは、まあ、広い宇宙でそういうこともなくはないだろうということで……


ブックマーク、評価、ポイントなどいただけると嬉しいです。


引き続き、お付き合いの程よろしくお願い致します。

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