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第1章 第1話 人生逆転

 「足が速い男子はモテる」。この世界で最も有名な言葉だ。



 理由は単純。速ければ速いほどモンスターを討伐するのに時間がかからないからだ。加えて速度は威力に比例する。つまり足が速ければ、高威力の攻撃を高速で放つことができる。



 その指標として有効なのが、50m走である。今ではそのタイムがギルドカードにも記載され、そのままランクへと繋がっている。



 俺の50m走のタイムは0秒。0.1秒にすら到達することなく、駆け抜けることができる。



 そしてそのタイムは全世界のトップ。つまり俺は世界最速の冒険者。「神速のデオク・スピナー」という名が世界中で轟いていた。昨日までは。



「デオク・スピナー。お前を追放する」



 王宮に呼ばれた俺は、国王直々にそう告げられた。



「なぜかは、言わずともわかるな」

「はい……。私が脚に怪我を負ったせいです」



 先日のことだ。俺は鉄のダンジョンの最深部に棲むメタルドラゴンに左脚を斬り裂かれ、見た目こそ治ったがまともに左脚を動かせなくなってしまった。



 それは速度こそが身分を決めるこのスカー王国では致命的な傷。この対応も、理解できる。だが。



「私が怪我を負ったのはシェイミー姫を助けたからです。私が助けに入らなければ、こうなっていたのは姫の方。言うなれば命の恩人のはずです。その者を追放するというのは王族としていかがなものでしょうか。どう思われますか、シェイミー姫」



 俺は膝をつきながら国王の横に控えたまま何も言わない婚約者、シェイミー・スカイに目を向ける。



「その件については感謝しています。ですがそれとこれとは別。今は無能に成り下がったあなたの話です。神速を失ったあなたに何の価値があるのでしょうか。木こりの子で家族もおらず、何より足が遅い。次期国王となる私の婚約者としてふさわしくないに決まっているでしょう? こんな当たり前のことを言わせないでください」



 ……わかっていた。そんな言葉が返ってくることは。でも……!



「シェイミー! 俺はあなたと結婚するために今まで努力してきたっ! 平民の俺にも優しく声をかけてくれたあなたにふさわしい人間になるために全てを捧げてきたっ! 知ってるだろっ!? ずっと仲良くやってきたじゃないかっ! それなのに、こんなことで……!」

「だから慈悲をかけて国外追放は取り下げるよう父に頼みました。今後王宮には近寄らない。それで充分でしょう? 優しい私に感謝してください」



 紅い瞳が俺を見下ろす。白銀の髪とドレスが揺れる。攻撃的な魔力が渦を巻く。俺を敵として見定めて。



「シェイミー……俺は……!」

「そこまで言うのなら、一度試してみましょうか」



 シェイミーの手元にギルドカードが出現し、同時に赤い絨毯に白線が2本引かれた。



「50m走です。この世界ではそのタイムが全てを決める。0秒代なら婚約を認めてさしあげましょう」

「……わかった。『スピード』!」



 速度を上げる魔法をかけ、スタート地点に立つ。俺は世界を獲ったんだ。0秒代なんて、いくら脚を怪我していたといっても……!



「がぁっ!」



 駆けだした直後、足が追いつかずに倒れてしまう。右脚ばかりが前に進み、左脚が動いてくれない。



「くそ……くそぉ……!」



 何も持っていないと立ち上がることすらできない。俺を慕い、認めてくれた王宮の人々に見下ろされながら、嘲笑されながら這いつくばることしかできない。



「……100秒。今時子どもですら6秒を切るというのにこの体たらくとは……堕ちたものですね。二度と私の前に姿を見せないでください」



 侮蔑に満ちたその言葉を浴び、俺は追放された。シェイミーのために手に入れた世界を、シェイミーのせいで。



「く、そぉ……!」



 その数時間後、俺はまだ城下町を歩いていた。俺の速度にも負けないよう作られた名刀、白雲(しらくも)を杖の代わりにして。



 俺がのろのろ歩いている間に追放されたという話は巡り、至る所から嘲笑の言葉と侮蔑の視線が向けられる。みんな俺のことを英雄だと、伝説だと崇めていたのに。脚が動かなくなっただけでこの扱いか。くそ……くそ……!



