ドルナウの街の再興に向けて研修ですよーホテル編ー
「まずはきっちりこちらをお読みくださいませ。そして、身だしなみは常にしっかりと、着崩したりしない事は必須でございます!」
珍しいジュニアの叱り声が聞こえますねぇ。
朝のエア報告により、カディル人のホテル採用が決まった事を聞いて見学に周る事にした僕。一応今日の護衛のクライムに声をかけてますよ。で今日は珍しいザックさんとティアさんコンビとエグゼクティブフロアに来ています。え?何で2人?って思いますでしょう。ガレムさんとレイナさんは今日こそは!とアルコの「風の痕跡への誘い」のデモンストレーションルームに行っています。
デモンストレーションルームは1人ずつでも挑戦出来るらしくて、ザックさんとティアさんは既に合格済み。いつでも本戦の扉を挑戦出来るのですが、2人がまだのために足踏み状態。僕がホテルやターミナルにいる時には、挑戦させて欲しいと頼み込んできたのです。勿論すぐに了承した僕。で、2人とセイロンも現在デモンストレーションルームへ入り浸っています。頑張って欲しいものです。まあ、そんな感じで冒頭に至るのですが……
「えーと、『亜空間グランデホテルへようこそお越し下さいました。私はこのフロアのご案内をアシスタントしております、ハイリと申します。御用がございましたらいつでもお申し付け下さいませ』ってイケますでしょ?ジュニアさん!」
「最初と最後が余計でございます。そしてふざけた罰としてこちらも読む事を課題と致します」
カウンターに積まれる礼儀作法の本に「うえええ!」と叫ぶハイリ君(16)。一部白髪で銀髪ショートの整った顔つきはもはや驚きませんが、それを上回る若者っぷり。いやぁ、カディル人にしては軽い雰囲気は珍しいですけど、ジュニアは何でハイリ君を仮採用したんでしょう?と不思議に思って見ていましたら、エアが補足情報を教えてくれました。
「オーナー、ジュニアより報告が入っております。『ハイリはエル様の看破スキルによって将来性有りと報告が入っておりました。そしてルックス、器用さ、会話の上手さは光るものがあると認識しております。鍛えがいのある人材もまた面白いかと存じます』」
成る程。これは今後が楽しみですねぇ。
「今日一日で全てこちらの内容に目を通して頂きます」
「うげ!ジュニアさん、半分じゃ駄目すか?」
「わかりました。言葉使いマニュアルも追加致しましょう」
「更に増えたぁ!」
……ええと、うん。ジュニアに任せます。いまだ言い合いをしている2人に背を向け、そっと僕らはエグゼクティブフロアからエレベーターに乗って一階へ向かいます。ポーンと鳴る音と共に一階に着くと……
「「おはようございます!」」
可愛い元気な声が僕らを迎えてくれました。なんて可愛いのでしょう!一部白髪で焦茶のサラサラショートヘア、お目目まんまるのミニベルボーイとベルガール姿のカディル人の子供達。勿論可愛いもの好きティアさんが放っておく筈もなく……「まあああ!なんて、なんて可愛い子達なのぉ!」と突進していきます。
「えへへ」「うれしいね」なんと!ティアさんの突然のハグにも関わらず、ニコニコ顔の2人。この子達……やりますねぇ。するとライ君リルちゃんがトトトトッと近づいてきて、ティアさんをパシパシ叩きます。
「ぼくたちもいるの!」「リクとミウだけずるいの!」と何とも可愛いアピールをするじゃないですか。2人にもやられたティアさん。「私、今日ここにずっといる事にするわ」と真面目な顔で僕に言って来ます。気持ちわかりますよ、ティアさん!
なんせこの子達は大人を連れずに説明会に来た子達です。名前はリク君(5)とミウちゃん(5)双子の兄妹です。お母さんのヴァーナさん(20)は現在妊娠中。お父さんは今回の被害者で亡くなっています。
昨日、案内に立っていたエルさんが一番に報告しに来たのはこの子達の事。エルさんが「良い子たちなのぉぉ!」と涙ながらに教えてくれたのが、2人がしっかりとした口調で言った第一声の言葉。
「ぼくたちにできることありますか?」「おかあさんにんしんちゅうなの。だからわたしたちがおかあさんをまもるの!」
聞いた時僕もエルさんも2人で涙涙でしたよ。なんていじらしいのでしょう!お父さんの事は残念ですが即座にグランに頼みましたね。必要な物は備えてあげますから!と心に誓った僕。
「つーか、ティアもトシヤも正気に返れ」
しばらく可愛いベルボーイ、ガール達に浮かれている僕とティアさんの背後からザックさんのダブル手刀炸裂。「あだ!」「ちょっと!ザックなによぉ!」と僕らを現実に戻してくれたザックさん。危なかったぁ、時間を忘れて構い倒していました。思わず「ありがとうございます」とザックさんに礼を言う僕。うん、まだ見るところありますからね。
「また絶対くるわよぉ!」となかなか離れないティアさんを4人から剥がして僕らは2階の漫画喫茶Green Gardenへ向かいます。
「「「いらっしゃいませ」」」
Green Gardenに入ると、カフェ制服姿のカディル人の可愛い女の子2人と格好良い青年1人の声が僕らを迎えます。その後ろで誇らし気なミック君とモニターの中でニコニコのキイ。
