金はただの金ではないか?
問答形式です。幼い頃の主人公が、現在の経済に疑問を呈します。
「ダバディ先生、エリ。これってただの硬いだけの金属の塊じゃないか。なんでそんなに価値があるんだ?」
「いい質問ですね、若様。その質問をされるということは、若様には経済のセンスが非常におありであるという事です。ではエリ様にお聞きしましょう。金の使い道と言えば何ですか?」
「そうですね、、、。防具に入れたり、城に使ったりして、魔法防御を高める、とかですかね?」
「その通りです。現在、金の使い道は魔力絶縁体としてが一般的です。それに伴って、精緻な回路を持つ高級な魔道具にも重宝します。金には『加工しやすい』という特徴がありますね。」
「だが、金を食べることはできない。何故こんなにも人は金を欲しがるのだ?」
「それは、皆んなが金を欲しがるから、以上に御座いません。そもそも、金を欲しがっている人はおらず、その金と交換できる物を皆は求めているのです。」
7歳になったルイは、このように「なぜ」を連発して周りの大人を責め立てることが多かった。それに堪え兼ねて辞めていった家庭教師は数知れず、現在のダバディに行き着くこととなる。彼はルイの質問攻めを打ち返すプロであった。
「成る程。つまり、答えとしては『そんなものはない』ということだな。そして、価値が認められていればいいと。それならば、金である必要はどこにもないな。重いし嵩張る。そして食べられない。」
「成る程。それは確かにそうですな。ならば、若様は何を貨幣にするのが良いとお考えで?」
「そうだな、、、金貨の良さが偽造のしにくさだとすると、、領主発行の紙に魔力印を押したりすればいいのではないか?」
「いい考えで御座いますな。ですがその場合、どのように流通させるかが問題になりますぞ。ただの紙にどのように価値を認めさせるか。それはどうしましょう?」
「そうだな、、当領の農民は稲作と商品作物にはっきり分かれているばかりでなく、町民や狩猟民族までがいる。実は、米を自作しているのは庶民のうちの3割程だ。つまり、庶民は米を買わざるを得ない。その他の領民にも税は物で納めさせ、買いたかったらその紙を使わせる。町民には紙で納めさせる。」
「領民達が紙の通貨を使わざるを得なくする訳ですな。ですが、町民達はどのように紙幣を調達しますかな?今のところ、町民達は農民に物を売る以外ではその紙幣を調達できません。」
「それは、既存の金を買い取る、、はあまり良くないな。時価での金の売却は認めるが、価格は変動することにしよう。その方がいい気がする。」
7歳のルイが家庭教師のダバディと行った問答は、その後の経済界を形作るパラダイムの礎となるのだった。ダバディはその後、ルイの考案した『中央銀行制』の軸としてその総裁に抜擢されるのだった。