「よぉ、デオク」



 惨めさと悔しさに苛まれつつも歩いていると、目の前から3人の男が声をかけてきた。3人とも魔法学校からの友人だ。魔法学校を卒業し、1年経ち16歳になった今でも仲良くしてくれている奴ら。シェイミーとも同級生だし、色々話を聞いてくれるだろう。



「悪い、家まで運んでくれるか。ここだと……ちょっと……」

「ああそうだな。『スピード』」



 3人が速度上昇の魔法をかけ、俺を運んでくれる。だが行き着いた先は家ではなく、人の寄り付かない路地裏だった。



「おらぁっ!」

「がぁっ!?」



 そして力のままに俺をゴミ箱へと投げ捨てる。見上げると、王宮の人たちと同じ視線が俺を見下ろしていた。



「なんで……なんでだよ……!」

「お前、うざいんだよ。世界最速だか何だか知らねぇけど平民の分際で調子に乗りやがってよぉ。ざまぁねぇぜ」



 俺たちが通っていた王立魔法学校は基本貴族しか入れない名門校。そこに俺は特待生として入ってきた。それが、気に入らなかったのか。友だちだと思ってたのは俺だけだったってことか。



「俺がいつ……調子に乗ってたんだよ……」

「乗ってただろ。速さに関係のない魔法を覚えたり、同時に魔法を使うなんて意味のねぇこと見せびらかしやがって。ま、そのおかげで職にはあぶれねぇかもしれねぇけどな。そっちの方がお似合いだよ。お前みたいな平民はな」



 確かに俺は速度関係以外の魔法も習得していた。だがそれはシェイミーの役に立つため。そして速度向上にもつながるからだ。



 ただ単に速度魔法を使うだけでは、0秒の壁は超えられない。そこで俺は複数の魔法の同時併用で速度向上、維持をしていた。



 その領域に行くまでは大変だった。学校では教えてくれないし、ほんの少しのズレが致命的なミスを生む。それを乗り越えて神速を手に入れたというのに。それも知らないお前らの方が、調子に乗ってるだろ……!



「くそぉっ!」



 俺はギルドカードを呼び出し、使える魔法を確認する。こんなことは想定していなかったが、多くの魔法を使える分動かなくても反撃することはできる。だが、



「ぎゃはははっ! 速さに勝てる手段がないからっ! この世界は速度が全てなんだろうがぁっ!」



 悔しいが、その通りだ。だから俺は、落ちこぼれだったこいつらに勝つことはできないだろう。それでも一矢報いるくらいは……!



「……は?」



 習得魔法一覧を確認していて、気づく。俺が何よりも気合を入れて鍛えた魔法、『スピード』。その効果が、「対象の速度を向上させる」というものだったことに。



「自分以外にも使えるのか……?」



 『スピード』の魔法は、この国の全ての人間が最初に学ぶ基本魔法。当たり前すぎて気がつかなかった。



 だがこれなら、できるかもしれない。



 この速さに囚われた世界を、覆すことが。



「『ルーム』!」



 俺がそう叫ぶと、路地裏が透明な立方体の空間に包まれる。本来これは野宿時に雨風を防ぐためだけの魔法。宿に泊まればいいだけなので誰も習得することはしない。だがこの空間に、



「『スピード』!」



 『スピード』の魔法をかける。これでこの空間にいる全てのものの速度が向上したはずだ。それを、逆転する。



「『トリック』!」



 これで、想像通りなら……!



「なんだ……!? 身体が動かねぇ……!?」

「どうなってんだくそっ!」

「どういう魔法だっ!?」

「……はは」



 やっぱり、そうだ。『トリック』は魔法の効果を反転させる魔法。毒抜きなどに使われる回復、防御系の魔法だ。攻撃なんて当たらなければいいという教えのこの国の人間は、決して学ばない魔法。だがこれが功を奏した。



 速度が上がる空間の効果を、反転。すなわち速ければ速いほど、遅くなる。そして遅ければ遅いほど、だ。



「にしてはそれなりに動けてんじゃねぇか。やっぱりお前ら落ちこぼれだな」



 ゆっくり進む3人の前に瞬間的に移動する。全盛期には遠く及ばないが、2位以下は軽く凌いでいるだろう。つまりは依然、俺が最速。



「ま……待て……俺たちが悪かった……!」

「ゆ、許してくれっ!」

「俺たち友だちだろぉっ!?」

「……ああ、そうだな」



 俺の動きを目で追えなかった奴らが何か喚いている。でも。



「お前らを許したら、俺は誰にも復讐できなくなる」

「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」」



 鞘に納めたままの剣を振るい、動けない3人を一気に斬り伏せる。死んではいないだろうが、気絶は必至だろう。速度は威力に繋がるから。



「はぁ……」



 一度空間を解き、ギルドカードを確かめる。0秒だったタイムは100秒へと変わっている。だがこの魔法を使えば。



 『スピード』と、『トリック』と、『ルーム』。三種の魔法を使った、この世界の理とは逆を行く魔法だから……。



逆転層(トリニティワールド)



 そう唱えると、再び路地裏が速度反転の空間に包まれる。だが、



「……40mくらいか」



 俺の習得レベルでは直径40mが限界。50m走ができるまで領域を展開することはできない。だから依然タイムは100秒。それでもだ。



「復讐……してやる……!」



 あんなに愛し合っていたのに。あんなに媚を売っていたのに。動けなくなった瞬間俺を捨てたシェイミーとこの世界そのものに。



「逆転してやるっ!」

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