ドルナウの街へ行きますよ
「キングオークだろうがレッドボアだろうが来るなら来い!」
気合い入りまくりのゼノさん。「風の痕跡への誘い」の体験後からフィットネスジムに行って身体作りに精を出していますし、何より今回は待望のキャンピングカーを運転しているという理由もあるでしょうね。熱い男になっています。
「ゼノが気合い入っている時って暇だよなあ」
「まぁな」
「結構空回りしているのよね」
キャンピングカー車内で紅茶を飲むハックさん、ヒースさん、ケニーさんは、そんなゼノさんの様子を観察しながらまったり過ごしています。
それもそのはず!今回の車両はV◯NTECHの5代目Z◯Lですからね。クラス最大級のリビングルームを実現させたラグジュアリーな空間に「レン」仕様ですから、振動もありません。2.8リットルのディーゼルエンジンに組み合わされるパワートレイン、ダブルタイヤの4WD。走りもバッチリです。
今回僕らはターミナル経由でセクトの商業ギルドの出張扉からドルナウの街に向かっています。ドルナウの街はセクトから馬車で一日、車だとノンストップで行きますから半日で着くそうです。サムさん達も「レン」から車を借りて一度行って来たそうですよ。SUVで行ったらしいですけど、「快適だったよ〜!」とご機嫌でした。
そして気合いの入っているゼノさんには拍子抜けかも知れませんが、セクトの街とドルナウの街までの街道は、現在セクトの冒険者ギルドからの依頼で冒険者達が多く行き来しています。よって、今回は魔物に邪魔される事なく進行中。快適な車内に僕のメイン扉が付いてますから正にお出かけ気分ですねぇ。
あ、王都の屋敷には出張扉を設置して来ていますよ。モレア様も順調にリハビリ進んでいるみたいですし、そろそろ王宮に戻れるそうです。「王宮にも設置して頂けると嬉しいのですけど」とボソッと呟いていた様ですが、王宮に設置するのは警備面でどうなんでしょうね。ま、僕は頼まれたら動くだけですけど。
え?今僕はどこにいるかって?
「良い景色ですねぇ」
「だろ?やっぱりいいわ、Z◯L。今回レンタカー代王宮持ちだから出来んだよなぁ」
気持ち良さそうに運転するゼノさんの隣で、僕も助手席で窓を開けながら景色を楽しみます。長閑な街道にいきなり現れるキャンピングカー、通りすがりの人や周りの人は驚いてますけどね。
そして異世界の街道にキャンピングカーから流れるゲーム音楽。「この辺で回復できんじゃね」とゼノさんが言う曲は某有名カートの曲ですねぇ。最近ザックさんとハマっているそうです。そんなゆるい雰囲気のキャンピングカーが森を抜けると……
左側に現れた巨大な湖。天気もいいですから水面がキラキラ光っています。「おお〜!湖ですか!」と喜ぶ僕に「ドルナウは湖の街だからな」と教えてくれるゼノさん。確かに湖畔に街が見えますねぇ。と呑気だったのはここまで。近づくにつれて被害状況も見えてきました。
「結構やられてんな」「ですねぇ……」
城壁外の家は軒並み潰されていて、街を守る壁も崩れたまま。城壁の中も崩れた家に座っている子供達や女性達も見かけます。かと思いきや、街中に行けば行くほど整備が整っていきますよ。そして城壁から三分の一は来たかなと言う所で、ようやく道の両端に衛兵さんが立っています。
「止まれ!何者だ!」「何しに来た!」と警戒されてしまいました。まあ、見た事もない鉄の大きな箱が動いていればそうなりますか。ゼノさんがシュバルツ様から託された手紙を見せて、「王宮から依頼を受けた。商業ギルドか冒険者ギルドに向かう所だが」と言うと……
「大変申し訳ありませんでした!」
「どうぞお通り下さい!」
効果絶大です。これやっぱり便利ですねぇ。ついでに情報収集といきましょう。
「ここに来るまで子供達や女性達が瓦礫に座っていたのをみたのですが、中に保護できる場所はないのですか?」
助手席から顔を出してする僕の質問に、顔を見合わせる衛兵さん達。困った顔をして教えてくれたのですが……
「カディル人だからですか……」と僕。「何でだよ?ここはカディル人に寛容な街だろ?」とゼノさんも聞き返します。
衛兵さん達によると、どうやらカディル人嫌いの大手商店店主がいて、カディル人を助けると物を売ってくれないらしく、街の人達も生活の為に手を出せないみたいです。何です!その店主!
