表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/153

シームズの現状ですよ

 「新鮮な野菜はどうだい?」野菜を片手に叫び声を上げる男性。「ボア肉が入ったよ!」肉屋さんでしょう、奥で解体した肉が透明なケースに入っています。魔導具ですかね?その横で「コナッツ安いよ!」「さあ、腸詰はどうだい、奥さん!」と屋台の呼び込みをする店員さん達。「新商品の服が入荷したよ!」おお、服も売っていますねぇ、と窓の外を楽しむ僕。


 現在、僕らが乗った馬車は活気のある市場の中を進んでいます。いいですねぇ。やっぱり市場ってこうじゃなきゃ!そう思っていたんですけど……どうしました、皆さん?


 「……おかしいわね」


 ティアさんが窓から街の様子に違和感を感じたみたいです。更に覗き込んだレイナさん、ザックさん、ガレムさんまで「確かに……」「何でだ……?」「気づかないか?トシヤ」と同意しています。


 「ん?活気ありますよね。…………アレ?でもここってシームズですよね?海産物はどうしたんですかね?」


 良くみると、「旅気分!シームズ編」でみていた貝や魚を売る屋台や魚介類が沢山入ったスープの屋台がありません。あ、貝の串焼きの屋台も見つかりませんね。結構種類多くてよく目につくみたいな事書いていたのに……。


 ようやく気づいた僕に「今かよ……」「トシヤ……」とザックさんとレイナさんから憐れみの目線を頂きましたが、気にせず腕を組んで考えていた親父さんに聞いてみます。


 「親父さんが待合室で言っていた事ってこの事ですか?」

 「……ああ。ここまでとは思っていなかったがな。あくま推測だが……クオーク海には、グレート・ホールという大型の魔物がウヨウヨいる場所がある。そこからたまに出てくるヤツがいるという話を聞いた事がある。おそらく原因はそいつだろうが、シームズは海の魔物に強い奴がギルド長をしている筈なんだがな……」と親父さんが教えてくれます。


 すると馬車は丁度シームズの冒険者ギルド前を差し掛かります。本来開け放たれている筈の門は閉じられ、大勢の街の人達が冒険者の人達と言い合いをしている様ですね。そんな結構険悪そうな雰囲気の冒険者ギルドを通りすぎ、馬車はその先の商業ギルドの門の前に止まります。商業ギルドは門が開かれていますが、こちらにも街の人達が押しかけて来ているようです。職員さんが大勢の街人に囲まれています。


 「こりゃ、都合の悪い時にお邪魔する事になったな……」


 親父さんがボソッと呟くと馬車の周りもあっと言う間に囲まれてしまいました。御者の方が馬車から降りて奮闘してくださっているのですが、押し退けて街人が馬車に向かって叫んで来ます。


 「何とかしてくれ!」「船が出せねえ!」「このままじゃ生活できなくて大変なんだよ!」「早くあの海藻をどうにかしておくれ!」人々が口々に叫ぶ内容はやはりクオーク海の事ですねぇ。さてさて、どうしたものやら……と思っていたら親父さんが立ち上がり、馬車のドアを開けて街の人より迫力のある声で叫びます。


 「静かにしやがれ!!!俺たちは王命で動いている!お前ら王に盾つく気か!!!」


 おおう……後ろにいてもすごい圧が伝わって来ます。その迫力を正面から受けた街の人たちは「王命」と聞き青ざめてピタッと静かになります。静かになった馬車の周りの様子をみて、親父さんは更に街の人達に呼びかけます。


 「お前らが大変なのはわかった。だがこちらは来たばかりだ。まずは話を聞かせてくれ。誰か!「サモット」の店主を呼んでくれねえか!?」


 話を聞いた街の人達がざわめき出し一人の若者が通りに走り出して行きます。そして騒ぎを聞いていたギルドの職員さんもギルド内に急いで走って行きます。あ、呼びに行ってくれたんですかね?とのんびり構える僕。こういう時はまずは話を聞かないといけませんからね。


