ゼンさん家族集合です(成人組+未成年一人ですけど) 其の壱
僕がライ君を抱いて扉を出ると、エルさんの声が聞こえます。
「ほら!言ったでしょう?ライもちゃんと無事だって」
「あらぁ、エルちゃん。そんな事言ったって理由教えてくれないと納得できないじゃない」
「そうだぞ、俺だってこの目でみたけど、すぐには信じられん。壁からお前達が出てきた時は腰を抜かすかと思ったんだぞ」
どうやら先に出たエルさんが、ご両親に質問攻めされていたみたいです。でも、エルさん僕の事言わないでいてくれたんですね。口が固いことも更にエルさんの信頼度が上がりましたね。
まぁでも、僕が話さない事にはこの場は収まらないでしょう。
「お話し中すみません。僕はトシヤと申します。まずは大変申し訳ありませんでした。大事な息子さんと娘さん達を勝手に連れ出してしまって。
その件についてしっかりお話し致しますが、その前にライ君リルちゃんを先に寝かしつけて頂き、その後またこの部屋に来て頂く事は可能でしょうか?」
僕から謝った事が功を奏したのか、少しご主人さんの表情が柔らかくなりましたね。
「あらまぁ、ライちゃんこんなに安心して寝ちゃって。重かったでしょう?ライちゃん引き取りますわ。ほらあなた」
意外にも動じず対応してくれたのは奥様のほうでした。ご主人さん奥様の言葉に「はぁ」とため息をついて、僕の方へ近づいてきます。
「色々言いたい事はあるが、取り敢えずライをありがとう」
ご主人さんが僕からライ君を受け取って優しく抱き上げます。どうでもいいですが、ご主人さんは男前、奥様はとても可愛らしい方なんですね。この子達が可愛い訳ですよ。
「いいえ、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。それでこの後お時間は大丈夫ですか?」
僕の問いかけに顔を見合わせるご主人と奥様。エルさんは「トシヤ兄私もまた来るからね」と言ってますねぇ。そうそう、「トシヤ兄」って呼んでくれるくらいにエルさん僕に馴染んでくれたんですよ。嬉しいじゃないですか。
「すまんが、かなり遅くなるが良いだろうか?明日の仕込みもあってな」
「構いません。気になるなら奥様もどうぞいらして下さい。エルさんもまた来るみたいですし」
…… 確かに僕はこう言いました。でもですね、三人だと思うじゃないですか。普通。
「エルちゃんのいい匂いの理由がわかるんですって?」
「ツヤツヤなのよ、髪が」
「お母さんも気になるわぁ」
「みんな静かにしろよ。壁薄いんだからウチ」
「お前らまでなぜ来るかな」
「ごめんトシヤ兄。みんな来ちゃった」
いや皆さん、ここ狭いの知ってますよね。…… もう早く《入館登録》しましょうか。今回は初めから隠す事なく「エア」を使います。
「皆さん、まずはこのタブレットに向かって名前と年齢と職業を言ってから、この丸い部分を人差し指で触って下さい。その後のみなさんの誘導は…… エルさんにお願いできますか?」
「任せてよ!」と張り切って言うエルさんに「何を言っているんだ?」と言う表情の皆さん。構わず説明を続けます。
「夜も遅いですし、タブレットを触ったら口を手で押さえて下さいね。まずはご主人さんから」
僕はタブレットをご主人さんに向けます。
「ええと、俺はゼン。年齢は34。職業は料理長だ」
ゼンさんはそう言ってからタブレットを触ってくれました。案の定、急に視界に現れた正面玄関に驚いて「うおっ!」となるゼンさん。まあ、どうしても驚いて叫ぶので、エルさんが即座に手でゼンさんの口を押さえつけて、そのまま扉の中へ強制連行してますね。エルさんが良い仕事してくれます。
続いて奥様はカルナさん、34歳、料理補助。ここからはお初にお目にかかります。リーヤさん長男、19歳、料理補助。メイさん長女、17歳、接客。フランさん次女、16歳、清掃兼接客。
漏れずにみんな美男美女です。僕、流石に目が肥えてきました。人間美形を見続けると慣れるものです。
それは置いといて、みんな「あらぁ」「うおっ!」「キャッ!」「えぇ?!」と声を上げて、次々とエルさんに口を塞がれて連行されて行きます。一人エルさんを揶揄う為に声上げてましたけど。
みんなが中に入ったので僕も中に入ると、皆さんグランから説明を受けているみたいです。
「…… と、するとここはトシヤ君のギフトの中って事で、宿泊する施設な訳か」
「お父さん、まだ宿泊施設としては未完成だけど、喫茶店と大浴場は凄いんだよ!」
ゼンさんがグランの言った事を理解しようと復唱している姿に、エルさんが自慢気にホテル設備を宣伝してくれています。エルさん、家族と楽しい事共有出来るのは嬉しいのでしょうね。テンション高くなっています。
他の皆さんは、もの珍しそうにキョロキョロと内部を見ています。まずは皆さんに喫茶店に来てもらいますか。あ、体験を先にしてもらうのも良いですね。
「皆さん!この中では大声出しても大丈夫ですよ。まずは喫茶店で話し合いたいのですが、その前に…… グラン!皆さんは今回お風呂利用可能なんですか?」
「はい、現在ゼン様御一家、初入館キャンペーンの対象となりますので、本日大浴場は皆様無料となっております。では皆様何かありましたら、私グランにもお申し付けくださいませ」
僕とグランの会話を聞いていた女性陣は、「大浴場無料」と言う言葉に嬉しそうな声を上げています。むしろエルさんが今にもご案内しそうな雰囲気です。その方がいいかもしれませんね。
