450日目その2 えんちょーせん!
終わった。やー――――――-っと終わった。長い。長かった……。何時間あったのよ。
「2時間なの」
「長っ」
「うん?まだ短い方なの。長いところは3時間とかやるの」
何そのクソゲー。
「心配しなくても、それくらい長ければ、さすがにトイレに行ってもいいのもあるの」
「のもって」
ないやつもあるの?
「さぁ?知らねぇの。少なくともこっくりの知ってる3hのはトイレ行ってもよかったの。トイレ行ってまーす。みたいなの置いとく必要はあるけど」
「それはそれで面倒ね……」
さて、それはそれとして。
「ふっ。甘いの。砂糖菓子にたっぷりはちみつをかけて、そこにブドウ糖をぶちまけたよりも甘いの!」
「いや、さすがにそこまでじゃないと思う」
心の中で明確に文にしなければいいかなと思ったけど、避けられた。こっくりを殴れなかった。
「確かにそれはそうなの。心を読める相手によくやった方なの。でも、こっくりを殴りたいなら、無意識で殴らないと、当たらねぇの」
何で駄目だしされてるの。マゾ?
「将来、芽衣が心を読める敵と戦うときに困らないようにするためなの」
「そんな時は来ないわよ」
そもそも、なんで戦闘してんの。って、また話がズレてる。こっくり。あんた、わたしが何で怒ってるかわかる?
「めんどくさい空気を読め系のはやめるの」
「はっ、あんたなら読めるでしょうに」
「なの。「クッソ忙しかったじゃん!嘘つき!」って言いたいの?」
さっすが。よくわかってんじゃん。何が初回にピッタリよ! あんだけ殴られ続けたじゃん!
「前に立った方が良かったの?」
「な、気がする」
あそこまでずーっとやり続けるなら。あーでも、前なら前で緊張しただろうし…。微妙ではあるわね。
「なの。そんなの人それぞれでしかないの。正直、予想出来てたことではあるの」
「何で」
「これだから生粋の怪異は……」
やれやれと肩をすくめるこっくり。ふよふよ浮いてるあんたには言われたくない。
「こっくりは元人間なのー」
「そういう意味なら、間違いなく生粋ね、わたし」
生まれた時からメリーさんだし。
「それで?」
「常温超電導は人類の夢なの。そりゃ、いっぱい人来るの。最初、釣りかな?って思っていた人だって、「いけてるっぽい?」ってなったらガシガシ来るに決まってるの」
なるほど。そこら辺の認識がまだ、わたしにはあんまりないからね……。あぁ、なるほど。それで、途中から「すごい」ってちょこちょこ聞こえたんだ。
「そーなの。ま、そういうわけで、内容が内容だから、くそ忙しかったの。ポスターなんて内容と学会によって楽さに落差があるの」
……くっそつまんないギャグをねじ込んできたわね。
「止めるの。心折れるの」
「反省して?」
「ごめんちゃい」
こてっと首をかしげて、握りこぶしを軽く頭にあてるこっくり。可愛らしいから絵になってるのが腹立つ。
「それは兎も角、内容と学会によるの。場合によってはマジで審査員さんしか来ねえとかもあるの」
「マジで?」
「なの。しかも審査員さん一人」
え。それは……どうなの?
「どうって言われても、その学会はそうってだけなのー。そういうこともあるの。逆に、今の芽衣みたいに、目が回ることもないこともないの」
なるほどね…。てか、何でそんな詳しいのよ。大学出てないでしょ?
「聞いただけなの。でも、ちゃんとした人に聞いてるから、信頼性はあるのー。ツッコまれても答えられないけどー」
なるほど。あ。そういえば、ツッコみついでに。
「こっくり。あんた、普通に研究室出れるようになったの?」
「なの。折角だし、生前やってた研究でもまたしようって思い始めたの。そうしたら、普通に出してくれたの。一応、逃亡防止に根っこは研究室に残ったままだけど…」
哀れねぇ…。いや、わたしのが哀れか。だって、わたしは電話してもらえないと、出れないままだし。
「うん?それ、そういうプレイじゃなかったの?」
は?
「殺すわよ?」
「あ。うん。ごめん。わざわざ電話しないと駄目じゃないはずなの。と思ったの」
???? 電話しないと駄目だったでしょ。わたし、メリーさんの電話の怪異よ?
「あー。なるほど。そこに認識の齟齬があるの。芽衣。落ち着いて聞くの」
「何?IT業界のサグラダファミリアが完成したの?」
「くっそ分かりにくいコピペ持ってくんじゃねぇの。確かに、アレは長い間寝ていて浦島状態の人に、そうやって話しかけるけど…。しかも、そのサグラダファミリア完成してるか微妙なのー」
ごめん。
「許してやるの。で、芽衣。芽衣は既にメリーさんの電話の怪異じゃないの」
「え?嘘」
「嘘じゃないの。てか、怪異かどうかも若干、怪しいの。今の芽衣は雷と咲の子として新しく定義されてるの。元が怪異だからあれだけど、1/4くらいは人間になってるの」
なっ、なんだってー!