 そんな僕をみて「……こういう時のトシヤは凄えよな……」「(頷き)」とボソッと言っているザックさんに同意するガレムさんの姿があったとか。


 「おやおや、ブルームじゃないか」


 丁度その時、街の人達の中から親父さんの名前を呼ぶ声がします。街人の間から出てきたのは、正に海の男と言うべき日に焼けた男性。親父さんとは違う渋さを持つ雰囲気の方です。


 「呼びつけてすまんな、クアード」


 親父さんも馬車から降りてその男性を迎えます。親父さんの馴染みの方なんでしょう。握手をしながら軽く挨拶を交わしていますね。


 「まぁ、大体状況はわかったよ。こんなところじゃ、落ち着いて話も出来ないからなぁ。ギルドにも用があったんだろう?中へ行こうや」


 周りの状況をみて、クアードさんという男性が僕らをギルドの中へと先導してくれます。どうやらこの男性、この街でかなりの顔がきくのでしょう。街の人達が道を作ってくれたので、僕らも馬車から降りてクアードさんの後をついて行きます。


 ギルドの中に入ると、職員さんと女性の方が急いで僕らの所へ駆けつけて来ました。


 「クアードさん!ありがとうございます!すみません、ここまで連れて来て頂いて」

 「いいって事よ。困った時はお互い様だ。それに俺の客も来ていたみたいだからな。この後説明するんだろ?俺も同席していいか?」

 「クアードさんなら構いませんよ」


 ギルドの職員さんでしょうか?キチッとした制服を着た綺麗な女性がクアードさんと親しく話をしています。そして僕らの方を見て畏まって挨拶をしてくれます。


 「トシヤ様お迎えが遅くなり申し訳ありません。私はシームズ商業ギルド支部副ギルド長の職を務めております、クリスと申します。着いて早々ご迷惑をおかけ致しまして誠に申し訳ございません。事情をご説明致します。会議室まで私にご案内させて頂けますでしょうか?」


 恭しく言われるのに慣れていない僕の代わりに「わかった」と答えてくれる親父さん。頼もしいですねぇ。


 全員で騒がしい1階から2階へと上がり、「どうぞ、こちらでございます」と奥の部屋の扉を開けてくださるクリスさん。開けて頂いた扉から親父さん、僕、クライムのメンバー、クアードさんの順に部屋に入ると……


 「ご迷惑をお掛けして大変申し訳ございません。どうぞこちらへ」


 商人にしてはガッチリした体型の男性が、ソファーから立ち上がり迎えてくださいます。会議室といっても豪華な応接室みたいな内装で、テーブルを挟んで向かい合わせにロングソファーが二つと一人掛けソファーが一つ設置されています。


 親父さんが僕を先にロングソファーに座らせてから、僕の横に座り、ザックさん、ガレムさんは入り口に、ティアさんレイナさんが僕らの後ろにつきます。クアードさんは一人掛けソファーにどっかり座り、僕らの向かい側に出迎えてくれた男性とクリスさんが座ります。そしてまず話し出したのは親父さん。


 「固い口上は無しで頼む。端的に現状が知りたい」


 親父さんの言葉にクリスさんと目の前の男性が僕に目線を向けたので頷くと、男性が話し出します。


 「そうさせて頂くとこちらも助かります。ですが、まずは私の自己紹介をさせて頂きます。私はシームズ商業ギルド支部、支部長のイアンと申します。トシヤ様にブルーム様でございますね、私の事はイアンとお呼び下さい」


 イアンさんは僕と親父さんをしっかり見分けて挨拶をしてくださいます。おお、素晴らしいと思っていると正面で笑いを堪えるザックさんの姿が見えます。また僕は顔で語っていたんでしょうかね。気をつけましょう。


