「大地の赫への誘い」です 其の弍
「まあ、そうやすやすと通してくれねえよなぁ」
「そう言ってる暇があったらさっさと飛び込んで下さいよ」
「わかってるよっと!」
デノンさんの運転のもと山頂の火口から降りて来た僕たち。ですが、いたんですよ〜、ウヨウヨとコオロギが!今もネイサンギルド長をはじめ、狙撃席に座っているみんなで撃退中です。
勿論車体に突進してくるヤツもいますよ。でもそこは安心安全のアルコ仕様。なんと車体は亜空間を纏っているらしいので被害は一切なし。まぁでも……
「ぎゃー!また来た!」「あら、多いわね」と叫ぶケニーさんと冷静なカーヤ様。「まだ目を閉じていた方がいいですよ」「ええ、わかったわ」キーン様に周りを見て貰って目を閉じているシロカ様もいます。特に女性は苦手でしょうからねぇ。
一方喜んでいる人達もここに。
「来やがれ来やがれ!」「何だこれ!楽し過ぎる!」
いつのまにかヒースさんとシャラさんから席を譲って貰っていたゼノさん、ハックさん。撃ちまくってますねぇ。狙撃ゴーグルで操作のアシストがあるので、途中交代もできるみたいです。その様子をやれやれと呆れて見ているヒースさんに、「そっちから来た!そう!上手い!」とハックさんに声援を送るシャラさん。この扉の利用者メインは冒険者サイドになりそうですねぇ、と考える僕。
あ、一人違う人いました。「ユーリ、大丈夫かい?代わろうか?」「あら、これでも心配ですの?」とイクサ様の穏やかな声かけに、にっこり答えながら正確に10発命中させるユーリ様。この人達はまぁ、特別でしょうねぇ。ん?何です?アルコ。全て自動操縦コースもある?それはまた選択の幅がありますね。
「よっしゃ!念の為捕まっておけよ!」
タイミングをみていたデノンさんがハンドルを大きく切って、吹き出したマグマに突入して行きます。オートで〈マグマダイビングモード〉に切り替わった車体は、粘り気のあるマグマに難なく飛び込みます!
その最中赤く光り様々な赤が混ざったマグマが迫ってくる様子は怖さよりも神秘な輝きを感じてしまった僕。どうやらみんなも同じだった様で、「まぁ」「あら」「へえ」「これは……」と言う声が聞こえて来ます。
マグマの中に飛び込むと一面の赤と赫の世界。しかも横に線が流れていると言う事は、流れに逆らって進んでいるみたいです。アレ?デノンさんなんで席を離れているんです?
「オートモードに切り替わったんだよ。どうやらこの先は操作いらねえみたいだ」デノンさんが無くなった運転ゴーグルを指差します。周りを見ると「ああ〜終わっちまった」「楽しかったですわ」「シャラさん、ありがとな」「いーよいーよ。ネイサンもいい気分転換になったんじゃない?」「まあ、そうですね」と言う会話が聞こえてきます。マグマの中なのにまったりとした雰囲気の車内。なんか面白いですねぇ。そんな中、アルコの案内が車内に流れます。
『これより当機は流れに逆らってマグマ溜まりまで向かいます。でも皆さん、マグマの中とはいえ、この様に生物はいるんですよ。右側の窓をご覧下さい』
横縞の赤の中にヌッと現れた長い生物。僕らと同じ方向へ向かっています。しかしこれはデカいナマズ?
「ボルケーノキングキャットフィッシュ……存在したのか」
ネイサンギルド長がボソッと呟いています。
『ネイサンギルド長正解です!ボルケーノキングキャットフィッシュ。体長8m、横幅1mの細長さを生かして、火口とマグマ溜まりを行き来する比較的大人しい魔物です。エサは火口に住む小生物ですね』
アルコがネイサンギルド長の呟きを拾って補足情報を教えてくれます。ネイサンギルド長流石ですねぇ、と言う僕の言葉に「ネイサン魔物オタクだから」と笑って教えてくれるシャラさん。おや、だから表情が明るいんですね。
『他にもいますよ〜。右側の窓には群れをなして泳ぐボルケーノドルフィンも現れました。こいつら早いですからよく見て下さいね〜』
アルコの案内にすかさず反応するネイサンギルド長。「素晴らしい!」と感動してます。僕は早くてうっすらしか見えなかったんですけど。異世界はマグマの中にも生き物が育まれていたんですねぇ。
窓の外やモニターをのんびり見る皆さん。先ほどまでとは違いまったりとした車内では、それぞれさっきまでの話や魔物の話で盛り上がっていますねぇ。そんな中、ポーンと音が車内に響きアルコの案内が入ります。
『皆さん!ここがマグマ溜まりです!マグマの中で生きている魔物達の様子をしばらくご覧下さい』
アルコの案内が終わると窓の仕様が変化したのでしょう。マグマの中が見やすい様になり、先ほどまで並走していたボルケーノキングキャットフィッシュや、ボルケーノドルフィンが悠然と泳いでいる様子が見えます。
面白いのが魚やカニや貝もいるんです。目を輝かせているネイサンギルド長によると、全部魔物だそうですよ。マグマ溜まりでは攻撃してこないそうで、僕らは滅多に見れない世界を堪能させてもらっている様です。そして、みんながワイワイと穏やかに見ている中、壁の一部が光っているのを見つけた僕。なんです?アレ?
