海の街シームズ到着ですよ
「トシヤー!海が見えてきたぞ!」
僕が期待しながらホテルの休憩所で待っていると、本日の移動担当の「クライム」ザックさんが呼びにきてくれました。そして盛り上がるホテル内。「お!やった!」「塩が手に入りやすくなるのか?」「これで美味い海産物が手に入るな!」と賑わい始めましたねぇ。本日も我がグランデホテルは職員さんや冒険者さん、商人さんで賑わっていますからね。
「皆さーん!もうすぐシームズですよー!美味しい海産物仕入れ易くしますからねー!」
僕の掛け声に「待ってますぞ!」「お!シームズって美食の街だよな」「貝を頼む!」「いつ開通予定だ?」と様々な反応が返ってきますが、反応が早いのはやっぱり商人さん。うちのホテルが情報最前線とわかると、泊まり込みの方が増えてきましたから。そしてこの人も。
「おう!トシヤ、俺も行っていいか?」
「親父さん?また来てたんですか?仕事は?」
「ブライトと一緒にするな。俺は仕事はキッチリしてんだよ。そろそろシームズに着くって話聞いていたから来てたんだ。俺の知り合いにちょっと用事あってな」
おや、意外にも親父さん仕事しっかりしてたんですねぇ。僕酒飲んでるイメージしかなかったですから。そう思っていたら「……お前、顔に出てるぞ」と呆れた様に親父さんに言われてしまいました。む?また表情に出てましたか。いや、失礼。
「親父も来んのか?今回キャンピングカーだからいいけどよ。狭くなるじゃんか」
「まぁ、そう言うなよ。俺そのキャンピングカーってやつも気になっていたんだって」
僕が親父さんと話をしていてなかなか来ないので、ザックさんが迎えに来てくれましたねぇ。少し迷惑そうな顔のザックさんの肩を組む親父さん。んーでもあれなら広いでしょうし大丈夫じゃないですかねぇ、と考える僕と3人でメイン扉をくぐります。
「あら、なあに?親父さんも来ちゃったの?」
車内ではゆったりワインを飲んでいるティアさんが僕らを迎えます。どうやら今日は、運転はガレムさん、助手席がレイナさんの日なんですね。
「なんだなんだ!こんないい旅するなら俺が代わってやってもいいぞ」と早速座席に座り、飲みかけのグラスを持って飲み干す親父さん。「あ、親父!俺のだぞ!」「固え事いうな、まだあるんだろ?出せ」ザックさんの苦情にも構わず要求する親父さん、流石マイペースです。
「ふむ、この酒ブ◯ゴーニュのピノ・ノ◯ールか。この滑らかさと柔らかな酸味と飲みやすさ。値段も手頃でいいワインだな。選んだのティアか?」
「流石親父さんよねぇ。そうよぉ、私濃いワイン苦手なんですもの」
ティアさんが選んだ事や味で銘柄をピタリと当てる親父さん、確か「月刊クイーンズワイン」愛読者でしたっけ。皆さん結構コンビニから雑誌買ってたり、漫画喫茶でワインやお酒特集の雑誌見てますから知識が半端ないんですよ。僕のわからない世界です。
「全く、酒を見るとすぐ手を出すんだもんなぁ」と呟きながらグラスを持ってくるザックさんの手には僕用のグレープジュースもあります。おお、流石ザックさん!気が利きますねぇ。
四人で座ってもまだ余裕のあるこのキャンピングカーは、今回僕持ちです。僕にお金入ってもそんな使わないですからねぇ。まあ、出張扉の設置でまた国からお金来るみたいですけど。
で、今回は N◯TS RV B◯RDER BANKS TYPE Lですよ!なんせシームズまでは街道が広いと聞いたゼノさんからのおススメなんです。では出発前のゼノさんの再生をどうぞ。
「N◯TS RV B◯RDER BANKS TYPE Lはト◯タ コース◯ーをベース車に使用したセミフルコン!キャンピングカーでは最高峰のカテゴリーに入るだろう!何よりハンドリングが軽い!それに「レン」さん仕様で空間拡張されているから、運転中の振動は一切無く防音は勿論、空調、消臭まで常時稼働してるんだぜ!バスコンの燃費の悪さはなく常に魔素充填型だから燃料を気にする事はない!ダブルタイヤ使用で安定性もあるし、何より車内を見てくれ!
まるで家にいるかのようなロングソファー、座り心地は快適そのもの!運転席との会話も楽々の配置になっていて交代もしやすい!このロングドライブで、金も気にせず、街道が広いんならコレ試すしかないっしょ!」
ええ、ゼノさん熱く語ってくれて、ボルクさんも「興味がある」と即決。二人共担当の日はご機嫌でずっと運転してましたしねぇ。「車内でゆっくりしないんですか?」って聞いたら「この車種を運転する機会を逃しちゃならねぇ!」と意気込むゼノさんの言葉にボルクさんも頷いてましたし。好きな事ってそうですよねぇ。
という事でこれ以上ない快適な旅と共に、道ゆく商人さんや冒険者の皆さんを驚かせて遂に見えてきたシームズの街。
「おお!「海に浮かぶ白い宝石」が見えましたね!」
「見事だろう?あの街は白い壁と青い屋根の建物で統一された街だからな。こんな晴れた日の海と一緒に見ると、また綺麗に見える」
僕のにわか知識に同意するレイナさん。その手には「旅気分!シームズ編」がありますねぇ。何気に楽しみにしてたんですね、レイナさん。雑誌を見ながら「トシヤ、魚が生で食えるらしいぞ」と僕に教えてくれます。何ですと!刺身ですか!?思わずレイナさん側に乗り出して一緒に雑誌を見ていた僕。すかさず「はーい、トシヤ近づきすぎよ」とティアさんによって離されました。おや?
