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閑話 星読みの唄 2

 ゲセナ国からの脱出をした俺達。脱出の方法にも度肝を抜かれたけど、連れてこられた先でも驚きの連続だった。


 亜空間グランデホテル。


 そもそも亜空間なんてものがある事も未だ理解できないが、この世界最高峰の宿が最初の避難先とは思わなかったぜ……


 正直、最初はゲセナ国にいた時より生活が厳しくなると思っていた。でもまさか格段に良いところに連れて来られるなんて誰が思う?


 まずは食事。食べた事のない品々ばかりだったが、最高に美味かった!ほぼ、全員無心で食べていたな。


 それに、初めて風呂というものに浸かったんだ。俺達かなり汚れていたんだな。……まさか自分の本来の肌の色が白いなんて思わなかったぜ。それになんと言ってもたっぷりのお湯に浸かる贅沢さ!気持ち良かったなぁ……


 極めつけは寝る場所だ。総勢500人近くの避難民がいたんだぜ。なのに一人一人に個室とベッドがあてがわれれる、と聞いた時の驚き!布団という貴族が使っている様なものに、俺達スラムの出身者が寝れる日が来ようとは……正に夢の様な待遇で、この先の事に疑いや不安を抱く奴らも多数いた。


 あ、泊まった場所は何処かって?孤児院の入り口から入った俺達は、カプセルホテルタイプという宿舎に割り振られたんだ。みんなが色々疑念を抱く中、婆様が1番早く適応してんだぜ。


 「気持ちはわからんでもないが、ここまで用意できる相手が、私らを悪い様に扱うと思うかい?心配なんざ不要ってもんさね。むしろ割り切って楽しみな!」


 そう言って婆様さっさと布団に入って行ったんだ。その後すぐ「くああ!良いもんだね、このベッド!」とか言って、婆様も子供達と一緒にはしゃいでいるんだぜ。おかげで、全員肩の力が抜けて助かったけどさ。


 実際に使ってみたら、疑念抱いていた奴らからも嬉しそうな声が聞こえて来たからなぁ。高揚感から一晩中話すんじゃねえかってぐらい周りから感想報告くるんだぜ。嬉しくて泣いている奴らもいたな。うん、気持ちは分かる。ま、ほどほどの時間になったらみんな眠りだしたけど。


 俺は念の為、まだ気を張っていたんだ。何かあったらって思ってな。でも気がついたら寝ちまっていた。この寝心地の良さには勝てなかったぜ。


 で、今は朝食の時間なんだ。貴族や一部商会の奴らはドリームホテルってもう一つの宿に分散した為、気兼ねなくビュッフェレストランって場所に集まって食事が出来ている。あ、ヤレアハのおじさん、おばさんが居た。


 「おはよう!おじさん、おばさん。よく眠れた?」

 「おはよう、コハブ」

 「おはよう。もうぐっすりよ。コハブも眠れたみたいね」

 「護衛としてはどうかと思うけどね。一緒に食べていいか?」

 「ええ。勿論よ」


 既に食事を持ってテーブル席に座って居たおじさん達。遠慮は要らないって言われていても、少ない量しか持って来てねえな。どれ、多めに持ってくるか……


 大勢の人数で自分の好きなだけ料理を取るってだけでも驚くってのに、このレストランって所は料理がなくならない。昨日も不思議に思ったがこんな仕様と受け入れてしまえば慣れるもんだ。


 お、婆様。朝から肉にいくとは凄えな。子供達は甘いもんばっかとるんじゃねえって。ほれ、この野菜も食え。


 楽しそうに料理を選ぶ孤児院の子供達を横目に、俺も選んだ料理を持ってヤレアハのおじさん達が待つテーブルに向かう。


 「コハブ、そんなに沢山食べれるのかい?」

 「おじさん達の分もあるんだって。こっちも美味いから食べてみろって」

 「でもね、なんだか申し訳なくって。こんな大勢にたっぷり食事を用意するのって大変なんじゃないかしら?そのうち食料が供給されなくなったらって思うとね……」

 「おばさん。だからこそ食べれる時に食べとけって。まぁ、そんな事心配しなくていい気がするけどさ」


 そうやっておじさん達に分けながらも食事をしていく俺。何回か料理を取りに行っては食べるを繰り返し、食事も終わり頃になった時……


 大広間の天井から、大きな白い布みたいなのが降りてきたんだ。そしてその布には動く絵が写し出された。


 実はこれ昨日も見ているんだ。このグランデホテルの職員が、行動予定を話してくれたからな。初めはそりゃ、すっげー騒ぎだったぜ。でも今日は二回目だからか、そんなに驚いていねえな。お、始まるか?


 『皆さん、おはようございます。グランデホテル総合管理担当グランでございます。食事が終わる方もそのままでお聞きください』


 どうやらグランさんによると、この後俺達に簡易宿舎という家が各自与えられるらしい。その簡易宿舎の中も動く絵で見せてくれたんだが、俺達からすると夢の様な造りだった。一人部屋が与えられるだけではなく、既に家具や調理器具は揃っているんだぜ。


 それに簡易宿舎に移動すると、下着や服が更に貰えるらしい。因みに、今俺達は部屋着って言う着心地の良い服を着ているんだ。下着も昨日の時点で新しいの貰っているしな。


 それだけじゃないぜ!なんと職場まで紹介してくれるらしい!先の見えない異国の地に来た俺達にとって、それがどれだけこの先の光になった事か!