「皆さんちょっと提案良いですか?僕のギフトは体験してもらうと理解しやすいので、先に女性の皆さんに大浴場を利用して頂くのはいかかでしょう?」
「キャー!」「嬉しい!」「まぁ、良いわねぇ」と女性陣から歓喜の賛同の声が上がります。
「よければエルさん、女性の皆さんにご案内お願い出来ますか?そして、待っている間男性の皆さんは喫茶店でお茶でも飲みませんか?」
僕の提案に「エル行くわよ!」と、女性陣はすぐにエルさんを連れて大浴場に向かいます。エルさん二回目ですけど大丈夫ですかね。
「さて、ゼンさん、リーヤさん。僕の大切なスタッフもう一人紹介しますね」
ガラス張りの喫茶店が珍しいのか「すげー」「こんなに大きなガラスが使われているのは初めて見た…… 」と、立ち止まって動かなくなる二人をなんとか中に入れるとキイが歓迎の挨拶をします。
「グランデ喫茶店へようこそ!喫茶店総合責任者のキイと申します。こちらの店では軽めの食事や各種飲み物、甘いデザートを提供しています。どうぞご利用くださいませ」
キイの挨拶に「俺はもう驚かんぞ」「キイさんって言うんだ。良い声」と少し慣れてきた二人。カウンター席に案内して席についてもらい、僕は定位置のカウンター内へ。
「じゃ改めまして、ようこそ亜空間グランデホテルへ!僕が総合支配人のトシヤです。って言ってもほぼやって貰ってるだけですけどね。話の前に二人共何か軽く食べます?飲み物だけにします?」
「ここはどんな食べ物があるのか気になる」
「ああ、そうだなリーヤ。料理人の勘が何か食べろと騒いでいるんだ。トシヤ君申し訳ないが、食べる物頂いて良いだろうか?」
リーヤ君、ゼンさんが少し申し訳なさそうに頼んできます。働いた後ですから、夜でもお腹空いてるでしょうね。
「わかりました。あ、キイ。メニュー表って備品にある?あったら取って欲しい」
「ございます。[グランデ喫茶店メニュー表 3枚セット MP10]取り寄せ致します」
キイが話し終わるとカウンターに現れるメニュー表。リーヤ君ゼンさんに一冊ずつ渡して僕も見てみます。お、写真付きになってるんですね。文字が読めない人や食べた事のない人は助かるでしょうね、これ。しかも館内設備まで紹介しているページがあります。まだ喫茶店と大浴場だけですけどこれは良いですね。
僕が納得してみている前で、食い入るように喫茶店メニューをみている二人。料理長と料理補助ですもんね。未知の料理は気になるでしょう。
「お二人共何が良いですか?」
と、僕が聞いても「…… パンにこうやって挟んでも噛めるのか?」「いや、それ以前に父さん白いソースってミルクだよな。これどんな味か気にならないか?」「いや、気になると言えばこのビーフシチューというスープだ。一体何が入っているのか…… 」って感じで。
いやほんとどうしましょう。二人共話かけても聞こえないみたいです。僕が困っていると、キイが提案をしてきました。
「オーナー、ここは私に任せていただけますか?」
「ん?キイなにするんです?良いですけど」
「畏まりました。では…… カルボナーラソースの作り方。材料は生クリーム、もしくはミルク適量。オーク肉の燻製、コッコウの卵黄のみ、塩、胡椒、バターです。作り方は…… オーナーの話が終わったらお教え致しますが、ゼン様リーヤ様いかがですか?」
凄い。キイが材料って言った時点で二人が真剣な顔で顔を上げました。作り方って言った時には、ゴクリと喉を鳴らすほど真剣に聞いているとは、根っからの料理人気質なんですね。
「あー途中で止められるとは!でも贅沢な材料使っているんだ、美味いだろ絶対!」
「リーヤ!気持ちはわかるが今は俺達が悪い。トシヤさんが厚意で言ってくれているのを無視したんだからな。悪いな、トシヤさん。でもキイさんとおっしゃったか。後で是非ともご教授願いたい!」
…… なんか僕よりキイがこの二人にとって立場が上になったような。ま、良いでしょう。キイが認められるのは嬉しいですし。
キイと二人は意気投合したようで、二人から注文まで聞き出したキイ。流石、喫茶店責任者。リーヤさんはカルボナーラスパゲッティとビーフシチュー、ゼンさんはオムライスにビーフシチューと夜にも関わらずガッツリ行きます。
僕はといえば、エアにMP残量6,647ある事を聞き出してから、キイに注文決定の許可を出します。お皿二枚にスープ皿二枚用意してタップすると、いつものように出来立ての料理が出てきたのですが、二人はこれにも驚き「「うおぉぉぉぉ」」と野太い歓声を上げていました。
カウンター越しに注文した料理を二人に渡し、フォークとスプーンを渡すと早速食べ始める二人。面白いのは一口目じっくり味わったかと思ったら、その後目をカッと開いて勢いよく食べ始めるんですよ。二人同じ動作で食べ進める姿に、親子なんですねぇとほっこりする僕。
食べながらもキイにあれこれ質問をする二人の姿に、僕の話はいつ出来るんだろう、とちょっと遠い目をしたのは秘密です。
楽しんでもらうのがまずは理解への入り口でしょうからね。落ち着くまでちょっとコーヒーでも飲んで待ってましょうか。
アクセスありがとうございます。更にありがとうございます!ブックマークが9になってました!嬉しいなぁ。頑張ります。上手くすればもう一本投下できそうなテンションです!でも確実かは未定…… 。明日の投稿は確実ですよ〜!本当に読んで下さってありがとうございます♪
こっそりゼンさんとカルナさんの年齢変更しました。