サラッとティアさんに笑顔でかわされましたけど、ふむ。ティアさんそうでしたか、と納得する僕。ただ鈍そうなレイナさんですからねぇ。是非頑張って下さい、と心で声援を送っていると、そのレイナさんが指示を出します。
「大体見えてきたから、そろそろ降りて歩くぞ。親父さんもいいか?」「ああ、そのつもりだ」
まあ、流石にキャンピングカーじゃ街中は厳しいですからねぇ。という事で、メイン扉を収納し、全員キャンピングカーから降りて、レンに車を返却。街道をクライムメンバーと親父さんと僕で歩いて行きます。
海の匂いを風が運んでくれますねぇ。うーんいいなぁ。のんびり気分で歩いていると、「ほれほれ、置いていかれるって」とザックさんから背中を押されます。いやいや、皆さんが歩くの早いんですって。冒険者は歩くの慣れてますしね。ん?誰です?コンパスの違いっていう人は!……ほぼその通りですけどね。ふんだ!
まあ、そんな感じでみんなについていく事しばらく……城壁まで白いシームズの街の入り口までようやく到着。ここも王都の様に長い列が出来ています。気長に待ちますか……と思っていた僕を「どこへいくんだ、お前は」と親父さんが呆れながら襟首を捕まえて止めてくれます。
「ぐっ!親父さん襟首掴むのは危険ですよ。って言うかあそこの列に並ぶんじゃないんですか?」
「コイツ、マジだったか」
何故か僕の返答に呆れる親父さんに「まあ、トシヤだし」「ドンマイ親父」「こんなものよぉ」「(頷き)」とみんなが励ましの言葉をかけています。ん?何ででしょう?
「あのなぁ、国からの依頼でお前はその事業の最高責任者だろうが。だったらアッチだ」
と親父さんが指差す先は、貴族門の中でも王家が通る門です(「旅気分!シームズ編」で見てたんです)。うえええ!!僕そこ通るんですか!と内心驚いていたら、みんなが当然という顔で僕を見ています。僕だけ知らなかった様です。大人しくついて行くと、レイナさんが門番さんにシュバルツ様から託された手紙を見せます。
「これは……‼︎ようこそお越し下さいました、トシヤ様!今馬車を用意いたします!こちらでお待ち下さい」
門番の男性さんが門の横の豪華な待合室に僕らを案内しますが……皆さん移動しながら笑い堪えていますねぇ。そんな状況で、待合室に入った途端に室内に響く皆の笑い声。何故かって?
「すみませんね。威厳がなくて」と拗ねる僕。そう、門番さん僕の名前を呼びながら親父さんの顔見ていたんですよ。即座に間違いに気づいて、ひたすら僕に謝っていったんですけどね。まあ、その時の僕の顔が面白かったらしくまだ皆さん笑いが止まらないみたいなんです。
「ギャハハハハ!し、仕方ねえよ。親父の方が貫禄あるからなぁ!」とザックさん。「い、いや、悪い。思わず笑ってしまった」と笑いを堪えようとするレイナさん。「修羅場をくぐり抜けてきた年季が違うものねぇ」と笑いながら言うティアさん。ガレムさんは口の形がおかしいですよ。笑いをまだ堪えているんでしょう。親父さんは「まあ、このメンツじゃ、知らねえやつはそう思うかもな」と呑気に窓の外を眺めています。
いいんです!僕は僕なんですから。と思いながら僕も親父さんと共に窓の外を眺めます。
窓の外は賑やかに行き交う人で溢れていますねぇ。多くの露天や屋台もあり活気があります。しかも街並みは綺麗な石畳に白い家々が並び、扉や窓枠が青という美観の街です。こーれは見応えがありますねぇ。と呑気な僕の隣で不穏な事を言う親父さん。
「屋台が少ねえな……」
ボソっと一人ごとの様に言う言葉の意味を聞こうとした時に「お待たせ致しました。馬車のご用意が出来ております」と門番さんが畏まって迎えにきました。「行くぞ」と何事もなかったかの様に移動する親父さんの背中を見ながら、まあいいかと流す僕。そうしていると、最後になってしまった僕は慌ててみんなの後を追います。
さあ、シームズの街にようやく入りますよ。
まずは商業ギルドに向かいます。
今回はどんな人との出会いがあるのかワクワクしますねぇ。
アクセスありがとうございます!第二章開幕です!今回からは出張扉設置編となります。まずはついたシームズ。活気の裏に何か見えるものがあった親父さん。さて何があるでしょう。次回は6/14(水)更新となります。ここで宣伝!その間に「新・魔導具ショップサイトで異世界を快適に過ごしたい」をほぼ毎日更新する予定です。宜しければこちらもアクセスしてみて下さいませ(*´꒳`*)