既にお客様は入っている様で、テキパキと動いている姿が印象的な3人。へえ、と感心しながらテーブル席につき、ミック君とキイから報告を受けます。「あ、俺チョコパフェ」「私はケーキセットお願い」とザックさんとティアさんが、報告を受ける僕の隣と前でおやつタイム。……良いですけどね。
報告によるとポニーテールの元気な可愛い女の子がロアさん(16)、ミディアムヘアのおとなし目の可愛い女の子がトーアさん(16)、僕より身長が高く爽やか青年のヨフト君(17)。どうやら動きが良いのは宿屋を家族で経営していたからだそうです。おお!同業者じゃないですか!因みにお母さんは元縫製経験者でファイのところ、お父さんはなんとティモのところで仮採用されているそうです。一家が来ましたねぇ。これは後で見にいきましょう。
3人はどうやら人柄もよく、ミック君が年下でもよく話を聞いてくれるそうですし、飲み込みも早いのでキイもご満悦。「ジュニアの様に気を長くしなくて済んでます」と言うキイ。おやおや、ハイリ君言われてますよ。多分この会話ジュニアも聞いていますからねぇ。スパルタになってなきゃ良いですけど。
ここは安心できそうですから、キイとミック君にお任せします。ん?ザックさん早速2人に声かけてますねぇ。「あの行動力は負けるわ」とティアさん。おや、ティアさんは行かないので?「私は心に決めた人がいるの!こう見えて一途なのよ」と意味深な事を教えてくれます。ふむ、これはぜひ応援したいですねぇ。まあ、突っ込んで聞くのは野暮ですし、見守っていましょうかね。
そんな一幕を経て、次に向かうは同じ二階のレンタル縫製ルームです。お、途中にあるミニ映画館は今日も列ができてますねぇ。今週の映画は何でしたっけ?エア。あ、テ◯マエロマエ?何でまた?ああ、お風呂に感激する気持ちがわかるって事で、カディル人たちに人気ですか。納得。
「あれ?トシヤ?あんな部屋あったか?」
「ザックが知らないの無理ないわねぇ。貴方こっちに来ないもの」
ザックさんがレンタル調理場の隣にできた大きな扉を指差しています。ティアさん言う様にザックさんはここに来ませんからねぇ。ティアさんは見回り(自発的)の際に見ているそうですよ。ティアさん真面目ですからね。
さて、縫製ルームの扉を開けてみると……
「凄いわぁ!こんなに早く縫えるなんて!」「この「魔導ミシン」が素晴らしいのよ!」「見てこの正確さ!」「凄いこんな厚い生地まで早く縫えるのよ!」「しかもこの縫い方の種類の多さと来たら!」…… いやぁ何が凄いってミシン動かしながら会話している事でしょうか。
部屋の内部は、縫製工場の様に1人ずつ座れる大きめのテーブル50台に固定魔導ミシンが一台ずつ設置されています。隣の部屋にはアイロン、切断、パターン作業をする部屋、生地を保管している倉庫があります。ファイによると今日は女性職人の皆さんにミシンの使い方を慣れてもらっているそうです。男性の職人さんは奥で靴作り工程の見学と仕組みを勉強中。なんせ作り方がまるで違いますからね。
ですが流石皆さん職人さんです。ファイによると飲み込みが早く、仕事が丁寧、基本的な物は明日にでも作れそうと言う報告が。それにしてもミシンの音が静かなんですよ!これ凄いですね!と言ったら「防音防臭機能は標準装備です」とファイが教えてくれます。うーん、これなら集中して作業できますねぇ。
その後はファイが用意したバッグ、服、靴のカタログを見て大盛り上がりの職人さんたち。早速見入っている方や女性の皆さんは、熱心に話しあっています。これはターミナルがファッションも最先端になるのは時間の問題です。ん?既に何かを作っている職人さんもいます。ファイ情報によると、あの女性がロアさん達のお母さんなんですって。道理でお綺麗です。
作っているのはバッグですか。あ、大きめのトートバッグですね。あれは需要ありますよ!と声をかけたかったのですが、集中しているみたいなのでまたにしましょう。ファイ後は頼みます。
「凄かったわねぇ!できたら冒険者の服もここで作ってくれないかしら」「あ!ティアいい考えだな!俺のすぐ破けちまうんだ。作ってくれねえかな」と移動中に面白い考えを言うティアさんとザックさん。いいですねぇ!これはファイに頼んでおきましょう!
さて一階に戻って最後のティモのところに顔を出して見ると……
「イイデスカ!マズは調味料を覚えて下サーイ!ココは料理人にとって宝島デース!種類アリマスからネ!最初に登場するのは……」
入り口モニターで研修中の男性2人。大きなガッチリとした身体つきのカディル人男性と普通の体型で穏やかそうな男性(こちらはドルナウの街人さんですね)です。という事はガッチリとした男性がお父さんですか。「あれがお義父さんか……」と気が早いザックさんが呟いてますねぇ。どうなるやら。街人の男性も良さそうな感じですし、ここもティモに任せましょう。
うん、ホテル側はいい感じです。
さてターミナルの方はどうなっていますかねぇ。
アクセスありがとうございます!今日は遅くなりました^_^;最近名前考えるのが必死です。誤字報告もいつもありがとうございますm(_ _)m
さて、今日は活動報告に100話突破記念SS「護衛メンバーとトシヤの過去」もアップしています。五千字くらいになっちゃいましたが、宜しければこちらもご覧下さいませ(*´꒳`*)