天空宮殿《碧》に泊まりましょう! 1
「ようこそ!天空宮殿《碧》へ!」
僕らを迎えてくれたのは、天空宮殿の実体化したAIのフラグリィ。丸い移動浮遊魔導具、『ポータルポット』に乗って登場です。
「フラグリィ、今日はお世話になります」
「なにをおっしゃいます、オーナー!いつでもいらして下さって構いません」
フラグリィはグランを尊敬していて、グランと同じ執事の格好をしている20代くらいの青年です。まあ、AIのみんなと一緒で、相変わらず顔は整っています。
「それにしても見事ですねぇ」
今、僕が見ているのは天空宮殿のエントランスホール。バロック様式さながらの豪華な装飾と細かい彫刻。それらが碧の壁に調和されているんです。また見事な地上絵があちこちに飾られていて、目を楽しませてくれています。
そして面白いのはこのエントランスホール、天井が最上階まで吹き抜けていて、その天井は外の空の色を映し出しているんです。現在の空の状況がわかるんですよ。
「さあ、まずは皆様のお部屋にご案内致します」
相変わらずキョロキョロする僕達。その様子を見て微笑むフラグリィがスッと手を上げると、現れたのは大人数用ポータルポット。
大人数用は円盤の床に腰の高さまでの手すりがあり、芸術的な模様の柵で落下を防止します。この宮殿ホテルではコレが移動手段なんですよ。
「相変わらず面白いよなぁ」
そう言いながら、1番にポータルポットに乗り込むデノンさん。デノンさんはコレがお気に入りですからねぇ。
「オーナー!私ハ先ニ決闘ノ場ニ行かセテ頂きマス!」
既に一人用のポータルポットを出して乗っているティモ。僕が返事をする前に既に動き出してましたけどね。
「あー、またティモの暴走が始まったっす」
「仕方ないでしょう。負け続けているらしいから」
ポータルポットに乗り込みながら、ティモの事を話すレンとアルコ。因みに元AIスタッフはみんな一人用のポータルポットを持ってますよ。まあ気分で使い分けしてるそうですけど。
あ、ティモの言っているのは調理場の事ですよ。これについては後で教えますね。
そして全員乗り込むと、フワッと浮き出すポータルポット。スウー……っと上昇していきます。
「移動していても、風がないのが不思議ですよねぇ」
「そこは亜空間ホテルならではの仕様ですから」
僕の呟きにも、自慢気に答えるフラグリィ。
そう、この乗り物は動いている感じが全くしないんです。ですから酔うこともありませんし、髪が乱れる事もありません。
いやぁ、快適ですねぇ。
「お待たせ致しました。最上階スイートフロア『碧の宴の間』に到着致しました」
先導していたフラグリィのポータルポットが到着したのは、通路脇に緑や花が咲き誇り、太陽をモチーフにした装飾が見事な門の前です。
僕達が乗ったポータルポットは、その通路とドッキングして止まりました。グランがポータルポットの安全バーを下げ、全員通路に移動すると……
門が自動で開き、中の様子が目の前に広がります。
「すっげぇ……」
「あらぁ、素敵」
「……見事だ」
初めて天空宮殿のスイートフロアを見た元クライムメンバー。ザックさん達は、口を開けたままキョロキョロ見回しています。
うんうん、気持ちわかりますよ。ここはスイートルームというより王宮なんですよねぇ。
そう、門の扉を開けると、そこは広いエントランスホール。そして正面には、太子の階段と呼ばれる階段があります。これ真ん中まで大階段になっていて、踊り場から左右に階段が分かれている造りの階段なんです。
そう、入り口を入って一階は贅沢にもエントランスホールだけ。周りは美術品で囲まれています。シュバルツ様は、良くここで絵画鑑賞なさっています。
天井には見事な大型シャンデリアがあり、僕は思わず魔獣が美女と踊っている場面を思い出しましたねぇ。
そして、フラグリィによると、スイートフロア『碧の宴の間』は三階まであるんです。内部はこうなっています。
一階 エントランスホール・ミニ美術館
二階 特設レストラン会場『碧』
特設男女別大浴場『光の園』
三階 客室12部屋(主寝室一部屋、他一人用客室)
僕は、亜空間ホテルの中の最高峰はここだと思っています。
いやぁ、何度来ても場違い感半端ないんですよ。でも、僕が泊まるっていうとここに連れて来られるんです。ありがたいですけどね。
「素晴らしいわねぇ、ここは。でも私達も泊まらせて貰えるのは嬉しいわぁ」
「そうだよね!なかなか無い機会だもん」
フラグリィの案内で階段を登っていると、うっとりした表情のビニーと満面の笑顔の表情のアルコの会話が聞こえて来ました。二人共、お客様として来る事ってないでしょうからね。