 ゲセナ国では仕事をしたくても仕事がなかった。俺達スラムの人間にとっては願っても叶えられないことだったんだ。だから働いて生きていけるなんて夢の様だ!と泣きながら叫ぶ奴もいた。


 家の中で暮らしていけるなんて!と家族で抱き合う姿もあった。孤児院の子供達はまたみんなで暮らしていける事を喜びあった。


 しばらく歓声や喜びの声が収まらない大広間内。その間グランさんは微笑んでジッと待ってくれたんだ。そうして、全員の喜びの頃合いを見てグランさんが話始めた。


 『では、この全てを用意して下さった我らのオーナーをご紹介しましょう』


 すると、何やらここより更に豪華な室内の絵に切り替わったんだ。そこでは貴族達が優雅に過ごしている様子も映っていた。


 ここは貴族や商会が泊まっているという、もう一つの宿だろうか……?

 

 そんな事を考えていると、一人の糸目の男が出て来た。


 『ん?サムさん何してるんです?』

 『アレ?言ってなかったっけ?今グランデホテルのビュッフェ会場と中継が繋がっているんだよ。トシヤ君の紹介だって』

 『は?聞いてませんよ、僕』


 ……なんとも気の抜ける会話をする糸目の男が、この凄え施設の主人なのか……?


 『オーナーの性格上逃げられると思いましたからね。まぁ、顔見せだと思って気楽に話して下さい』

 『……シュバルツ様みたいに、言われてすぐ出来るわけじゃないんですよ、僕』

 『まぁ良いじゃねえか!ほれ、さっき話していた事を話してやれ』

 『トシヤ君、早く。ほらアップにしているから』


 声を聞く限り、どうやら昨日俺達を助けてくれた人達も周りにいるみたいだな。そう思って見ていると、糸目の男がため息を吐いてこちらをまっすぐ見て話し始めた。


 『……ええと、皆さん初めまして。グランデホテルオーナーのトシヤと申します。昨日はぐっすり眠れましたか?まずは心と身体をゆっくり休ませて回復して下さいね。……そして僕から皆さんにお願いがあります。


 これからは人生を楽しんで下さい。


 生きる事に、楽しい嬉しいという事をもっともっと実感して下さい。勿論大人はきっちり働いてもらいますし、子供はしっかり学んでもらいますけどね。


 僕に恩を感じるならば、心から笑って下さい。僕への見返りはあなた達一人一人の笑顔です。僕の施設はその為にありますし、その為に役立ちますからね!


 あ!でも差別は禁止ですよー。これからはカディル人もゲセナ人もありません!みんな同じ世界で生きる同じ人ですからね。全ての人が笑いあえるように過ごす事。これが僕からのお願いです』


 ……願いとはなんなのかを考えさせられた言葉だった。


 今までの俺の願いは、裕福な奴らから富を奪ってやるという事だけだった。


 だが目の前に映っている男は、俺達に向かって願うと言ったんだ。願う為に、あの腐った国以上の土台を与えた上で。


 ……俺はこの時、胸の中で燻っていたものが剥がれ落ちた気がした。


 大広間が静けさに包まれる中、未だ映り続けている俺達の恩人の姿をジッと目におさめる。

 

 『……サムさんもういいんじゃないですか?』

 『いやぁ、意外にもトシヤ君がまともな事を言うからねぇ。驚いちゃった』

 『確かに。「ゆっくり休んで下さいねー」って手を振って終わると思ったしな』

 『……デノンさんの中で、僕をどう見ているかわかりましたよ。そんなお気楽人間じゃないですからねーっだ!』

 『オーナー、まだサムが撮ってますよ?』

 『うわぁ!サムさん、もう切って下さいって!』

 『えーこういうのも面白いのに。ああ、わかったって!以上、トシヤオーナーのお言葉でしたー!』


 なんともゆるい雰囲気のまま、場面がグランさんに切り替わっていた。


 『オーナーのありのままをご覧になっていかがでしたか?我らのオーナーは優しい方です。是非見かけたら声をかけてあげて下さいませ。では、そろそろ皆様期待の住居へご案内しましょう。それぞれのテーブルに案内役が参りますので、案内役の指示に従い移動をお願いします』

 

 グランさんの言葉で、ざわざわと騒がしくなる大広間内。

 でも誰一人悲壮な顔をしている人はいない。

 みんなが光を見たかの様に明るい表情だ。


 「初めまして!貴方達は私が担当になります。セクトの街で木陰の宿という民宿をしております、エルと申します。宜しくお願いしますね!」

 「ああ、宜しく」

 「宜しくお願いします」

 「まぁ、可愛いお嬢さん。お願いします」

 

 獣人の女の子が案内をする後から動き出す俺達。

 この時、俺はようやく地面に足がついたような気がした。

アクセスありがとうございます!最初の更新よりかなり改稿しました。わかり辛い文章でも読んで下さった皆様。心より感謝致しますm(_ _)m

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