『おや、珍しい。皆さん、ちょっと時間延長致します。この山の主が呼んでいますね』と車体の進行方向を光る壁に向けるアルコ。なんと!車体が光る壁に吸い込まれて行きます。
光る壁を通りすぎて目の前に現れたのは……一面の宝石の壁の中に佇む巨大な赫いドラゴン。ってドラゴンですよ!皆さん!逃げなきゃ!
《怖がらなくとも良い……何とここまでこれる奴らがおるとは……》
ええ?頭に声が響いて来ます。もしかしてあのドラゴンが話しているのですか?
《驚くのも無理はなかろう……我は長き時を生きておるからの。この妙な箱はそこの糸目の男の力か……面白いものよの……》
何と穏やかな声なんでしょう。これが人々から恐れられているドラゴンですか?と僕が思っている隣りで「……まさかこの山はエクディア山ですか?」と驚くキーン様。「では貴方様はエンシェントファイアードラゴン様……」と口を押さえて驚くシロカ様。ん?もしや有名な場所でした?ここ。
後でアルコに聞いた話では、エクディア山は魔物の蔓延る広大な森の中にそびえる神秘の山。ただし所在地は明らかにされておらず、その山にはエンシェントファイアードラゴンがいると言う言い伝えだけが有名だそうですよ。
少し置いてかれた感じの僕の周りでは、「嘘だろ……」「まじか……」「本当にいたんだ」と驚きの声をあげています。そして「ネイサン!ネイサン!いたんだよ!ほら!やっぱりいたんだよ!」とネイサンギルド長をバシバシ叩くシャラさんに、目から涙を流したまま立ち尽くすネイサンギルド長。
「まさかご尊顔にあずかれるとは……なんと光栄な……」というネイサンギルド長の声に《……人の子らはまだ我の事を知っておるのか……》と反応するエンシェントファイアードラゴン。
「貴方様が大地の活動を調整していると聞きおよんでおります。これは確固たる言い伝えとして各ギルドで共通の認識でございます」と冷静に答えるキーン様とカーテシーで答えるシロカ様。デノンさん、カーヤ様、ユーリ様、イクサ様もいつの間にかきっちりした佇まいでいらっしゃいます。
《そうか……ならばいつでもこの地に来るが良い。この魔力は心地良い……我の為にもなる……》
どうやらエンシェントファイアードラゴンと僕の魔力の波長が合うらしく、この山に来る許可が改めて貰えました。その後、エンシェントファイアードラゴンは少し眠りにつく為、すぐに僕らはマグマ溜まりに戻されました。……が、戻った途端に車内は興奮状態です。
「すっげぇ!すっげぇ!俺ら生きた伝説に会えたんだぜ!」とゼノさん。「ああ!あんなに巨大でもなんていうか気品あったよなぁ!」とハックさん。「なんか綺麗な赫だったわね!」とケニーさん。「まさか目で確認出来るとは」とヒースさん。感動で涙が止まらないネイサンギルド長にその肩をポンポンと笑顔で叩くシャラさん。感動を共に出来た事を抱き合って喜ぶデノンさんにカーヤ様。シロカ様の肩を抱き寄せて遠ざかる光る壁を見続けるキーン様。その様子を微笑みながら見ているユーリ様とイクサ様。
マグマ溜まりからマグマ通りの流れに乗って、また山頂の火口に出る頃にはみんなも落ち着いた雰囲気に戻ってました。そんなオートモードでの帰り道、アルコが「折角ですから」と寄り道したのは山の麓。到着した場所は……岩地に広がる湯気が漂う水辺。辺りからはボコボコとお湯が湧き出しています。
「天然温泉じゃないですか!」と興奮する僕。
皆さんは温泉がわからないそうで僕一人興奮していた様なものですが、アルコの補足情報で女性陣が歓喜します。
『現在この温泉は周りが魔物で溢れているため使用不可能ですが、効能は肌や髪が潤い火傷の痕や古傷まで癒してくれる火龍温泉です。先ほどエンシェントファイアードラゴンに許可を頂きましたので、オーナーがこれから設置する予定のスパリゾートにて入る事が可能になりました。皆さん、オーナーに設置を頼んでみて下さいね』
何と!女性にとって憧れのお湯じゃないですか!……っていうかやばいです。なぜかにっこり笑っているケニーさんやカーヤ様、シロカ様、ユーリ様からも無言の言葉が聞こえて来ます。
これ、ホテルに帰ったらより騒がれるでしょうねぇ……
元の出現ポイントに帰る車中。賑やかなみんなの中で、僕は一人今後の事を考えてため息を一つ吐いたのでした。
アクセスありがとうございます!これにて「大地の赫への誘い」は終了。次回は「セレクトコースでご案内です 其の参」になります。少しでも良いなと思ったら良いねを押して下さると、作者の糧になります。宜しければお願い致します(*´꒳`*)