 そんな僕の隣で話を進めてくれる親父さんが、イアンさんに質問します。


 「イアン、率直に聞こう。グレート・ホールから魔物が出たのか?」

 「流石グラレージュのブルーム様。既に情報は掴んでいらっしゃいましたか。………その通りです。しかも今回はジャイアントシーウィードの繁殖付きで現れたのです」

 「現れたのは一週間前。あっという間に繁殖したジャイアントシーウィードと共に現れたのが、マール・クラインです」


 イアンさんの言葉に更に情報を加えるクリスさん。クリスさんの言葉に「「「「マール・クライン!」」」」とざわつくクライムメンバー。親父さんは「ジャイアントシーウィードだけでも厄介なのにか……」と頭を抱えています。


 僕にはサッパリ何の事かわからないので、こういう時は助けて下さいエア!とばかりにタブレットを出すと、優秀なエアは画面に説明文を表示してくれています。流石エア!どれどれ……


 〈ジャイアントシーウィード(巨大藻)〉

 グレード・ホールのゆりかごと呼ばれる巨大海藻。数百年に一度胞子を飛ばして繁殖する。胞子は稀に外界に出ていく事があり、その場合一晩で成長し、海藻の海を形成する。長さが20m横1mほどの海藻。栄養価が高い。食用可。


 〈マール・クライン〉

 別名:海の詐欺師 頭を銀色の小魚に擬態させて獲物を捕食する海の巨大ヘビ。体長15m〜 素早くずる賢いため危険度AAクラス。主にジャイアントシーウィードに生息。弱点:目


 ……成る程。海の中、しかも海藻の間を行き来するタイプですか。僕がタブレットを見て納得していると、クアードさんも現状を補足してくれます。


 「参ったのが、この街の特色の珊瑚礁を根城にされちまった事だ。おかげで漁は出来ない、撲滅するにも海からの恵みまで被害が及ぶ。街の奴らの気持ちもわかるが、現状頭を悩ませているってところだな」

 「冒険者ギルドも総出で毎日海に出ているので、ギルドが運営出来ずに扉を閉めている状態が続いています」

 「商業ギルドとしても支援は出しているのですが、なかなか難航してまして……」


 クアードさんの言葉に加えて、イアンさん、クリスさんが更に情報を下さいます。うーん、これは大変ですねぇ。出張扉の設置はすぐに出来ますが、この問題がなくならないと、塩の問題も出て来そうですし……


 「……そうだったか。ところで、こちらの要件は伝わっているか?」


 親父さんがイアンさんをみて尋ねます。


 「それは勿論です。ですが、現状交易どころではない状態ですから問題が片付くまでお待ち頂こうと考えておりました」


 困り顔のイアンさんとクリスさん。場が静まり返った中、ブブ……ブブ……とバイブでエアが僕に何かを訴えて来ました。画面を見た僕も意味はよくわからなかったのですが、とにかくその通りにしてみましょう。


 「えーと、とりあえずイアンさん、クリスさん、クアードさん。僕の亜空間ホテルにいらっしゃいませんか?どうやらうちの頼りになるスタッフが呼んでいるらしいのです。今回の話の助けになる話だそうなんですが……」


 何とも緊張感のない僕の言葉でしたが、藁にも縋る思いなのでしょう。「本当ですか!」「どうすればいいのでしょう!」と即座に反応するイアンさんとクリスさん。一方で「お、噂のホテルか」と嬉しそうなクアードさん。


 「なあ、誰が呼んでると思う?」「当然グランだろ」と予想をするザックさんとガレムさん。


 皆さんがざわざわしている中、スッと立って会議室にメイン扉を出す僕。扉を開けてホテルへと3人を招待します。


 「さあ、イアンさん、クリスさん、クアードさん。僕の亜空間グランデホテルをご案内します」


 ……正直どうなるのか僕もわからないですけど。

 任せましたよ、アルコ。

 

アクセスありがとうございます。今回はシームズ説明回です。さてさて、なぜトシヤ達を呼んだのはアルコでしょう?次回は6/17更新です。宜しければ是非アクセスして見てくださいませ(*´꒳`*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