ザード村
ザード村
翌朝は不思議な目覚めだった、周りはうっすらと魔法の灯りの反射で天井が光り輝いているが、それ以外は暗闇のまま、目が覚めても朝なのか夜なのかはわからないが。
魔光石の交換の時間が来たのか係の村人が設置してある灯りを交換して回る。
魔光石は交換した後、専用の箱にしまっておくと約一日で又光るようになるらしい、便利な道具だ。
一行は起きだすとそれぞれに、朝のルーティーンを始める、まずは朝食の用意を始める者、体操を始める者と様々だが。
私たちはマリーのストレージから食料を出してもらうとテーブルに並べ取り分ける。
「腐らないのか、便利だな」ドーン
「ストレージ魔法でも使えれば同じことができると聞くけど」アリスリア
「上級魔法を使えないと難しいと聞きますね」マーベル
マリーのストレージはスキルなので魔力を使用するわけでは無く、彼女が意識すればどんなものでもストレージにしまえるらしい。
だがその大きさにはやはり限界があると言う彼女が運べるのは荷車3個分だそうだ。
軍が雇った荷運び人夫にストレージ持ちはいないが中にはマジックバッグという入れ物を所有している者もいて、こちらは荷車1台から2台分を入れることができると言う。
殆どの人夫はその背に大きな荷物をしょっているのが普通だ。
朝食が終わると近衛隊の隊長の号令で次のザード村へと行軍を始める。
「朝食が終わったなら持ち物を点検、10分後次の村へ出発する遅れるな」隊長
セカンダ村からは又洞窟を進んで行く、途中で何本もの道へと分かれていくが地図を頼りに洞窟を進んで行くと地下だと言うのにそこには湖があった。
「わ~きれ~」
「地底湖か…」ドーン
「ここがちょうど真ん中ぐらいだよ」マリー
「この水は飲めるの?」
「あ~やめておいた方が良いよ」
「やっぱり飲めないんだ」
「この湖には主が住んでいるんだよ、水辺に近寄ると食べられちゃうよ」
地底湖の主は一応魚と言う事だが、その大きさは5メートルを超えるらしい。
その魚の口は1メートル以上あり人が近寄ると岸まで飛びつき引き摺り込まれると言う。
勿論1匹だけではなく、最低20匹はこの地底湖に生息しているらしい。
さらにその魚を食べて生きている大きな恐竜がいると言う話まであるらしい、いわゆる水竜と言われる竜種。
湖は縦1k横2kでその真ん中には柱のようなものが数本湖の中から天井まで伸びて居る。
常に天井から水がしたたり落ちているところを見ると、どこからか雪解けの水がこの地底湖にしみ出ている事が分かる。
そして真ん中の柱のたもとには、誰がそこまで行って供えたのか祠のようなものが見えた。
「あれって?」
「あれはこの湖を最初に見つけた修道士がこさえたもんだよ」
「どうやってあそこまで行ったんだい」レドラ
「あ~なんでも空を飛んで行ったらしいよ、嘘か本当かわかんないけどね」
湖の中が危ないならばそれしか考えられないが、それにしてもなんであんなところに。
「キューキュー」
「オーちゃんの仲間だって言ってる」
【そういえばわしも昔聞いたことがある】ボルケール
「地下に住む水龍の話だったわね」ジャクライン
確かに空を飛べる竜種ならばそれは可能だし、魔法であそこまで行く事もできなくはない。
「どうやらあの祠はここに住む水龍を地上へ出さないための封印らしいね」アリスリア
「それじゃあかわいそうかも」
「キュー」
「そうなんだ、悪さをしたので封印されてるんだって」
「あ~又やばそうな話になってきた」ドーン
その時だった湖の真ん中から水柱と共に青い胴体をした大きな体が湖の上に現れた。
「でかい!」
その姿は水龍そのものボルケールと違い胴体の表面はなだらかで、顔に当たる部分も流線形。
だがその鼻のあたりからはひげと呼ばれる触覚が伸びており頭の部分には毛が生えている。
どうやらこの人数で行軍している私達の人の臭いか、それとも足音を感じて出て来たらしい。
その竜が水面を叩くたび、地底湖に生息している魚も飛び出してくる。
「ウオッ!こっちへ来るぞ、下がれ!」
数匹の魚が水面から飛び出し、運悪くこちらへと突き進んでくる、そして案の定それを追って水龍が突っ込んできた。
【任せろ】
「まずいわ皆離れて!」ジャクライン
ボルケールが服を放り捨て変身する、彼の姿はあっと言う間に本来の火竜へと変わっていく。
その大きさは水龍と変わらないぐらい大きい。
【グオ~~】
一行がいる岸へと魚を追い突っ込んでくる、ボルケールはまず魚をその鍵爪ではたいてよけると、次に水龍の体をがっしりと掴んだ。
「ガオ~」
「キャウ~~」
その後は怪獣の戦いになると思った、まあボルケールがいてこれほど助かったと思ったことは無い。
【ギャオウ】
「ギャギャ」
ドン!バシャン!バシャン!