「オーナーはこちらの『太陽の間』をご利用下さい」
まずは僕から部屋が決まっていきます。客間にそれぞれ名前があるんですよ。でも作りは主寝室以外はみんな一緒ですよ。
そう、僕が主寝室をいつも振り分けられるんですよ。
……別に他の部屋でもいいのになぁ。
なんて、贅沢な悩みを抱えながら、主寝室に入ります。
主寝室の中は、リビングと寝室に分かれているんです。勿論トイレやお風呂もついてますよ。簡易ミニバーまでついているんですから凄いですよねぇ。後でティアさん達も呼びましょう。
だって、ここのリビング広いんですよ。みんな呼んでも余裕なんです。ソファーも8人位座れますし、ミニバーカウンターには対面式テーブルと椅子が4脚あるんです。
これはパーティをしなさいって事ですよね。
因みに何飲んでも飲み放題ですよ。
更に、リビングのソファーは雲で出来ているんですかって位、柔らかくて座り心地いいんですよ。まあ、雲触った事ないですけど。いいんですよ、雰囲気で察して下さい。
コホン、えー……気を取り直しまして。
寝室には、大きな天蓋式のキングベッドが部屋の真ん中にドドンと設置されています。しかもこちらの人用っていうんですかね。多分ビニーが寝てもかなり余裕ありますよ。……凄いですよね。
いつものようにソファーに腰かけると、僕の部屋をノックする音が聞こえて来ます。返事をすると入って来たのは、グランとキイ。
「オーナー、お茶が入りました」
キイは紅茶を淹れて持って来てくれたみたいです。グランは報告でしょうね。こんな時まで真面目なんですから。
キイが僕の前のテーブルに紅茶を置き、僕の向かい側に二つ紅茶を用意します。
僕一人で飲むのは気が引けるし、一緒に飲むと美味しいですからね。僕付きの二人には、最初に一緒に飲むように習慣つけさせました。
「さて、今日はエアが頑張ってくれているんですよね」
二人が座って一口飲むのを見計らって、話しを切り出した僕。
グランが僕のサポートに入ってからは、エアは専らグランのサポート役に徹しています。他国からの要請や僕への取り次ぎ等、外の窓口役ですね。
「その通りでございます。エアによると万事が順調。ただ、少々ゲセナ国が慌ただしいそうでございます」
「ああ、前に言っていた第三王子の王位継承の儀でしたっけ?体調戻ったんですねぇ」
「そちらに関してはニックやヤク、リョウの働きが大きかったそうでございます。そしてグランデ代表であるオーナーにも、招待状が届いております」
スッと僕の前に招待状を置くグラン。僕が封を開けようとすると、今度はキイがスッとペーパーナイフを僕に渡してくれます。
……うん、いつも至れり尽くせりなんです、僕。これに慣れないようにしないとなぁ、と思っているんですけど。人間慣れって怖いですよねぇ。
そんな事を考えながら招待状を見ると……
「ん?この人数の多さはなんです?」
招待状に記されていたリストの人数が、一般従業員以外の全グランデスタッフなんですよ!でも、流石にライ君達まではやりすぎじゃないですかね⁉︎
「ゲセナ国新王の感謝の表れと思われます。勿論全員で行く必要はないかと。出席予定はオーナー、私、キイ、シュバルツ様、デノン様、ライル王様と現宰相のウェイン様を予定しております」
「護衛は、ライル王側が騎士団100人、当ホテルよりアルコ、ビニー、ジーグ、アルコ製武器を装備したテラとセイロンの方々を予定しております」
グランの説明に加えて、キイが追加情報を教えてくれたんですが……どこと戦争するつもりですか……!
「ライル王がいるのでわかりますが、僕にそんなにつけなくても……」
なんて言っていたら、またもやグランとキイにこってり絞られました。僕の存在を僕自身が過小評価していたら守りきれない事。それに、僕に何かあったらホテル総出で国を滅ぼしますって宣言されたんです。
思わず「護衛お願いします!」って頭を下げましたねぇ。
はい、気をつけマスヨ……
そんな僕を見てため息を吐く二人。
ウッ、また話が始まりそう……ってタイミングで、バタンと扉が開きます。
「よーお!そろそろ風呂行こうぜぇ!」
ノックもせずデノンさんが入って来てくれたのは救いでしたね。すかさず立ち上がって移動する僕。
「はい!行きましょう!グラン達も行きますよー!」
さあ、皆さん!グランの話が始まる前に、温泉に向かいましょうね!
アクセスありがとうございます!次の更新は28日木曜日の予定です。誤字報告もありがとうございます♪