プンプン怒る僕の様子に衛兵さん達が更に教えてくれた事によると、この街で多くの傘下を持つその商店の名は「コバディ」。前店主はカディル人を雇うくらい寛容な人物だったそうですが、その前店主が病気で亡くなった辺りから怪しくなって来たそうです。
そしてそれは補修に来た職人さん達も同様。カディル人の家を直すなら物は売らないと言っているから、補修が進まないそうですよ。おかげで最近じゃ、街中でもカディル人の事を悪く言う人も増えてきたらしく、この街を誇りに思っている衛兵さん達も困っているそうです。
いけませんねぇ、いけませんよ、これは。
「お?珍しい。トシヤお前怒ってねえか?」
「なんです?ゼノさん。僕だって怒る時は怒るんですよ。これは商業ギルドを優先して行きましょう」
からかうゼノさんでしたが、僕の真面目な顔に「了解した」とすぐ切り替えて車を発進させます。なぜこの様な横行を許しているんでしょう。聞きにいかなければいけません。
衛兵さん達から聞いた商業ギルドの場所は道をまっすぐ行った左側にあります。そこは二階建ての綺麗な建物でさっきまでの同じ街とは思えません。
僕らは馬車置き場で全員車から降りて、メイン扉を収納し、キャンピングカーをエアを通してレンに返却します。返却が完了してから商業ギルドの中へと向かうと……内部は一緒ですねぇ。一階は真ん中に受付、左側は依頼掲示板、右側が待合室兼簡易商談個室です。かなり広いですねぇ。
そんな僕と違ってゼノさん達は真っ直ぐ受付に行き「いらっしゃいませ」と笑顔の受付嬢さんに「ギルド長に繋いでくれ」といいながらシュバルツ様から貰った封筒を見せています。
笑顔の受付嬢さんが、封筒の王家の印を見て驚き「只今お取り継ぎ致します」とバタバタ二階に駆け上がっていきました。「ひょー、すげえ効果」と関心するハックさん。僕はまた水◯黄門気分です。さしずめ右にゼノさん、左にヒースさんで、ケニーさん、ハックさんは隠密ですかねぇ。と馬鹿な事を考えていると、受付嬢さんと男性役員さんらしき人が慌てた様子で降りて来ます。
「お待たせ致しました。副ギルド長のレイノルと申します。ギルド長へご案内いたします。どうぞこちらへ」
真面目そうな眼鏡をかけた副ギルド長が案内してくれます。ふむ、この人見る限りでは大丈夫そうですけど……しかし、なぜ美形が多いのでしょう?謎ですねぇ、と異世界の謎を考えていると、ギルド長室に着いた様です。副ギルド長のレイノルさんがノックして入ると、気弱そうな男性が机に座って書類整理をしています。あちらがギルド長さんですかねぇ。
「ああ、これはこれは!ようこそ商業ギルドドルナウ支店へ。ギルド長のビスタと申します。ささっ、こちらにお座り下さい」
やっていた作業を中止し、ひたすら低姿勢な態度で僕らを迎えるギルド長さん。ちゃんと食べてますかねぇ、細いですよこの人。僕が心配しているのがわかったのか、副ギルド長のレイノルさんが苦笑しながら教えてくれます。
「最近ギルド長は問題に挟まれているせいか、余り食べて下さらないのですよ。しっかり食べないと立ち向かう気力も出ないと言うのに」と心配顔のレイノルさん。そんなレイノルさんに「すまない」と言いながら席に着くビスタギルド長。
「失礼致しました。着いて早々にご心配をおかけして。では早速王家からの手紙を拝見させて頂けますか?」
キリッとした表情になり、僕から手紙を受け取ると綺麗な所作で封を開け素早く目を通しています。ギルド長も仕事出来る人って感じがするのですが……ここは一つレイノルさんに聞いてみましょう。
「レイノルさん。僕らここに来る前に街を見て来たのですが、復興が思わしくない様ですね」
「いや、お恥ずかしい。少々問題がありまして、現在打開策を検討中なのですが難しい案件でして頭を悩ませております」
僕の問いに苦笑いしながらもきちんと対応してくれたレイノルさん。年下だからと見下げない辺りが誠実な人ですねぇ。好印象です。ふむ、何もしていない訳ではなさそうですが、何か理由があるんでしょうか?
……ん?ビスタギルド長が固まっていますね。どうしました?
「ビスタギルド長?どうされました?」と同じ事を思ったレイノルさんがビスタギルド長に問いかけています。「いや、それが……」と信じられないという様子でレイノルさんを呼び、手紙を見せています。速読したのでしょう。読み終えたレイノルさんも僕と手紙を見比べています。
……シュバルツ様何書いたんです?と不安になる僕の後ろでは護衛のセイロンメンバーが笑いを堪えています。ん?何やら僕笑われるネタになっているんですかね。セイロンメンバーを睨む僕にビスタギルド長が恐る恐る聞いてきます。
「恐れながら確認してもよろしいでしょうか?こちらに記載されている事は本当の事でございますか?」
震える手で僕にシュバルツ様からの手紙を僕に差し伸べるビスタギルド長。いや、何でそんな青い顔しているんです?何書いたんですか!シュバルツ様!急いで手紙を確認する僕の後ろから一緒になって覗きこむセイロンメンバー。
一分後……
「だっはははは!ト、トシヤ、お前いつからお高き御身になったんだ?」とゼノさん。「ちょっとシュバルツ様上げすぎよお。怒らせると大地が破壊されるとか」とケニーさん。「プハッ!確かに偉業と言えば偉業だけどトシヤだぜぇ」とハックさん。「これは間違ってはいないが間違っている」とヒースさん。
……どうしましょう。僕も全く同じ意見です……どんな人物ですかコレ!
「と、ともかく、確かにすげえ能力だけど、コイツは全く気にしないのんびりした奴だから気にすんなって!」とビスタギルド長に笑いながら伝えるゼノさん。「あーもう!リーダーがしっかりした口調で話さないと余計に誤解されるでしょ!」と指摘するケニーさん。「大丈夫大丈夫!ボーッとしていて無害で無心な奴だから」と嬉しい様な何とも言えない事を言うハックさん。「ほら、お前からもちゃんと言え」と僕に手紙を渡すヒースさん。
何となく複雑な心境の僕です。でもまあ、言える事と言えば……
「お二人共時間とって頂けますか?ぜひご自身の目で確認してみて下さい。ご案内しますよ、僕の亜空間ホテルへ」
実際に連れて行った方が早いでしょうね。
……いや、そんな怯えなくてもいいですって……
全く!後でシュバルツ様に苦情申請しましょう!
受理されますかね?
アクセスありがとうございます♪ドルナウ編突入です。どこに行ってもトシヤがやる事は一緒です。さて今回はどうなるやら。明日も宜しければアクセスしてみて下さいませ(*´꒳`*)