「す すげ~」マリー
水龍が水面を叩き水しぶきが上がる、少し落ち着いたと思ったその時ラポーチの頭の上で様子を見ていた聖竜オーパがその小さな羽をパタパタと羽ばたかせると、水龍の頭の上へと乗っかる。
「キューキュー」
「ありゃなんて言ってんだい?」
「もう出してあげるって」
「え~!」
「彼女はもう千年以上ここに閉じ込められているって、出してって言ってる」
聖竜が何回か鳴くと水龍も鳴き声を上げる、その間ボルケールは水龍の体を掴んだまま動かない。
どうやらボルケールにも話の内容は分かったらしい。
数分してボルケールがその手を離すとおとなしくなった水龍が水面から頭を3メートルほど出したままこちらを向きお辞儀をする。
そしてこちらへとやってきた
「ギャーギャー」
「約束だって、祠の魔法を解いてくれれば一緒に行くって、もう悪さはしないって」
「キューキュー」
「オーちゃんも大丈夫だって」
「でもどうやって魔法を解くんだい?」
「それは私の仕事だって」ラポーチ
ラポーチが水龍のところまで歩いていくとその頭を地面にこすりつけ頭の上に乗るよう勧める。
「ちょっと行ってくる」
「ちょと大丈夫なの?」アリスリア
「大丈夫だよ」
そういうと水龍の頭に乗り頭に生えた毛を掴むと、水龍はゆっくりと湖の中へと入っていく。
聖竜のオーパもパタパタと飛ぶと又ラポーチの頭の上へと飛び乗る。
数分してラポーチたちは祠のある島へと到着し、願いの言葉を祠に向かって投げかける。
「この者の贖罪は永き封印により終わりを迎えました、罪は今解かれこの者の自由をここに祈ります、フリーダム」
ラポーチのその言葉で辺りが光り輝き一瞬湖が星のようにきらめいた、すると次に水面から一斉に魚が空中へと飛び出す。
その大きさは先ほど見た魚の大きさではなく、50センチほどの魚となっていた。
「え~~!」
見ていたものはその変化にびっくり、ラポーチもジャクラインもマリーもそれを見てびっくりした。
この地底湖に封印された水龍は逃げ出すことができなくなり閉じ込められた、そうしたのは水龍が以前海を荒し人にも海の生物にも危害を加えたせいでもある、時の聖女は水龍を殺すよう頼まれたが、聖女は命を奪うためにこの世に顕現したわけでは無い。
どの聖女も人を生き物を助けるためにこの世に姿を見せる、水龍も悪さをしたのは自分の住処を荒されたのがきっかけでもある、同胞を殺され住処を追われ復讐を誓った、海の仲間を犠牲にしてまで。
聖女は転移魔法を使い水龍をこの地底湖に移動させた、だがそれだと水龍は生きていけない。
聖女は彼女に罪を償わせ反省を促すためにこの地底湖へと転送魔法で連れて来た。
一つは封印の魔法、もう一つは魚の巨大化魔法。
水龍、その大きな体で生きていくには当然だが食べ物が必要だ、長き時をかけて反省させるには2つの魔法を使い水龍をこの地にとどまらせる必要があったのだ。
湖に住む魚は魔法で大きさを変えられていた、そうしないと水龍が生きていくことができないから。
水龍の一族はもう彼女しかいないのだから。
「ギャギャウー」
「キューキューキューキュキュキュー」
(ありがとうございます)
(これであなたは自由です、でもあなたは一人では生きていけない、私たちに付いてきなさい)オーパ