「なの。研究馬鹿怪異とかそういう感じなの」
「おい」
「心配する必要はないの。こっくりも似たようなもんなの」
なら、安心……するわけないでしょうに!
「と、言われても事実なの。ま、人間に近くなったといっても所詮、1/4。ぬら爺もいるから、ほぼ怪異でいられるの」
なら安心……なのかしら。微妙。
「そういえば、芽衣。独り言の怪異にでもなる気なの?」
「え?」
「ほら、こっくりは霊だから、霊感ないと見えないの。そして、声は芽衣にしか送ってないから、独り言を言ってるようにしか見えないの」
……先に言って? い、一応、会場の大学を散歩してたからセーフのはず。あ。電話……。
『もしもし』
『あ、芽衣?そろそろ閉会式よ。表彰式とかもあるから来なさい。こっくりもそばに居るでしょ?一緒に来て』
『了解』
よし、行こ。…電話がかかってきたせいで、こっくりと喋ってるの見られてた場合、電話してたって言い訳が通用しなくなったけど。
______
「「「かんぱーい!」」」
何で。何で学会終わった途端、飲み会が始まってるの……?
「ほら、芽衣。主役がぼーっとしてたら駄目よ」
「主役?」
何でさ。咲。
「BP賞取ったでしょ?この学会はBP賞取った人が参加していれば、料理が来る前に喋るのが通例になってるのよ」
えぇ……。うげ。逃げられないっぽい雰囲気。一緒に発表してた学生だけじゃなくて、ちらほら教授陣も混じってるのにー。
「話すって何を?」
「基本はポスターの内容」
「え。でも、外部に出したらマズいんじゃないの?」
特許とかの絡みで。
「貸し切りですから、大丈夫ですよ。さ、雷さん、こちらへどうぞ」
逃げられない! 何で終わったのに延長戦をしないといけないの!? くぅ、やるけどさ。ご丁寧にいつのまにかポスター貼られてるし。
「えー、では、わたし、雷芽衣が、このタイトルで発表します。よろしくお願いいたします。近年、|(後略)《受賞に値するすっごいプレゼン》」
終わった。これで、延長戦もしゅう……目の前でいっぱい手が挙がってる。
『逃げられるとでも思ったの?甘いの』
質疑もやれと。ぐすん。マジで延長戦じゃない……。
よし、終わった。料理が来たから、終わったわ! やーっと、解放されるぅ!
「あ。芽衣さん。さっきの発表で聞きたかったこと聞いてもいい?」
嫌です。と、言えたらどれだけいいか。でも、この教授さんなら、良い議論が出来るから望むところではある。既にビール飲み始めておられるけど…。
「どうぞ」
「ありがとう!あ!芽衣さんも食べてね。娘さんに食べさせないってなったら、さすがに雷教授もうるさ……あれ?雷教授に娘さんなんていたっけ?」
あ。記憶がバクってる! ぬら爺ー!
「まぁいいか」
自己解決してるわね。そっちのが手間なくていいけど。
「|こうこう《わたしがポスターで答えたの》って向こうでは聞きいたけど、しばらく考えていたら|こうこうこう《別分野の参考になりそうな知識》ってのがあるんだ。それって、使えそう?」
そもそも知らないので、どうなんだろう……。
「知識がないですね。その部分について教えていただいても?」
「勿論、じゃあ、食べながら聞いといて」
了解です。普通、遠慮するところだろうけど、わたしは怪異。遠慮なんてしない! …許可も出てるしね。
あ。この料理美味しい。
「はい、宴もたけなわといったところですが、本日はこれくらいにいたしましょう」
え。もうそんな時間!? ずっとこの教授としか喋ってなかった! しかも途中から雑談だったし。雷って、やっぱ出不精だったのね。知ってたけど。
「終わりって言われたし、終わろうか。またなんかあれば、聞いておいで。芽衣さんなら歓迎する。メアドは雷教授が知ってるし、わざわざ教えなくてもいいよね。こっちがなんか聞きたいときは、雷から聞くし」
「ですね。ありがとうございました」
さて、じゃあ、帰りますか。
『何故、延長戦をしないの』
ジトっと不満そうな目で見てくるこっくり。延長戦はしたでしょ? みんなの前でやらされたじゃない!
『もっとネチネチとしたのが、飲み会における延長戦って聞いてたの!』
「期待はずれなの!」ってじたばたされても困るんだけど。そも、伝聞でしょう? その飲み会が酷かっただけじゃない?
『だって、論理の矛盾とかをぐりぐり甚振るのがセオリーらしいの』
駄々っ子が酷くなった。何で。こっくり、あんたそんなキャラじゃないでしょう?
『それはそう』
うわぁ! 急に落ち着いた。
『芽衣もキャラちげぇの』
それはそう。それは置いといて、ちゃんと本番の時に甚振られたけどね……。
『うん?あれは質問者が悪いの。質問がゴミ。たぶん、自分でも何が聞きたいか明確じゃない。だから、芽衣の答えも的外れになって、どんどんどんどん終わってる方向に話が進んだだけなの。気にするこたぁないの。ね?』
こっくりに同意を求められた雷も咲も頷いた。ふむ、二人が言うならそうなんでしょう。頑張って実験するわよー。